2013年3月1日金曜日

応用行動分析 applied behavior analysis




概略

スキナー(Skinner,B.F.)による実験的行動分析で見出された変数を用いて、人間の問題行動の分析と修正を行う技法。
行動修正学と同義でも使われており、しばしば行動療法におけるオペラント条件付け療法の適用に関して用いられることがある。
主に三項強化随伴性のモデルにしたがって行動の連鎖を分析し、刺激と強化子を操作することによって行動の変容を目指す。



実験的行動分析

スキナーの提唱する徹底的行動主義に基づいて、行動分析が行われてきた。
科学としての行動分析は、有機体の行動の予測と制御を目標としており、観察可能な有機体の行動(従属変数)と外界の出来事(独立変数)の関係を明らかにしようとしている。
ラットやハトを被験体として動物実験の分野から始められた。



オペラント訓練

報酬訓練 reward training
一般に好ましい行動に対して正の強化を与える
 ex: トークン・エコノミー法

・離散施行型 discrete trial
 反応することが可能である施行(trial)と、反応することが不可能である施行間間隔(inter-trial interval ; ITI)が明確に分離されている
 ex:直線走路、問題箱、迷路、ラシュレー跳躍台、
   試行の明確化された強化スケジュールを用いた訓練など

・自由反応型 free operant
 試行が明確化されていない強化スケジュールを用いたオペラント条件付けの大部分が相当する。
 ex:スキナー箱を用いた訓練など、訓練の単位となる明確な思考というものは存在せず、つねに反応することが可能とされていることが多い


 
 
除去訓練 omission training
省略訓練とも訳され、好ましくない行動に対して正の強化を除去する
つまり、訓練期間中は、特定の望ましくない行動の生起がなければ報酬が与えられ、生起した際にはいっさい与えないようにする手続により、その生起を低め、最終的には消失させることを目的とする。
消去手続きとの相違点は、ターゲットとなる行動が生起しないことに対して報酬が与えられる点である。
代わりとなる適切な行動の生起頻度が高まるための訓練と併用することで行動変容の効果が高まる。
 
 
 
  ex: タイム・アウト法


逃避訓練  escape learning

オペラント条件付けの一種で、経験により、嫌悪刺激が呈示されてから逃避反応がなされるまでの反応潜時が短縮されていく学習過程のこと。
回避学習手続きと組み合わされて逃避・回避学習として検討されることが多いが、必ず嫌悪刺激呈示が伴う単独の逃避学習自体も用いられる。
逃避反応の潜時は一般に少数試行で急激に短縮するとされているが、種に特異的な防衛反応と大きく異なる反応が要求される場合には、この限りではない。


回避学習 avoidance learning

オペラント条件付けの一種で、経験により回避反応を形成させていくこと。
魚、鳥、哺乳類などで回避学習の研究が行われているが、求める回避反応が種に特異的な防衛反応と大きく異なる場合には学習が難しくなるとされている。
回避学習はいったん形成されると電撃を受けないまま長期にわたって反応が維持されるので理論的興味を呼び、二要因説(two-factor theory)などの理論が提出された。
実験例:ハードルで仕切られた二つの部屋の片方にラットを入れ、床から電撃を与えると、
     さまざまな反応の後にラットはもう一方の部屋に逃避する。
     電撃呈示前に警告信号として光刺激を呈示する手続きを繰り返すと、
     警告信号が呈示されると電撃呈示前に移動する(逃避する)ようになる。

トークン・エコノミー token economy



概略

行動療法の中のオペラント条件付け療法の一種。
望ましい行動をした患者に対し、正の強化子である代用貨幣のトークン(token)を与えることでその行動の強化増大を図る。
トークンが一定量に達すると、患者は特定の物品と交換できたり特定の活動を許されたりする。
このように、トークン・エコノミーは二次的強化の機能を果たす。
治療場面では一般にシェイピングの併用が効果的とされている。



参考

レスポンス・コスト法 response cost
 ある行動を行った際に、本来なら与えられるべき性の強化子を与えられない事態に遭遇すると、その行動をとる頻度が低下する、という原理を用いたオペラント条件付け療法の一種。
トークン・エコノミー法で条件性強化子となったトークンを取り上げることで嫌悪的な事態を与える。
有効に強化子を操作するための工夫である。

2013年2月28日木曜日

トップダウン処理 / ボトムアップ処理 top-down processing / bottom-up processing



概略


認知心理学における情報処理アプローチで、ノーマンら(Norman,D.A. & Bobrow,D.G.)によって提唱された人間の能動的な情報処理の対極的ともいえる2種類の仕組み。

トップダウン処理とは、概念駆動処理(conceptually driven processing)ともよばれ、既有の記憶に依存することが大きく、高次の水準にある概念や理論などから駆動され、入力データを予想や仮説、期待などのもとに処理していく。
仮説演繹的に文脈による期待や知覚の構えから全体を想定して、部分的な構成要素を推測していくもの。
これに対してボトムアップ処理とは、データ駆動処理(date driven processing)ともよばれ、感覚入力データ群によって駆動され、それを扱い処理するスキーマを見出し、それらのデータはより上位の概念や枠組みに取り込まれていく。
分析―帰納的に感覚レベルでの部分的情報処理から全体像を推測していくもの。
すなわち、両方の仕組みでは、人間の知識や記憶の構造体であるスキーマ群と感覚情報からのデータ群とが、相互にやり取りする空間的な場が存在することが想定されており、ここで相互の間で、比較、照合、検証などがなされ、重層的に情報処理されることが前提となっている。


 
 

2013年2月27日水曜日

ゲシュタルト / ゲシュタルト心理学 Gestalt / gestalt psychology



概略

ゲシュタルトとは、形態や姿を意味する言葉であるが、ゲシュタルト心理学においては、要素に還元できない、まとまりのある一つの全体がもつ構造特性を意味する。
知覚の全体性や場の理論を重視する立場である。
ウェルトハイマーを創始者としてドイツで誕生し、ヴントに代表される要素主義の考え方を否定した。
ウェルトハイマーは仮現運動の実験を通してゲシュタルトの考えを実証し、視野の中で対象が分離し、それらがまとまって群を作る体制化の過程、および分離や群化が簡潔・単純な方向に向かって起こるというプレグナンツの傾向が秩序ある知覚世界を成立せしめていることを図形例を用いて説いた。
ゲシュタルトの概念は知覚のみならず、記憶、思考、要求と行動、集団特性等、広く心的過程一般に適用された。




定義

要素に還元できない、一つの全体が持つ構造特性であるゲシュタルトの概念を媒介とした、物心一元論的現象学的心理学



代表人物

ウェルトハイマー Wertheimer,M.

ゲシュタルト心理学の創始者。
仮現運動の実験結果から、ゲシュタルトの考えを実証した。
さらに、視野の中で図と地が分化し、さらに図がまとまって群をつくる体制化の過程、およびそれらが簡潔・単純な方向に向かって起こるというプレグナンツの傾向が、秩序ある知覚世界を成立させていることを図形例を用いて説いた。


ケーラー Köhler,W.

ゲシュタルト心理学の中心人物の一人。
物理学の場理論に精通しており、ゲシュタルト性が心的現象ばかりでなく物理的世界にも存在し、
広い意味での物理法則が支配する中枢神経系と現象世界の間には対応関係が成立するはずであるとする心理物理同型説を展開し(1920)、後年、図形残効などの研究によってそれを支持する証拠を追及した。


コフカ Koffka,K.

ゲシュタルト心理学の中心人物の一人。
知覚―ゲシュタルト心理学序論』(1922) …ゲシュタルト理論を初めて紹介した論文
ゲシュタルト心理学の原理』(1935)…理論の体系化を目指した大著
 ⇒心理学を行動の科学とすること、心理物理同型説の立場をとるとはいえ、
   生理的対応過程の追求よりも現象ないし行動の世界の分析を重視するとした。
   その際、行動を刺激への反応の集合としてではなく、部分の変化が他のすべての部分に
   影響を与えるような力学的系としての場に依存して生じると考える。


レヴィン Lewin,K

物理的な環境とはなかば独立した心理学的な存在である生活空間の概念を用いて行動を理解しようとし、トポロジー心理学と呼ばれる力学的な理論を提起した。
場理論グループ・ダイナミックスの研究などが代表。


key words

ゲシュタルト gestalt

ドイツ語を語源とし、形態と訳される。
体制化された構造(organized structure)、要素に還元できない、一つの全体が持つ構造特性であり、集合体(aggregate)やたんなる総和(summation)とは区別されるものをいう。
体制化の結果を記述するのに用いられるだけでなく、過程そのものの構造的な特性をも示している。


プレグナンツの傾向 Prägnanztendenz

一般的にはプレグナンツの法則または原理と呼ばれる。
ウェルトハイマーが指摘した、体制化が簡潔・単純な方向に向かって起こる傾向をいう。
視野は全体として最も簡潔な、最も秩序あるまとまりをなそうとする傾向がある。
しかし簡潔でよい形(gute Gestalt)のまとまりとは必ずしも規則的や相称的を意味するものではなく、「知覚の体制化における単純で統一的な結果を実現させる傾向」を意味する。


仮現運動 apparent movement

物理的運動が存在しないにもかかわらず知覚される見かけの運動。
狭義には対象A、Bを適切な時間間隔をおいて、異なる地点に交互に呈示するとき知覚される対象の運動。
映画や踏切の警報器などで観察される。


要素主義 elementalism

心の世界を究極の構成要素に分解してその結合の法則を明らかにしようとする立場。
人間の心理現象は要素の総和によるものであり、視覚・聴覚などの刺激には、個々にその感覚や認識などが対応しているという考え。
ゲシュタルト心理学以前のすべての実験心理学がなんらかの意味で要素主義を暗黙の前提にしている。
意識心理学以外でも、パヴロフの条件反射学や行動主義の刺激反応学説(S-R説)など近代心理学の多くがこの立場である。



2013年2月20日水曜日

催眠 hypnosis



概略


言語暗示によって人為的に引き起こされた意識の変容状態のことで、18世紀後半にメスメル(Mesmer,F.A.)動物磁気という名前で心理療法として初めて催眠を使用した。
催眠には催眠状態と呼ばれる意識状態と催眠暗示現象の2つの大きな側面がある。
催眠の意識状態は催眠性トランスとも呼ばれ、変性意識状態の一つである。
催眠暗示現象には代表的なものとして、運動性の暗示現象、知覚性の暗示現象、人格性の暗示現象などがあり、これらの暗示現象が引き起こされている状態を催眠性トランス状態という。
催眠性トランス状態を演技的に行うことは可能だが、暗示現象は演技と異なり、その人自身には自分が行っている感覚がない。
催眠状態の特徴として、イメージが活性化されること、心身のリラックス状態が得られること、注意集中が受動的でかつ狭くなることなどがあげられる。
催眠に誘導するためには暗示が重要であり、催眠療法では通常、催眠誘導のために決まった一連の暗示系列がある。



定義

言語暗示によって人為的に引き起こされた意識の変容状態



人物
F.A.メスメル Mesmer,F.A.

ウィーン生まれの医師で、18世紀後半に動物磁気という心理療法で催眠を初めて使用した人物。
動物磁気療法はメスメリズムとも呼ばれる。

J.ブレイド Braid,J

イギリスの医師。
眠りを意味するギリシャ語hypnosから催眠hyponosis』と名付けた。
言語によって催眠現象を引き起こす言語暗示法を創始し、これは今日の催眠療法の基本形である。




key words

動物磁気 animal magnetism

ウィーンの医師メスメル(Mesmer,F.A.)は1766年に発表した「人体におよぼす遊星の影響について」と題する論文の中で、遊星の影響と物理学における時期の概念に着目し、人体の中に磁気の両極を仮定し、磁気分布が適当でないときに病気が生じると考えた。
一定の状況下でカタレプシーを生じさせるものであったと言われ、彼の理論はメスメリズムとよばれ、催眠研究の端緒であると考えることもできる。


トランス trance  
何らかの方法で普段の意識状態と著しく異なる状態が覚醒中に生じるとき、その意識状態をトランスという。
目の前で起きた出来事についての意識の狭窄や個人的同一性の感覚の一時的喪失、運動活動や発話の減退がみられ、被暗示性も強まっている状態。
極端に興奮を高めることによって生じるものと、極端に興奮を鎮めることにより生じるものがある。
前者は原始宗教やシャーマンなどにみられる憑依状態や脱魂状態であり、
後者は瞑想状態などが例としてあげられる。
トランスは薬や催眠によっても生じる。


催眠性トランス hypnotic trance
催眠の意識状態で、理性的思考が減少し、象徴的思考やイメージ思考などが顕著になる。
さらに現実的関心が減少し、自己感覚に浸り、その感覚を世界空間にまで広げていくような特徴を持っている。


暗示 suggestion

対人的な影響過程の一種で、認知・感情・行動面での変化を無批判に受け入れるようになる現象、またはそのような現象を引き起こすための刺激、その際の心理過程をいう。
言語によって与えられることが多いが、ジェスチャーによるなど非言語的なものもある。
催眠状態に誘導してさまざまな現象を引き起こすには必須のものであるが、催眠そのものではない。
通常の覚醒状態で与えられる覚醒暗示と、催眠状態での催眠暗示などが区別される。



催眠暗示現象 例

・運動性の暗示現象
  四肢が動く / 動かない、固まる  など

・知覚性の暗示現象
  痛み・温感・味覚・聴覚・触覚などにおける変容
  特に身体知覚における暗示現象は生じやすい

・人格性の暗示現象
  年齢退行、健忘、自動書記、人格交替、後催眠暗示  など



ヒルガード Hilgard, E. R.による催眠現象の特徴

 ①企図機能の低下
 ②注意の再配分
 ③過去の記憶の視覚的利用が可能で,空想や創作の能力が亢進する
 ④現実吟味の低下および持続的な現実歪曲に対する耐性
 ⑤被暗示性の亢進
 ⑥役割行動
 ⑦催眠中の体験についての健忘

 つまり催眠とは、暗示によって人為的に引き起こされた特異な心身の変性意識状態(トランス)と被暗示性亢進の状態である。



成瀬悟策による催眠法における3条件
 ①催眠誘導の過程に生じる諸現象に関すること
 ②催眠状態(トランス)そのものに関すること
 ③催眠状態での機能や効果に関すること



催眠療法 hypnotherapy

催眠を用いた心理療法で、18世紀後半のメスメルの動物磁気療法によって始まった。
現代における催眠療法は三つに分類できる。

暗示性催眠療法
  催眠現象のなかの暗示の特徴に強調点がおかれた催眠療法。
  M.H.エリクソンの影響によって、求める状態を直接的に暗示する直接暗示ではなく、
  別の状態を媒介させることによって求める間接暗示が用いられることが多い。

リラックス催眠療法
  催眠の意識状態に重点を置いた利用方法。
  催眠状態では、現実的な事柄からの解放がある。
  この特徴である心理的安全地帯に誘導することによって、治療をしていこうとする方法。

イメージ催眠療法
  イメージの側面に重点を置いた催眠療法で、イメージ療法と呼ばれることも多い。
  イメージ空間の中での体験が重要視され、体験を深めることによって
  体験の変容を求める方法や、精神分析的考え方で進める方法、
  ユング心理学的考え方で進める方法、行動療法的考え方で進める方法など、
  さまざまな具体的方法がある。

総合的に催眠療法では、体験、メタファ・象徴や心的流れを重視しているという共通した考え方がある。


 自己催眠 self-hypnosis ; autohypnosis

一般に催眠と呼ばれるときは、催眠にかかる人に対して催眠をかける人を必要とする。
しかし、自分自身に催眠現象を生じさせることが可能である。
催眠者を他者に求めない自己催眠と、他者を必要とする他者催眠がある。
自己催眠の代表的な例として、シュルツによって体系化された自立訓練法(autogenic training)が挙げられる。

2013年2月19日火曜日

対象関係論 object relations theory



概略


精神分析理論の一つで、自我と対象の関係(内的対象関係)のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。
前エディプス期の段階での母子関係における自我の発達を対象関係として扱う理論である。
自我は本来、対象希求的なものであるとし、自我と対象との関わりを一義的なものとして考える。
乳児の内的対象関係は、自己と他者の区別のない自己愛的対象関係から、対象の一部を認識する部分的対象関係段階を経て、統合された全体的対象関係へと発展する。
そしてその段階に応じて対象との間にさまざまな不安を体験していく。
この理論をめぐって個人の現実適応を重視したA.フロイトらの自我心理学との論争が起こった。
対象関係論は原始的防衛機制に着目したM.クラインや、移行対象などの概念を提唱したD.W.ウィニコットらによって発展させられていった。




定義

前エディプス期の段階での母子関係における自我の発達を対象関係として扱う理論。
自我と対象の関係のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。



代表的人物

M.クライン Klein, Melanie

精神分析家で対象関係論の創始者。
S.フロイトの内在化の概念を発展させ、内的対象の概念を提唱し内的対象関係を重視した。
また、転移を内的世界の外在化としてとらえた。
妄想-分裂体制抑うつ態勢の概念や、分裂機制による良い内的対象と悪い内的対象の分裂を提唱した。
前エディプス期における子どもの精神発達に焦点を当て、原始的防衛機制の解明に貢献し、
今日の対象関係論の発展の基盤を作った。
児童分析をめぐってA.フロイトと激しい論争を展開した。


D.W.ウィニコット Winnicott, D.M.

内的で主観的な世界と外的で客観的な環境要因とのかかわりを重視し、相互の橋渡しを軸とした概念や理論を展開し、抱える環境の失敗から精神病理を捉えた。
分離不安に対する防衛として移行対象の概念を提出し、移行対象を幼児の錯覚が脱錯覚されていく過程における代理的な満足対象として捉えた。
また抱える環境の失敗による不安が、子どもの本来の自発性と創造性を犠牲にする迎合的な偽りの自己を発達させることを明らかにした。


M.バリント Balint, M.

言語に古典的精神分析では扱うことが難しい、治療関係において原初的な母子関係が現れるクライエントの特性として基底欠損をあげ、主に境界例患者における対象関係の重要性を指摘した。


W.R.D.フェアバーン

 ⇒ウィニコットやフェアバーンは、A.フロイトとM.クラインの論争のどちら側にも積極的に味方をしなかったため、英国独立学派と呼ばれる。



key words

内的対象関係
 外的な対象に加えて、個体の精神内界に形成される内的対象との間で発展する対象関係

妄想‐分裂態勢
 堅固なナルシズムが支配的で、部分対象関係による妄想的不安と分裂機制が作動する状態。
 内的対象は良い内的対象悪い内的対象に分裂している。

抑うつ態勢
 全体対象関係が成立して対象の価値を認める状態だが、そのために母親からの分裂に伴う不安が生じる。

2013年2月15日金曜日

防衛機制 defense mechanisms ; mechanisms of defense



概略


不快な感情の体験を弱めたり避けることによって、心理的な安定を保つために用いられるさまざまな心理的作用で、無意識的に発動する自我の働き。
この働きは、本能的欲求(イド)とそれを満たすことのできない現実(超自我)との間に葛藤が起きたとき、極端な自信喪失や不安などによる人格の崩壊を防ごうと無意識的に行われる。
誰にでも認められる正常な心理的作用で、通常は他のものと関連し合いながら作用する。
不安や不快を回避して状況に適応するための手段として我々の日常生活において意義をもつといえるが、特定のものが常習的に柔軟性を欠いて用いられると、病的な症状や性格特性などの不適応状態として表面化することになる。
S.フロイトは、受け入れがたい観念や感情を受け流すために無意識的にとる心理過程を防衛と呼び、また苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい観念や感情が無意識に抑圧されるとし、この抑圧を自我の防衛として捉えられた。
自我の防衛の概念は、A.フロイトによって防衛機制として体系化され、また、M.クラインは子供の治療の経験を通して原始的防衛機制を明らかにした。



定義

不快な感情体験を弱めたり避けることによって心理的安定を保つために無意識的に用いられるさまざまな心理的作用。


提唱者

 S.フロイト Sigmund Freud
  苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい観念や感情を受け流すために
  無意識的にとる心理過程を 防衛 という用語で1894年に初めて記載。

 A.フロイト Anna Freud
  防衛機制論を発展をさせた。
  防衛機制自体には健康的な側面もあり、自我の健康な働きを強調し、
  精神分析的自我心理学の基礎を作った。

 M.クライン Klein Melanie
  前エディプス期における子どもの精神発達に研究の焦点を当て、
  原始的防衛機制の解明に貢献し、今日の対象関係論の発展の基盤を作った。




防衛 defense
 S.フロイトに由来する精神分析理論の中心概念のひとつ。
強い葛藤を感じたり、身体的・社会的に脅威にさらされたり、自己の存在を否定されたりというように自我が脅かされたとき、直接的な欲求の充足を求める衝動に対抗するとともに、不安の発生を防ぎ、心の安定と調和を図るためにとられる自我による無意識の調整機能を防衛と言い、また、そのためにとられる手段を防衛機制という。




代表的な防衛機制


抑圧 repression

一番基本的で重要なメカニズムである。
自我の代表的な防衛機制で、受け入れがたい観念、感情、思考、空想、記憶を意識から締め出そうとする無意識的な心理的作用。
抑圧された内容は夢、言い間違いなどの失策行為、白昼夢、症状などのなかに現れるとされる。
意識的に行う抑制suppressionとは異なる。


反動形成 reaction formation

受け入れがたい衝動や観念が抑圧されて無意識的なものになり、意識や行動面ではその反対のものに置き換わること。
 例:憎しみの感情に代わって愛情だけが意識される
    拒否感を否定するために子どもに過保護になる  など


退行 regression

以前の未熟な段階の行動に逆戻りしたり、未分化な思考や表現の様式となること。
過去の発達段階に戻り、その段階で満足を得る。
不随意的で非可逆的な病的な退行と、遊びや睡眠などのより健康的で創造的な退行とが区別される。
精神療法の過程で治療力動との関わりにおいて起こる退行である治療的退行(therapeutic regression)が必須のものと考えられている。
 例:弟・妹の誕生後に夜尿や指しゃぶりが再発する など


置き換え displacement

ある表象に向けられていた関心や精神的エネルギー(カセクシス)が、自我にとってより受け入れやすい、関連する(連想上結びつく)別の表彰に向けられることをいう。
転換や昇華、感情転移といった機制のなかにも置き換えが含まれている。
S.フロイトによって神経症の症状形成の一つ、また夢の心的規制の一つとして取り上げられている。


投影 projection

受け入れがたい感情や衝動、観念を自分から排除して、他の人やものに位置づけること。
自分の欲求や感情を、相手のものと考える。
正常な心理過程でもみられるが、より病理の重い場合に現実吟味能力の低下を伴ってしばしば生じる。
投影法検査の理論的根拠ともなっている。
 例:自分が嫌っている人がいる場合に、相手が自分のことを嫌っているように感じる


隔離 isolation

欲求や感情と対象との関係、思考と感情のつながりなどを切り離すこと。
苦痛な体験を語るときに、感情が伴わない(感情を記憶から切り離す)など。


否認 denial

外的な現実を拒絶して、不快な体験を認めないようにする働き。
子どもが強いヒーローであるかのように空想したり振る舞うことで、自分が無力であることから目をそらすような場合に用いられる。
軽度なものは健康な人にもみられるが、重篤なものは精神病的な状態で生じる。
臨死患者などの場合にも、自分の病気の受容体験の一段階として生じる。


同一視(同一化) identification

自分にとって重要な人の属性を自分のなかに取り入れる過程一般をさして用いられる。
発達において重要であり、社会・文化への適応力や、アイデンティティ確立の基礎が築かれる。


取り入れ(摂取) introjection

他者の好ましい諸属性を自分のものにしようとする働き。
    (好ましい性質を取り入れて同一化する。)
同一視(同一化)が生じる前段階と考えられている。
健康な精神発達の上で重要な役割を果たす一方、自他の区別があいまいになる場合もある。


合理化 rationalization

葛藤や罪悪感を伴う言動を正当化するために社会的に承認されそうな理由づけをおこなう試み。
論理的な理由をつけて合理的に説明する。
実際には抑圧されている願望から生じる行動を説明するために、事実ではないが得心のいく、または自分の為になる理解が作り出される。
 例:「すっぱいブドウ」 (イソップ物語 キツネの言い訳)
    失敗を偶然的な原因に帰す場合
    言動の責任を外的な要因に求める場合  など


昇華 sublimation

性的欲求や攻撃欲求など社会的に許容されない本能的・反社会的な欲求を、文化的社会的価値のあるな行動に変容し充足させること。
置き換えを基本とする機制である。
他の機制とは異なり、欲求は抑圧されることなく、現実に取り組むエネルギーとなる。
  例:性的欲動や攻撃性などのエネルギーがスポーツや文化・芸術活動などに向けられること


知性化 intellectualization

本能・衝動をコントロールするために、情緒的な問題を抽象的に論じたり、過度に知的な活動によって覆い隠すようなことで、青年期に顕著にみられる。
観念や思考から感情を分離する防衛機制である隔離(isolation)とともに作用する。
 例:性欲や攻撃性(本能的欲求)の高まりをかわすために哲学や宗教に没頭する。


投影性同一視 (*原始的防衛機制

過剰な投影で、自己の部分を対象の中に押しやり、対象を支配する。
自分の中にあるネガティブな側面を相手の中に見出し、そこを刺激して相手がそのネガティブな側面を表に現すように無意識に働きかけること。


分裂 splitting 原始的防衛機制

欠点も長所も含めて1つの人格だということを認識できなくなること。
良いか悪いかという二項対立的に物事を判断してしまう。
この原始的防衛機制を用いると自己像も不安定になりがちになる。
 例:怒られているときの母親と大切にしてくれる時の母親を統合せず、悪い母親と良い母親とし 
     別々の存在として扱う

*自我の分離‐個体化が達成される以前にみられる防衛機制



防衛機制自体は誰にでも認められる正常な心理的作用で、通常は単独ではなく他のものとともに関連し合いながら作用する。
しかし、特定のものが常習的に柔軟性を欠いて用いられると、病的な症状や性格特性、人格構造となってさまざまな不適応状態として表面化することになる。
発達の段階や病理の重さに対応して、成熟した防衛、神経症的防衛、心像歪曲的防衛、未熟な防衛、精神病的防衛に分類されることがある。

病理の理解には、用いられる防衛機制の種類だけでなく、そのもとにある衝動や葛藤(コンフリクト)の強さ、自我機能の統合度、対象関係の質といった諸側面から吟味する必要がある。

2013年2月11日月曜日

人間性心理学 humanistic psychology


概略


人間を無意識に支配されているとする精神分析や、外的環境に支配されているとする行動主義に対して、人間を自由意志を持つ主体的な存在としてとらえる立場。
個人の独自性と自由性を重視し、個人への共感的関与を特徴とする。
アメリカでは1960年代以降、西海岸を中心にして急速に広まった。
マズロー(Maslow,A.H.)はこれを、精神分析と行動主義の二大勢力に対して第三勢力(の心理学)と呼んでいる。
人間性心理学に基づく心理療法はクライエントの主体性と自由を強調し、治療へのクライエントの責任を明確にし、それまでの心理療法各派への大きな影響を与えた。
実存主義的心理療法も人間性心理学として分類されることがある。



代表人物 例

 A.H.マズロー(Maslow,A.H.)
  自己実現の概念の提唱者。
  階層的動機論で自己実現欲求を明らかにし、欲求階層説を提唱した。
  また、人間性心理学の立場を第三勢力と呼んだ。

 C.R.ロジャーズ(Rogers,C.R.)
  クライエント中心療法の創始者。
  受容共感を重視した。

 A.アドラー(Adler,A)
  個人心理学の創始者。
  人間性心理学の立場の先駆者として、人間が主体的に決断しうる存在であることを強調した。

 V.E.フランクル(Frankl,V.E.)
  実存分析、およびロゴテラピー(Logotherapie)の提唱者。
  アウシュヴィッツの強制収容所における体験を著した『霧と夜』(1947)は名著と言われる。

 L.ビンスワンガー(Binswanger,Ludwig)
  現存在分析の創始者。
  人間は本来世界内存在、すなわち他との関係において初めて成り立つという人間観がある。

 E.T.ジェンドリン(Gendlin,E.T.)
  ロジャーズの弟子で、体験過程理論の概念の提唱者。
  体験過程とは、有機体内の感覚としては確かに感じ取れる心身未分化な体験の流れのこと。
  体験過程療法における主要技法にフォーカシングがある。

 J.L.モレノ(Moreno,J.L.)
  ソシオメトリーサイコドラマの創始者。

 F.S.パールズ(Perls,F.S.)
  ゲシュタルト療法の創始者。
  過去の体験や生育歴の探索ではなく、患者の「今、ここで」の体験と関係の全体性に重点を置く。


人間性心理学の基本的特徴

 ①人間性を全体的に理解する
 ②人間の直感的経験を重視する
 ③「今、ここ」で体験されるものや、個人にとって意味のあるものが重要である
 ④研究者もその場に共感的に関与する
 ⑤個人の独自性を中心におく
 ⑥過去や環境より価値や未来を重視する
 ⑦人間独自の特質、選択性、創造性、価値判断、自己実現を重視する
 ⑧人間の健康的で積極的な側面を強調する

                                など

これらの考え方は、健常者の人格成長や自己開発にも貢献しうる。
教育や成長を目的とした集団療法もこの流れをくむものが多い(エンカウンターグループなど)。

批判を受ける点

 ①知性を軽視し、感情を重視しすぎる
 ②自己決定の力が過度に強調されている
 ③科学的探究に対する不信と否定がみられる
 ④主観的現象を記述する概念の定義が不明確である
 ⑤共感的態度だけでは永続的な効果は望めないと考える
 ⑥人間の持つ悪や影の部分が見落とされる

                               など

人間性心理学に依拠した実践(療法

 Tグループ training group
  人間関係訓練の一つで、感受性訓練(sensitivity training ; ST)、
  ラボラトリー・トレーニング等とも呼ばれる。
   ・防衛機制の撤廃
   ・いま・ここ(here and now)の現実を生きることの体験
   ・現場への応用
              を目的とする

 エンカウンター・グループ encounter group
  自己成長を目指し、一時的に10人前後のグループを形成し、数日間合宿生活をする中で
  お互いの人間性をぶつけ合うような課題を経験する。


自己理論

 来談者中心療法を発展させたC.R.ロジャーズは、人間が本来的に持っている実現傾向、成長能力や適応能力を重視し、この発現を促進する条件としてカウンセリングやエンカウンター・グループにおける受容共感を重視した。
 ロジャーズの自己に関する理論は自己理論と呼ばれ、クライエントの不適応状態を理想自己現実自己のずれとしてとらえる。
 この両方の自己を受容しともに生きることでずれを解消する方向に向かう傾向を実現傾向と呼んだ。
*理想自己と現実自己の一致そのものではなく、両者が受容されることが重視される。

2013年2月8日金曜日

行動主義 behaviorism



概略
 
 ワトソンが提唱した現代心理学における基本的方法論の一つ。
科学的心理学とは行動の科学であり、その研究対象は客観的測定の不可能な意識ではなく直接観察可能な行動であり、その目的は刺激=反応関係における法則性の解明であるとする立場。
ワトソンは、内観法による意識心理学を否定し、他の自然科学と方法論を共有するためには、心理学は客観的な行動を対象とするべきだと主張した。
この理論の背景にはダーウィンの進化論パヴロフの条件反射説、デューイやエンジェルらの機能主義心理学の影響とされる。
また、行動主義では、心理学の目的は行動の予測と制御であるとされ、物理的刺激と個体の全体的活動の関係が研究された。
内省に頼らずに実験が行えるため、乳幼児や動物も等しく研究対象とすることが可能となり、学習理論の発達を導いた。
心理的現象を刺激と反応の分析単位(S-R)から探求する方法論的行動主義の流れは、刺激と反応の間に行動的な変数(媒介変数)を仮定する新行動主義へと発展した。


定義
 心理学の研究法や説明に行動的な変数を用いることを求め、刺激と反応の関係における法則性の解明を目的とする立場。


提唱者
 ワトソン(J.B.Watson)
 
行動主義の先駆者

 パブロフ(Pavlov,I.P.)
  古典的(レスポンデント)条件付け理論 提唱

 ソーンダイク(Thorndike,E.L.)
  道具的(オペラント)条件付け理論 提唱

ハルトールマンガスリースキナーといった人物が独自の理論を展開し、発展させたものは
のちの新行動主義とよばれるものである。


行動理論 behavior theory

 客観的に観察可能な行動のみを心理学の研究対象とすべきであるというワトソンの行動主義心理学は、心理学のおもな一研究分野をなすようになった。
おもに動物を被験体として、特に行動の学習メカニズムや学習現象について実験研究が進められ、さまざまな学習理論が提唱されるようになるが、
学習メカニズムを「刺激と反応の結びつき」で説明するワトソンの流れをくむS-R説(行動主義)と、
学習メカニズムをたんに刺激と反応の結びつきだけで説明するのでなく、そこに有機体内部の諸要因を組み入れるS-O-R説(新行動主義)といわれる学習理論の2つの考え方が展開されていった。
この一連の学習理論を行動理論という。

1970年代になり、バンデューラ(Bandura, A.)によって提唱された社会的学習理論は、認知要因を組み入れたきわめてすぐれた行動理論として従来の行動理論に影響を与え、現在では認知的要因を重視する行動理論が広く展開されつつある。



行動療法 behavior therapy

 行動理論を理論的基盤として心理治療論と治療技法を展開したのが行動理論である。
精神分析理論の考え方、つまり「問題行動の根底に無意識な関与を仮定する」ことへの科学的実証性の疑問、そのことによる精神分析理論の妥当性への疑問、ひいてはその治療効果について疑問を投げかけた。
行動療法は、学習心理学の分野で実験などを通して構築されてきた学習理論を理論的基盤とする治療論と治療技法を提唱した。
定義は研究者により異なるが、共通する内容は「実験によって証明された現代学習理論あるいは行動理論の活用による行動変容法」である。
初期の行動療法は、行動理論(動物実験によって構築された学習理論)に基づいて体系化されたものであった。
1970年代以降、認知要因を重視する行動理論に影響を受け、認知行動療法へと展開していった。

 ・リンズリーら(Lindsley, O.R. et al.)
  精神疾患患者の行動形成にオペラント条件付けの手続きを応用した研究報告を公表し、そのなかで行動療法という用語を初めて用いた。

 ・アイゼンク (Eysenck, H.J.)
  様々な学習理論(行動理論)を応用した神経症や不適応行動の行動変容法を包含して、行動療法という語を用いた。

 ・ラザルス(Lazarus, A.A.)
  治療の焦点を不適応行動そのものにおき、行動そのものを修正するということで行動療法という名称を用いた。

2013年2月6日水曜日

精神分析&精神分析療法 psychoanalysis & psychoanalytical therapy



概略


パーソナリティの機能および構造に関する理論であり、かつ特殊な心理療法的技法であって、この理論の他の学問への適応をも含むもの。
S.フロイトが創始した心理学理論であり、その理論に基づく心理療法であって、人間心理の研究方法でもある。
主要な理論として、局所論構造論力動論エネルギー経済論発達論適応論などがある。
特に局所論は精神分析学の基本であり、人間の行為の背景に無意識を想定するものである。
失錯行為や夢の内容、神経症症状などの精神現象は一見明確な原因がないようにみえるが、その原因が無意識内に存在するために意識からは因果関係がわからないだけである。
ゆえに精神分析では、意識に現れた事象を分析することで無意識にアクセスし、症状の原因を明確化することが治療機序となる。
また精神分析療法は、基本的には現在みられる心理的問題の背景に過去の発達段階で未解決な心的な問題が存在すると仮定する。
一般に夢や自由連想法によって得られた資料が分析の対象となり、防衛機制転移の解釈を通して無意識の自己理解をすすめる。
患者の健康な自我の主体性を期待し、適応ではなく、精神内界や人格の再構成を目標とする。




定義
精神分析についての定義は、研究者により異なる

 S.フロイト Freud, Sigmund (精神分析学の創始者)
  「(人の)内部に抑圧されている精神的なものを意識化する仕事」
    ⇒無意識の深層を研究する学問と定義

 A.フロイト Freud, Anna 
  「深層心理学すなわち精神分析ではなくイド自我超自我の三つの部分について完全な知識を得ることが精神分析の課題である」
  ⇒古典的な精神分析から自我心理学へ発展した証左
   対人関係論対象関係論へと発展

(国際精神分析学会第30回大会(1977)での定義)
  「パーソナリティの機能および構造に関する理論であり、かつ特殊な心理療法的技法であって、この理論のほかの学問への適応をも含むものである。この学問はジグムント・フロイトによる非常に重要な心理学的発見を基盤としている」




創始者

S.フロイト Freud, Sigmund(1856-1939)

 後に多くの分析家が独自の理論を展開、発展させていく。

 フロイトは神経学者シャルコー(Charcot, J.M.)ベルネーム(Bernheim, H.M.)のもとで研究を進めていたが、ヒステリー性の神経症状が催眠暗示によって消失することから、本人の意識されていない感情や欲求の存在を確信するし、カタルシスによる心理治療を行った。
しかし、「多くの神経症者はどんな方法によっても催眠されえない」という事実から、催眠とは違う新しい浄化法を考えることとなり、自由連想法が開発された。
さらに意識の統制が弱まる睡眠中の夢も無意識を知る素材を提供してくれるものとして、夢分析も重視された。



S.フロイトの主要な理論 (精神分析の基本的見地)
局所論
  心理的過程は意識、前意識、無意識からつくられているという考え
   意識 consciousness
    これは私の経験だと感じることのできること。意識内容は当人のみ経験する。

   前意識 preconscious
    意識されてはいないものの、思いだそうと注意を向ければ思いだせるもの。
    いつでも意識のなかに入り込める。

   無意識 unconscious
    現実には認めがたい欲望や感情、思考などが強く抑圧され意識には上がってこないもの。
    

構造論
  心を心的装置(超自我(スーパーエゴ)、自我(エゴ)、イド(エス))として捉える

   超自我 super ego
    良心あるいは道徳的禁止機能を果たす人間の精神分析構造の一部。
    快楽原則に従う本能的欲動を検閲し抑圧する。

   自我 ego
    認知、感情、行動などの精神諸機能を統制、統合する心的機関。意識の中心。

   イド id
    本能的性欲動(リビドー)の源泉。快楽原則に支配され、無意識的である。
    一次過程と呼ばれる非論理的で非現実的な思考や、不道徳で衝動的な行動をもたらす。

力動論
  さまざまな心理的現象は、心理的な力関係によって生み出される。

(エネルギー)経済論
  性的欲動である精神的エネルギー(リビドー)を仮定し、
  その充当や対象への分配などから種々の不適応や防衛機制を考える。

発達論
  自我、イド、超自我の相互関係やエネルギー分配の様態を
  幼児から成人へという発達の中で捉え、逆方向を退行と考える。

適応論
  対人関係や社会への適応という視点から心理学的現象を考える。



精神分析療法 psychoanalytical therapy

 S.フロイトの創始した心理療法であるが、広義には寝椅子や自由連想法などを採用しない、精神分析理論を援用した心理療法をも意味することもある。
浄化法カタルシス)から発展してきたもので、無意識的な存在と意識とを疎通させ、患者がこれまで行ってきた自動的な不快支配の結果拒否し(抑圧し)てきたもの(無意識的なもの)を、(意識化して)もっとよく洞察しようという動機にはげまされて、(抵抗を克服し)抑圧されたものを意識的に受け入れるようにそのような患者の変化を意図した治療法である。 
つまり、人間の心を理解しようとする治療法であり、人の感情や思考、行動などは無意識によって規定されていると考え、その無意識を意識化することで人を悩みから解放しようとする治療法である。
フロイトの精神分析療法は、その後の後継者によってさまざまに分岐していくが、基本的には現在みられる心理的問題の背景に、過去の発達段階で未解決な心的な問題が存在すると仮定する。
治療者との関係のなかで生じる感情転移や、抵抗を見出し、その解釈を通して患者の洞察を促す。
精神分析療法において、自由連想法を基本原則としており、治療者は、患者の話しに傾聴するとともに、中立性を保ちながら、患者の無意識についての理解(解釈)を伝えていく。
一般に夢や自由連想法によって得られた資料が分析の対象となり、防衛機制や転移の解釈を通して無意識の自己理解をすすめる。


自由連想法 free association

 フロイトが創始した精神分析の技法で、精神分析療法の基本である。
1890年代に無意識の探索手段としてそれまで用いていた催眠技法の代わりに患者に心の中に思い浮かぶことを自由に語らせる方法を採用した。
この手段は催眠にかからない患者へも適応しうるものであるが、通常患者は寝椅子に横になり、心に浮かぶこと(考え・記憶・感情など)を話すよう求められる。
そのときに語られる内容が分析の素材であり、患者の隠された無意識の現れとしている。
治療の過程で生じてくる抵抗転移に対し、治療者が技法的な中立性の立場で直面化、明確化、解釈を与えることにより、患者の洞察、無意識の意識化が得られるように促していく。



転移(感情転移) transference

 過去の体験が現在の人間関係のなかに反復強迫的に持ち越されること。
フロイトは、精神分析の面接過程が進むにつれて、患者が治療者に向ける肯定的・否定的感情(多くは患者が過去に誰か(多くは両親)に向けた、または向けることのできなかった感情)を治療者に置き換えて向けること転移と呼んだ。
転移は患者が持っている心理的問題と深い結びつきがあることが観察されたことから、その転移の出所と、かつて誰に向けたものであったかを解釈することで、治療的に活用できるとし、
フロイトは「転移という現象は精神分析療法中に必然的に生じる」と考えた。
また、転移によって患者が治療者に憎しみや敵意をいだく場合を陰性転移と呼び、一方で患者が治療者に好意や愛情を抱く場合のことを陽性転移と呼ぶ。
患者が幼児期の人間関係に由来した感情を治療者に向けるのが転移であるが、逆に治療者が同様な感情を患者に向ける場合を逆転移という。



リビドー libido

 人間に本来備わっている、性欲動を意味する精神エネルギーのこと。
このエネルギーが限局される身体部位によって口唇期、肛門期、男根期(エディプス期)、性器期といった心理=性的発達段階を唱えた。
なお、ユングの場合は性的なものではなく、活動源としての一般的な心的エネルギーを意味する。


夢分析 dream analysis

 フロイトは夢が主体の心理的世界をよく表していると考えて科学的な対象とした。
睡眠という意識の統制が弱まった状況下で抑圧されていた無意識が浮上してきたものであり、自由連想法とともに、「夢判断は無意識を知る王道である」とした。
そして、ばらばらでまとまりのない夢も実際はある意味を担っており、読解されるべき心理的現象であるとした。
また、夢は無意識的な願望充足であると考え、構成された夢(顕在的夢思考)から、夢の持つ隠された内容(潜在的夢思考)を引き出そうとした。
 一方,ユングの夢分析では、夢はを目的論的視点から理解しており、過去の妥協の産物としてよりも、ときには将来を示す集合的無意識からのメッセージとみなしている。



精神分析学から派生した諸学派


新フロイト派  neo-Freudian

 S.フロイトのリビドー論に拠った生物学的立場よりも、文化人類学やコミュニケーション理論の影響を受けた、社会的・文化的要因を重視した学派である。
フロム(E.Fromm)ホーナイ(K.Horney)サリヴァン(H.S.Sullivan)フロム-ライヒマン(Fromm-Reichmann, F.)など、1930年代から40年代にかけてのアメリカの一群の精神分析家たちをさす。
エディプス葛藤を認めない母系民族社会の存在を明らかにしてフロイトの汎性欲説の普遍性に疑問を投げかけたM.ミードなどの、文化人類学やコミュニケーション理論を援用しているところに特徴がある。
そのため、力動的・文化的精神分析学(dynamic-cultural psychoanalysis)と呼ばれている。
新フロイト派は、各人はフロイトの仮説に反対しているが、それぞれが強調する点が違い、また、ひとつの理論や技法に限定して縛らない点、違いを認めながらさらに理論を展開して統合する力を示している点などが特徴である。


個人心理学 individual psychology

 
 アドラー(Adler, A.)によって創始された心理学体系で精神分析の一派。
人格の全体性や社会的視点を重視した理論である。
S.フロイトが性欲を重視するのに対し、アドラーは劣等感(器官劣等)を重視した。
人間の基本的動機づけとして劣等感を補償するための権力への意思を強調し、人間を動かす根本的な欲求であると捉え、フロイトの性欲説を批判した。
また、フロイトが神経症の原因として過去の生活史に着目したのに対し、
アドラーは人間行為の目的性に注目し未来志向的観点から神経症を理解すべきだと主張した。


深層心理学 depth psychology

 より表層的な意識の部分と深層の無意識という精神の階層構造論の立場から、意識よりも無意識によって人間の行動が左右されているとみる立場。
特にユング(Jung, C.G.)が確立した分析心理学(ユング心理学)において、無意識は個人的無意識と集合的無意識(普遍的無意識)からなると主張し、集合的無意識における元型を重視した。
また、素質的な根本的態度の型である、内向―外向や、心理機能として思考―感情、感覚―直感を区別し、これらの組み合わせによる8つの類型から独自のタイプ論を展開した。


自我心理学 ego psychology

 S.フロイトが仮定した心的装置であるイド、自我、超自我のうち、特に自我の重要性を強調する学派。
ハルトマン(Hartmann, H.)E.H.エリクソン(E.H.Erikson)に代表される。
また、A.フロイトは防衛機制論を発展させ、自我の健康的な働きを強調して精神分析的自我心理学の基礎をつくり、さらに精神分析を子供に適用して遊戯療法の基礎をうちたてた。
新フロイト派の立場も取り入れたE.H.エリクソンはアイデンティティ理論を唱えた。


対象関係論 object relations theory

 個体の精神内界に形成される内的対象との間で発展する対象関係(内的対象関係)を重視する。
 自我と対象の関係のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。
つまり、対象を生物学的な本能充足の手段として理解するS.フロイト精神分析を基礎としたそれまでの立場に対し、自我は本来、対象希求的なものであるとし、自我と対象との関わりを一義的なものと考える立場である。
クライン(Klein, M.)ウィニコット(Winnicott, D.W.)ガントリップ(Guntrip, H.)らによって発展させられていった。

2013年2月5日火曜日

作業検査法



概略

きわめて単純な作業を一定時間課し、作業量の推移に着目して気質、性格を測定・診断する方法。
被験者が作業を行う際の緊張、興奮、慣れ、練習効果、疲労、混乱、欲求不満などが性格を反映するという前提に基づく。


特徴
 長所
  ・実施が容易
  ・適用範囲が広い
  ・言語を媒介としない
  ・反応の意図的歪曲が起こりにくい
  ・結果の数量化ができる

 短所
  ・解釈が主観的になりやすい
  ・主に人格の意思的側面に限られる
  ・被験者に苦痛感を与える
  ・作業課題への意欲の有無が検査結果に影響する


種類 例

 内田=クレペリン精神作業検査 Uchida-Kraepelin Performance Test
  隣り合う2つの1桁数字の連続加算を被験者に行わせ、その作業量と水準と作業曲線の形状の評価を行う検査。15分検査ののち5分の休憩をはさみ、その後再度15分検査を行う。

 ベンダー・ゲシュタルト検査 Bender Visual Motor Gestalt Test
  視覚・運動形態機能を測定するための検査。被験者にさまざまな模様・図形を描写させ、その正確さ、混乱度、描画方法などが査定される。

2013年2月1日金曜日

質問紙法 questionnaire method


概略

 調査対象者や被験者に自らの属性、心理状態、行動傾向などを回答させる方法のうち、特に質問紙によって回答を求める方法。
特定個人を診断したり、特定集団あるいは人間の行動を理解するのに使用する。
後者のような研究目的で使用する場合は特に質問紙調査法と呼ばれる。
あらかじめ設定された選択肢のなかから回答する形式と、回答欄に自由に文章を記入する形式(自由回答法;free answer; open-ended  question)とがあり、実験室実験個別面接調査集合調査留置調査郵送調査などにおいて用いられる。

質問の主文や選択肢のワーディング(wording;言い回し)が非常に重要で、不適切な用語法や偏向した文章があると誘導質問となってしまう。
そのため、予備テストを実施し、あいまいな言葉や専門用語、二重否定などによる難しい文章、キャリーオーバー効果(前の質問内容・存在が後続質問への回答に及ぼす影響)の有無、ダブルバーレル質問の存在などについてチェックする必要がある。
また、濾過質問(filter question)によって非該当者への質問を行わないような配慮も必要である。

回答者によって黙従傾向(yes-tendency; acquiescence)を示す場合がある。


語句説明

キャリーオーバー効果 carry-over effect
 前の質問の内容・存在が後続質問への回答に及ぼす影響。
 それまでの自分を肯定するかたちの言動を取りやすい傾向を指す。

ダブルバーレル質問 double-barreled question
 2つの別の論点を含み、そのうちどちらが強調されているのかを回答者が識別できないような質問。
 二重質問ともいう。
 対象が複数あるパターンや、行動と動機のどちらを聞かれているのか区別できないパターンが代表的。

濾過質問 filter question
 一般的な質問から徐々に調べたい質問に焦点をしぼっていく手法

黙従傾向 yes-tendency; acquiescence
  質問内容とは無関係に反対より賛成(否定より肯定)を選択する傾向



定義

 ・調査対象者や被験者に自らの属性、心理状態、行動傾向などを回答させる方法のうち、特に質問紙によって回答を求める方法。
 ・構造化された質問項目に被験者が自ら答えていく方法。


特徴

 長所
  ・低コストで、かつ実施が容易
  ・採点や結果の数量化が容易にできる
  ・結果の解釈に主観が入りにくい
  ・一度に多数の回答者を対象に実施可能
  ・回答が研究者(調査者)の存在による影響を受けにくい
  ・状況と行動を媒介する内的事柄に関する情報が得られる

 短所
  ・質問項目に対する理解が被験者によって異なる可能性がある
  ・反応(回答)の歪曲が起こりやすい
  ・観察法に比べ言語以外の反応、回答状況、行動経過などを記録できない
  ・面接法に比べ対象や状況ごとに質問形式や内容を変化させることができない
  ・回答者の言語能力に依存する


調査方法

①郵送調査法
 質問紙と返送用封筒を郵送して、一定期日までに回答を返送してもらう。

②留置調査法
 戸別訪問をして質問紙を配布し、一定期日までに回答してもらい、回収にまわる。

③集合調査法
 一定の場所に集合している対象者に質問紙を配布して説明し、その場で回答を求める。

④面接調査法
 面接によって質問紙に従った質問をし、面接者が回答を記入する。

⑤電話調査法
 対象者に電話して質問紙に従った質問を行い、回答を記入する。


種類 例

矢田部=ギルフォード性格検査(Yatabe-Guilford Personality Inventory; Y-G性格検査)
 12の下位尺度ごとに10問計120問の質問項目から構成される性格検査。

ミネソタ多面人格目録(Minesota Multiphasic Personality Inventory; MMPI)
 4妥当性尺度と10臨床尺度、550項目から構成される性格検査。

顕在性不安尺度(Manifest Anxiety Scale; MAS)
 MMPIのなかの50項目を選び出し作成した尺度。被験者の不安水準を測定する一般的な方法。

モーズレイ性格検査(Maudsley Personality Inventory; MPI)
 外向性‐内向性次元と情緒の安定性に関わる神経症傾向の二次元から測定される。全80項目。

コーネル・メディカル・インデックス(Cornell Medical Index; CMI)
 初診時に短時間で患者の状態を把握するための問診表として作成されたチェックリスト。
 スクリーニングとして実施されることが多い。

エゴグラム(egogram)
 心のなかに親・大人・子どもの三つの自我状態の存在を仮定し、それによってパーソナリティの特徴をとらえることを目的とする。
 東大式エゴグラム(TEG)など、いくつかの種類が開発されている。

EPPS性格検査(Edwards Personal Preference Schedule)
 マレーの欲求理論に基づき、その顕在性欲求リストを取り入れて作成した質問紙法性格検査。
 社会的望ましさの程度がほぼ等価な2つの項目のうちいずれかを強制的に選択させる。

など

自己効力感 self-efficacy



概略

 バンデューラ(Bandura, Albert)によって提唱された概念で、自分が行為の主体であると確信していること、自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信のこと。
ある行動がどのような結果を生み出すのかという 結果予期(Outcome expectancy)と、ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことが出来るのかという効力予期(efficacy expectancy)の2つに区分される。
自己効力感を発達的視点から捉えることも重要であり、子どもの自己認知の発達水準や、その時の親や教師などとの関わりに応じて、自己効力感の様相は異なってくる。
また、自己効力感の高い子供は、自分が努力すれば環境や自分自身に好ましい変化を生じさせようという見通し信念の下で、生き生きと周りの環境に働きかけ、充実した生活を送ることが出来る。


定義
 自分の遂行能力や学習能力にかかわる自信や信念のこと


提唱者
 バンデューラ (Bandura,Albert)
   カナダの心理学者



自己効力感の起源

達成体験
  最も重要な要因で熟達の経験。成功は個人的な効力感の確固とした信念を作りあげ、失敗経験は特に効力感が確立されていない場合には効力感を低めてしまう。

代理経験
  社会的なモデリング(他者の何かの達成や成功を観察すること)。モデルはコンピテンスと動機づけの期限として役立つ。自分に似た他人が持続的な努力で成功するのを見れば、自分自身の可能性についての確信を強めることになる。

言語的説得
  社会的な説得(自分に能力があることを言語的に説明されること、言語的な励まし)による影響。自己効力感を持った行為について、それが認められ励ましを受ければ、より努力をするようになり、それが成功の機会を高める。

生理的情緒的高揚
  たとえば酒、薬物、その他の要因によって気分が高揚するというように、自分の生理的な状態にも部分的にではあるが依存している。生理的な過剰反応を減らしたり、自分の生理的な状態の解釈の仕方を変えることで自己効力感を強める。

想像的体験
  自己や他者の成功経験を想像すること



自己効力感の3タイプ

・自己統制的自己効力感
・社会的自己効力感
・学業的自己効力感

 



自己効力感が統制する人間の行動の仕方
 
 

 ①認知的側面
   自分の能力がどれだけあるか、自分の目標を設定する仕方を決定する。

 ②動機づけ的側面
   その後の結果を予測し、目標の設定を決定する。
   自己効力感が達成の努力や肯定的な生き方の必要条件になっている。

 ③情動的側面
   自己効力感は個人的な情動経験の性質や強度、不安や自己統制のあり方を決定する。

 ④選択的側面
   自己効力感のもてる領域を選んで、そこで挑戦的な生き方をとろうとする。



自己効力感の構成

 自己効力感は大きさ(magnitude)強さ(strength)一般性(generality)の三次元で構成されている。

・大きさ
 どの程度の難しさの課題まで遂行可能であるかの期待の次元

・強さ
 ある課題での行動をどの程度の強さで遂行可能であるかの期待の次元

・一般性
 特定の課題に対する自己効力感と特定の課題を求めない一般的場面での自己効力感を結ぶ次元



コンピテンス competence

 言語心理学や認知心理学の分野では、実際の行動や成績(パフォーマンス)に対して、潜在的能力を意味することが多い。たとえば、チョムスキーは、外部に反応として現れる元号運用と区別して、運用者の内部の根底にある言語能力をコンピテンスと呼んだ。
 発達心理学において使用される場合、人にすでに備わっている潜在的能力と、環境に能動的に働きかえて自らの「有能さ」を追求しようとする動機付けを一体としてとらええる力動的な概念を指す。

2013年1月31日木曜日

愛着 attachment




概略

 特定の対象に対する特別の情緒的結びつき(affectional tie)のこと、もしくは他の特定の人間(動物)と情緒的に結びつきたいという要求をもつ状態を指す。
愛着を形成する生得的傾性を有して人間は誕生すると考えるボウルビィは、生理的満足の源として母親に依存するという考えに基づいて用いられた依存(dependence)という概念を避け、これに代わる愛着(attachment)という新たな概念を提出した。
彼によると母親への愛着は、
①人に関心を抱くが、人を区別した行動は見られない段階、
②母親へ対する分化した反応が見られるが、母親の不在に対して泣くというような行動はまだ見られない段階、
③明らかに愛着が形成され、愛着行動がきわめて活発な段階、
④愛着対象との身体的接近を必ずしも必要としなくなる段階
の4つの段階を経て発達し、その間にその他の対象へも愛着の輪を広げていくとしている。
愛着は、子どもの愛着欲求に対する母親の応答性によって生後6ヶ月以内に発達する正常な絆である。この重要な時期におけるマターナル・デプリベーションは心理発達に問題をもたらす。



定義
 ・特定の対象に対する特別の情緒的結びつき
 ・他の特定の人間(動物)と情緒的に結びつきたいという要求をもつ状態


提唱者
  ボウルビィ Bowlby,John.

ボウルビィによる愛着発達の4段階
 ①人に関心を抱くが、人を区別した行動は見られない段階
   (誕生から12週まで。人を目で追う、微笑、人の声や顔を見ると泣き止むなど)

 ②母親へ対する分化した反応が見られるが、母親の不在に対して泣くというような行動はまだ見られない段階
   (12週から6か月まで。母親的な人物に向けて、より明確な人間指向的な行動が出現)

 ③明らかに愛着が形成され、愛着行動がきわめて活発な段階
   (6、7か月ごろから2,3歳ごろまで。母親を後追いする、戻ってきた母親を喜んで迎える、探索活動の基地として母親を活用するなど、移動の手段により、弁別された人物に対して、近接を保持する。一方、未知の人間に対しては、恐れや警戒を示すなど、人見知りをするようになる。一人の主たる養育者との接触が乏しい場合は、この段階の始まりが遅れることもある)

 ④愛着対象との身体的接近を必ずしも必要としなくなる段階
  (3歳前後から。母親の感情や行動の目的についての見通しができるようになり、母子間に目標―修正的なパートナーシップが形成される)

また、この発達の間にその他の対象へも愛着の輪を広げていくとしている。


愛着行動 attachment behavior
 …愛着の存在を示す具体的な行動。
  愛着対象のみに示され、病気の時や不安が高まっているときなどに活性化する特徴を持つ。

  ・信号行動
    微笑・発声・泣きといった信号を通して、接近や相互作用を求める行動

  ・接近行動
    接近・接触・後追いなど、自らが移動することで身体的接近や接触を能動的に求める行動



エインズワース(Ainsworth, M.D.S)による愛着の5つの特色

 ①愛情を暗に含んでいる
 ②特異的・弁別的である
 ③外的行動として示され観察可能である
 ④主体的な過程であって受動的ではない
 ⑤相手の感動を喚起する二方向的な過程である


2013年1月30日水曜日

ボウルビィ Bowlby, John (1907-90)



概略

 イギリスの児童精神医学者で愛着(attachment)理論の創始者。
ロンドン北西部のハムステッドに誕生し、外科医であった父親の影響で最初ケンブリッジ大学で身体医学や自然科学を学んだが、のちにロンドン大学付属モーズレイ病院とユニバーシティ・カレッジ病院で児童精神医学を専攻する。
その頃、クラインアンナフロイトらの児童分析にも興味をもち、精神分析研究所で精神分析技法を学んだ後、ロンドンのタヴィストック・クリニックで治療と研究にあたった。
母子関係が人格形成に及ぼす影響と特にその喪失の重大性を考察し、WHOの依託を受けて行った施設児に関する研究報告書である『乳幼児の精神衛生 Maternal Care and Mental Health 』のなかで示したマターナル・デプリベーション(maternal deprivation;母性的養育の喪失/母性剥奪)という概念は大きな反響を呼び、後の愛着理論の出発点となった。
母子関係の研究を一貫して研究テーマとし、「愛着行動体制説」「愛着性理論」などを発表した。


愛着 attachment
 この言葉を心理学に導入したのは彼が初めてである。アタッチメントとは「人間(動物)が、特定の個体に対して持つ情愛的なきずな(addectional tie)のこと」であると述べている。
 ボウルビィはこの愛着の形成段階を4段階に分けた。誕生から12週頃までの前愛着段階、生後12週から6か月ごろまでの愛着形成段階、生後6~7か月から2歳ごろまでの明瞭な愛着段階、3歳以降からはじまる目標修正的協調関係である。
 乳幼児期に安定した愛着(secure attachment)を形成することが健全なパーソナリティ発達の基本になると考えられている。


マターナル・デプリベーション maternal deprivation  母性剥奪
 ボウルビィは「乳幼児と母親(あるいは生涯母親の役割を演ずる人物)との人間関係が親密かつ継続的で、しかも両者が満足と幸福感にみたされるような人間関係が精神衛生の基礎である」とし、母子関係の相互作用の重要性を説いた。
幼児期における良好な母子関係はその後の人格形成や精神衛生の基盤となることを指摘したが、良好な母子関係が築けず、母子相互作用が欠如することを「母性的養育の喪失」と呼んだ。
これによる打撃で人格発達を阻止され、永続的障害として残りうると考え、母子の愛着関係を人格形成の核になるものとみなし、この関係を単なる依存に終わらぬものとみなした。
最近では子から母親への愛着行動と母親が子に注ぐ直線的な愛情の両方向からの母と子の絆といった用語が使用されている。


喪失と悲嘆 loss and grief
 喪失とは価値や愛情、依存の対象を別離、拒絶、剥奪によって失うことであり、喪失で生じる悲しみや絶望感といった情動的苦しみが悲嘆である。
ボウルビィは喪失に引き続く心理過程を以下の3つに区分した。
 ①「抗議」…失った対象を取り戻そうとする
 ②「絶望と抑うつ」…失った対象との再結合の試みの失敗
 ③「離脱」…心的体制の再構築
喪失後の悲嘆反応に充分に浸ることにより、喪失とその受容の葛藤を克服することが可能になる。

  

 
ボウルビィは精神分析のように過去に遡る推論によらず、現実に生活している幼児の、母の存在と不在との反応を観察するという、比較行動学の、動物の初期経験と行動が社会的絆の形成につながるとみる観点に示唆を得た方法が活用され、人間の初期経験のしるしをのちの働きに認め、その結果、病的要因と思われる事象や経験を研究していった。

2013年1月29日火曜日

実験者効果 experimenter effect



概略

実験者が意図せずに、被験者の行動に影響を及ぼす実験統制外の影響のこと。
心理学が哲学と決別し、科学たることを目指す際に自然科学の方法論(特に実験)が手本とされた。
しかし、その適用にあたり、実験対象が実験者と同じ人間であることに由来する問題が生じてきた。
それは、実験状況における実験者と被験者の意識・無意識レベルでの相互作用が、実験結果に予期せざるバイアスをもたらすということであった。
実験者効果は実験者自信に原因が求められるものであり、「Aという結果になれば望ましい」というような願望が知らぬうちに被験者の行動あるいは反応に影響を及ぼす。
ローゼンタールによる「教室内のピグマリオン効果」は多くの問題を投げかけるものであった。


実験者側の要因が加わることによって実験結果が歪められると、結果の妥当性が低くなる。
そのため、実験を計画・実施する際に十分な吟味が重要とされる。

ピグマリオン効果 pygmalion effect



概略

教師期待効果とも呼ばれる。
意識するか否かに関わらず、他者に対する期待が成就されるように機能すること。
ピグマリオンという名前は、ギリシア神話から取ったものである。
ローゼンタールジェイコブソンRosenthal, R. & Jacobson, L.)は、教師が児童・生徒に対して持っているいろいろな期待が、彼らの学習成績を左右することを実証した。
また、期待効果は、教師のその子供に対する行動を意識しないうちに変化させていることも明らかにされた。
実験者の存在が間接的に被験者に影響する実験者効果とも類似しており、批判者はピグマリオン効果を心理学用語でのバイアスである実験者効果の一種とする。
また、教師が期待しないことによって学習者の成績が下がることをゴーレム効果という。


提唱者
 ローゼンタール(Rosenthal,R.)


実験①
 1963年 ローゼンタールフォードによる実験
学生にネズミを使った迷路実験をさせ、ネズミを渡す際に
「よく訓練された利口な系統のネズミ」と「これは動きの鈍いのろまな系統のネズミ」と伝えた。
その2つのグループの間で実験結果に差異が見られ、前者の方が結果が良かった。
このことからローゼンタールは、情報を受け取った学生の期待度の違いが実験結果に影響が与えられたと考え、期待された他者の能力は向上する、という仮説をたてた。

実験②
 翌年(1964)、小学校でハーバード大学式学習能力開花期テストと名付けた知能テストを行った。
「このテストにより子どもの1年後の成績の伸びを予想できる」と学級担任に伝え、実際の成績とは別に無作為に割り当てられた生徒の名簿を見せて、その後の成績の伸張を調査した。
その結果、学級担任が期待をもった、名簿の児童の成績が向上した。


しかし、このピグマリオン効果への異論も数多く唱えられている。

2013年1月25日金曜日

ヒステリー hysteria




概略

 現実に問題となっていることを解決することができず心の中に葛藤を生じ、その葛藤のために自我の安定を保つことが困難な状況になったときに、
自我の防衛機制の一つとして意識が消失したり、手足がマヒしたり、声が出なくなるなど、問題に直面することを回避する結果となる、というような病態をヒステリーとよぶ。
ヒステリーの概念は古代エジプト時代に誕生し、その語源はギリシア語で子宮を意味するhystéraである。
当初はその症状は子宮が体内を動きまわるために起きる女性特有の疾患と考えられていた。
しかしその後、1870年代に、シャルコーが「催眠術」でヒステリーの症状がなくなることをみつけ、ヒステリーは『「暗示」という心理作用によって生じた機能障害である』とし、精神疾患として位置づけられるようになった。
それ以来、女性に限らず男性にもみとめられる病気として認識されるようになった。
なおヒステリーの際の意識消失、麻痺、失声などの症状は脳の神経学的機能の器質的障害の結果ではなく心理学的障害であり、その症状は回復可能なものである。



定義

 課題解決が困難である問題に直面したときに、それを正常に認識したり言語化できず、問題回避的に意識消失、運動機能低下、失声などの器質的要因を伴わない症状が出現する症状。

 しかしヒステリーの概念は古く、概念・定義自体がさまざまな変遷を遂げてきているため多義的である。治療現場においても、それぞれの立場からヒステリーという用語を使用している。



歴史

 ヒステリーという呼び名は,女性に特有の疾患との誤解から子宮に問題があると信じらてていたため、古代ギリシア語で「子宮」を意味するヒステラ(hystéra)と名付けられた
古代ギリシャ時代にヒポクラステス(Hippokrates)が,その名を病名として用い、この原因は子宮の異常であり、体内を動きまわるために起きる女性特有の疾患と言われていた。

中世においてはヒステリー弓、ヒステリー球、けいれん発作、視野狭窄、失声、失歩、失立などをはじめとするヒステリー症状は、悪魔に取り憑かれたしるしであるとみなされ、しばしば魔女狩りの犠牲となった。
しかし、当時の鬼神論者たちによる研究はその後のヒステリー研究の基礎資料となっていった。
近代に至り精神医学的見地からの研究がはじまり、ヒステリーは精神疾患として位置づけられるようになったり、男性の患者が確認されはじめたりした。
1870年代にシャルコー(Charcot,J.M.)は、ヒステリーを器質的病変の認められない機能障害と位置づけ、病因として身体的要因を主張しながらもその治療にメスメリズム(mesmerism/一種の催眠術)が効果的であることに注目した。

またジャネ(Janet,P.)は、ヒステリーを機能的疾患としての神経症の中に位置づけ、心理的緊張の低下と意識野の狭窄、人格の解離という考えを用いて説明した。
ベルネーム(Bernheim,H.M.)はヒステリーを暗示によって起こる機能障害ととらえ、精神療法としての催眠術を確立し、バビンスキー(Babinski,J.)はヒステリーの被暗示性に注目し、説得によって治療するという立場から暗示療法を発展させた。
また、プロイアー(Breuer,J.)は有名なアンナ・Oの治療を通して催眠浄化法(hypnocatharsis;カタルシス法)を見いだした。

フロイト(Freud,S.)はブロイアーらの方法の追試を行う中で、自我による防衛の働きに注目するようになり、精神力動的観点一つのヒステリー概念を作り上げた。
フロイトはブロイアーとの共同研究をもとに『ヒステリー研究(1895)』を著し、自我の防衛としての抑圧を重視するようになり、抑圧される心的外傷は幼児期における性的な出来事に起因するとみなし性的欲動論の立場からヒステリーの説明を行っていった。
この抑圧の概念が、その後の精神分析学の発展の基礎となった。


症状

大きく2種類(転換型ヒステリー / 解離型ヒステリー)に分けられる。

転換型ヒステリー 
 痙攣発作、運動マヒ、感覚マヒ、痛み、知覚変化など運動・感覚機能の変容が生じるもの。
器質的病変は認められないにもかかわらず、さまざまな運動マヒや痙攣発作が現れる。
失立、失歩、失声、難聴、書字困難,嚥下困難などがあげられる。
全身強直発作(例:ヒステリー弓)をはじめとする痙攣発作は、てんかんの大発作と見分けがつきにくい場合があるが、脳波検査などによって鑑別することができる。
 身体症状は、フロイトが指摘したように症状の性質や現れる身体部位により無意識の葛藤が象徴的に現れているとみると理解しやすい場合が多く、これを器官言語(organ language)という。


解離型ヒステリー
 意識喪失、もうろう発作、記憶障害、幻覚といった精神機能の変容が生じるもの。
精神症状は解離(dissociation)の機制が主に用いられた症状であり、選択的健忘、とん走、仮性痴呆などがあげられる。


実際の患者では双方を合併したものが多く、また、ヒステリー患者の大半に転換症状がみられ解離症状は単独に症状として現出しないことが示唆されたことから、転換型ヒステリーがヒステリーの中心的な障害であるという報告もされている。


治療

 治療法としては精神分析および精神分析的精神療法や、薬物療法などがあげられる。
薬物療法として、抗不安薬、少量の抗精神病薬を使用する。
精神療法として、自我機能が相対的に保たれている人には洞察を得ることを促す精神療法を、
自我機能が相対的に不十分な人には当面する仕事や学業についての支持的な精神療法を行う。

ヒステリーの治療で障害となるのは疾病利得(gain from illness)であり、発症によって問題に直面せずに済むという一次的利得(primary gain)に加えて、周囲の者に大事にしてもらえるなど第二次的疾病利得を学習してしまうと治療を困難にすることとなる。二次的利得(secondary gain)が強固なものになる前に、早期の治療を行うことが望ましいと考えられる。

2013年1月24日木曜日

投影法 projective technique



概略

 被験者に比較的自由度が高く正誤や優劣の評価を下せない課題の遂行を求め、その結果からパーソナリティを測定する性格検査の一つのカテゴリー。
曖昧な刺激図版や言語刺激を提示し、それに対し被験者に自由に連想・想像をさせ、それを回答させることにより、被験者の無意識の中にある個性や性格特徴を測定する。
このような連想や想像のなかに、被験者独自の個性がスクリーンのように映し出されるとの前提のもとに作成され活用されている。
投影法の長所は質問紙法とは異なり、ふさわしい回答というものが分かりにくいため、回答者が意図的に結果を操作することが難しいことや、無意識レベルの個性を測定することが可能である点があげられる。
一方短所は、テストの施行、整理する手間が複雑で、適切な判定をするためには十分な訓練と深い洞察力、そして知識が必要とされる。また、検査者によって解釈が異なる事が多いため、信頼性があまり高まらないという欠点もある。
さらに、反応が特定の性格傾向の反映であるとする根拠が薄いものが多いという行動理論的な立場からの批判もある。


定義

 あいまいで非構造的な刺激を提示し、その反応を分析し解釈する方法


特徴

 長所
  ・被験者が自由に反応できる
  ・反応の意図的歪曲が起こりにくい
  ・単なる査定のみならず、治療的な役割を果たすものもある

 短所
  ・解釈が主観的になりやすい
  ・理論的根拠が曖昧で信頼性が高まらない


種類 例

 ロールシャッハ・テスト rorschach test
  インクのしみによって作られた無意味図形に対する反応から被験者の表面化していない欲求や葛藤を明らかにしようとする

 主題統覚検査 thematic apperception test ; TAT
  図版を提示して、そこから想像した物語をかたらせることで被験者の願望や葛藤を明らかにしようとする

 文章完成法 sentence completion test ; SCT
  「私は…」などの冒頭のみ示された未完成の文章を提示し、最初に頭に浮かんだ続きを書く

 絵画欲求不満テスト P-Fスタディ picture-frustration study
  欲求不満場面に対する反応のタイプから、自我防衛水準での被験者のパーソナリティを明らかにする

 ソンディテスト szondi test
  48枚の顔写真の刺激図版に対する好悪評定を行わせ、その結果からパーソナリティ傾向を把握する

 描画法
 

2013年1月21日月曜日

S-R理論 stimulus-response theory;S-R theory



概略
刺激=反応学習説。
ワトソンが提唱した、人間の行動を『刺激(S:Stimulus)』に対する『反応(R:Response)』として理解する理論のことである。
刺激と反応の結合が学習され、その成立のために、刺激と反応の接近性(contiguity)の条件だけではなく、さらに強化の条件が必要である。
すなわち、強化を必要とする説では、効果の法則を主張したソーンダイク、習慣の強度による連合の形成を提唱したハルがあげられる。
強化を必要としない説では、たんに刺激と反応の接近性による成立、しかも、ただ一回の試行で学習が成立すると説いたガスリー、また、パヴロフの条件づけの手続きで情動反応の条件づけに成功したワトソンがあげられる。
ワトソンは刺激と反応の連合は頻度(frequency)と新近性(recency)によって成立するとした。
S-R論者の各主張に相違はあるが、学習されるのは刺激=反応の連合の形成という点において共通している。


定義

人間の行動を『刺激(S:Stimulus)』に対する『反応(R:Response)』として理解する理論



提唱者
ワトソンWatson,John Broadus(1878-1958)
 行動主義の提唱者。

2013年1月19日土曜日

オペラント条件付け operant conditioning



概略

 道具的条件付けとも呼ばれる。
 有機体の自発したオペラント行動に強化刺激を随伴させ、その反応頻度や反応トポグラフィを変容させる条件付けの操作、およびその過程。
餌で強化することにより、ラットのレバー押し行動を増加させるのはその例。
弁別刺激=オペラント反応=強化刺激 という三項随伴性three-term contingency)によって制御される。
これを最初に実験的に検討したのがソーンダイク(Thorndike,E.L.)で、彼は中の仕掛けを操作すればドアが開き、外に出て餌を食べることができる問題箱を作成した。
空腹のネコを問題箱に入れるとネコは試行錯誤で脱出に成功し、さらに試行を繰り返すと脱出潜時は漸進的に減少した。
この結果から、ソーンダイクは試行錯誤学習は満足をもたらした反応(R)がその刺激状況(S)と結合するS-Rの連合学習であり、効果の法則に従うと主張した。
条件付け操作により反応の生起頻度が増加すれば強化、減少すればである。
スキナー箱における自由オペラント手続きが開発されると、オペラント条件付けの研究は格段に進歩した。
強化のスケジュール刺激制御に関する成果はその最たるものである。




定義
 有機体の自発したオペラント行動に強化刺激を随伴させ、その反応頻度や反応トポグラフィを変容させる条件付けの操作、およびその過程。


研究者
 ソーンダイク(Thorndike,Edward Lee)
  実験および教育心理学者。
 1896年前後から動物の知能をめぐって学習の研究がさまざまな脊椎動物を用いてなされた。
 ネコを用いた問題箱の試行錯誤学習の実験もこの時に行われた。
 そこから学習には動物の能動的な行動が必要であるという練習の法則(law of exercise)および効果の法則という主要な結果が導かれた。
 後者はのちにスキナーに引き継がれ、強化の概念として確立する。

 スキナー(Skinner, Burrhus Frederic)
  20世紀を代表する心理学者の一人で行動分析の創始者。
  1930年代後半までにスキナー箱を用いたオペラント行動研究の基礎を打ち立てた。


オペラント行動 operant behavior
 スキナーは行動を二分法的に分類し、それぞれレスポンデント行動、オペラント行動と命名した。
 オペラント行動とは、特定の誘発刺激がなく、自発した(emitted)反応である。
 


反応トポグラフィ response topography
 通常、オペラント行動は機能的に定義されここの運動の差異を考慮しないが、
 そうした物理的性質は反応トポグラフィとして記述される。
 たとえば、右手で押しても左手で押しても、オペラントとしてのレバー押し行動であることに変わりはないが、反応トポグラフィとしては異なる反応である。


効果の法則 law of effect
 問題箱などの実験を通してオペラント条件付けの先駆的研究を行ったソーンダイクの唱えた法則。
学習が生起するためには反応が環境に対して何らかの効果をもつことが必要であるとしたもの。
 今日強化と呼ばれる概念の必要性を唱え、また観念の連合に代わってS-Rの結合を考えたものであり、しばらく後の行動理論の発展に影響を与えた。


オペラント条件付け療法 orerant conditioning therapy
 行動療法の中心的治療技法の一つ。
 スキナーのオペラント条件付けに関する研究成果およびその条件付けの原理を応用する行動変容法。
 生体の自発的な反応または行動の生起率に影響を与えるような刺激を操作的に生体の反応の生起直後に随伴させる手続きで、行動の変容を図るもの。

 主な手法
  ・シェイピング法
  ・トークン・エコノミー法
  ・刺激統制法
  ・行動契約法
  ・バイオフィードバック法
                   など


強化 reinforcement
 オペラント条件付けにおいて、反応に随伴した後続の結果(consequence)によりその反応の生起確率がオペラント水準に比べて増加した場合、その事態や過程もしくは操作をさす記述概念。

強化子 reinforcer
 環境の変化と個体の行動の変容との機能的関係によって定義された刺激の類(クラス)の一つ。
 正の強化子:反応増加の原因が、後続結果として刺激が呈示されたことによる場合
 負の強化  :反応増加の原因が、後続結果として刺激が除去された事による場合

罰刺激/罰子 punisher
 オペラント条件付けにおいて、反応に後続して何らかの環境変化が起こり、その後に反応出現確率の減少が確認された場合、その環境変化を罰刺激もしくは罰子という。
 この事態ならびに過程、または罰子を反応に随伴させる手続きをという。

嫌悪刺激 aversive stimulus
 生体に嫌悪感情を引き起こすと考えられる刺激の総称。
 逃避学習、回避学習、罰訓練などで負の強化子として用いられる有害または不快刺激、罰子(punisher)。
 嫌悪刺激によりその行動の生起頻度は低下する。

2013年1月18日金曜日

古典的条件付け classical conditioning



概略


道具的条件付けオペラント条件付け)とともに2つの条件付けの型の一つ。
レスポンデント条件づけ、パブロフ型条件づけとも呼ばれる。

条件刺激(CS)の呈示後に無条件刺激(US)を対呈示することにより、条件反応(CR)を形成するもの。
ロシアの生理学者パブロフ(Pavlov,Ivan Petrovich)が発見・提唱し、彼のイヌの唾液条件づけは代表的実験である。
この反射づけは明るいところでは瞳孔が収縮したり、食べ物が口にはいうと唾液が分泌されるような、生まれつきの反射(生得的反射機構)に基づいており、
このような生まれつきの反射、無条件反射には各反射を誘発する刺激、無条件刺激が存在している。
条件刺激と無条件刺激の対呈示を繰り返す強化
古典的条件付けが成立した後で今度は条件刺激だけを提示して無条件刺激を呈示しないという手続きを繰り返すと、条件反応は次第に弱まり、最終的には反応しなくなる消去
消去の途中でしばらく休止期間をはさみ、それから改めて条件刺激を呈示すると、一時的に条件反応が回復する自発的回復などの手続きからなる。
この他にも手続き中のCSとUSの呈示する時間や順番を変化させることで、条件づけられる反応を変えることができ、同時条件づけ遅延条件づけ恐怖条件づけなどでより高次の条件付けがなされる。



定義

・条件刺激の呈示後に無条件刺激を対呈示することにより、条件反応を形成するもの。

もともとは反応と関係のない刺激が学習によって新しく反応を引き起こす力、ある特定の条件下で獲得された後天的な反射(条件反射)を持つようになるまでの手続きやその結果を古典的条件付けという。


提唱者
  ロシアの生理学者パブロフ(Pavlov,Ivan Petrovich 1928 ) 
     1904年に食物消化の神経機構の研究でノーベル生理学医学賞を受賞。
     また、唾液分泌に関する研究中、条件反射の現象を発見した。
  彼の研究は20世紀初期からのアメリカの行動主義心理学の発展に大きく貢献した。



パヴロフ型条件付けの発見から、パヴロフは環境と動作との反射的結合が必ずしも先天的に規定された経路によるものではなく,中枢神経機能によって変化し得ることを示した。

パヴロフ型条件づけは、後にスキナー道具的条件づけと区別するためにヒルガードが古典的条件づけと命名した。
この古典的条件づけを人間の行動変容に適用する研究が発展し,行動療法の基礎が形成された。
また,彼の条件反射説は行動主義心理学の提唱者ワトソンの説の展開において中心的役割を果たし,学習理論にも寄与した。

さらに彼は犬に行った視覚弁別実験において、弁別課題が難しく嫌悪刺激の電気ショックを受ける可能性が高まると、
弁別の成績が悪くなるだけでなく、吠えたり噛みついたりといった落ち着きのない異常状態が慢性的に持続することが観測された。
(中枢神経系の興奮を生ずる条件刺激と類似した抑制を生ずる条件刺激を呈示すると異常な反応を示した)
これを大脳の興奮と制止の混乱によるものであると考え、人間の神経症に類似した症状であることから、この状態を実験神経症と名付けた。
この発見は、臨床精神医学の分野にも大きな影響を与えた。



刺激と反応

 
 無条件刺激 UnConditioned Stimulus ; UCS or US
  条件刺激に続いて呈示される刺激。
  唾液条件付けでの食物、恐怖条件付けでの電撃など。

 無条件反応 UnConditioned Response ; UCR or UR
  無条件刺激の呈示に伴って生ずる反応。
  食物に対する唾液分泌や、電撃に対する心拍・皮膚電気反射(GSR)などの不随意反応。

 中性刺激 Neutral Stimulus ; NS
  現在問題にしている特定の反応はもたらさない、行動を誘発させない刺激。

 条件刺激 Conditioned Stimulus ; CS
  条件付けが行われる対象となる刺激。
  初めは何も反応を誘発しない刺激も、無条件刺激との対呈示を繰り返すことにより
  特定の反応を生じさせるようになる。

 条件反応 Conditioned Response ; CR
  条件刺激に誘発される反応。
  当初は認められないが、条件付けの進行に伴って生ずるようになる。

手続き


条件刺激(Conditioned Stimulus:CS)の呈示後に無条件刺激(UnConditioned Stimulus:UCS , US)をついとして呈示することにより、条件反応(Conditioned Response:CR)を形成する。


オペラント条件づけとの違い

古典的条付け
 行動・反応に関わらず条件刺激と無条件刺激が対になって呈示されることにより反応が誘発される。
 基本的に条件付けの前に反応が起こる必要はなく、対象となる反応は不随意的である。

オペラント条件付け
 自発的な何らかの行動・反応に強化子が与えられることにより、行動の頻度が変化する。
 基本的に条件付けの前に反応が起こる必要があり、その反応は随意的である。



古典的条件付けの操作

強化 reinforcement
 古典的条件付けにおいて条件刺激と無条件刺激を対にして提示することによって引き起こされる事態。
 その後ソーンダイク効果の法則の中で今日の強化の概念的基礎が形成されていった。

消去 extinction
 条件付けにより形成された反応が、もはや強化されないことにより、その成功が減衰していく過程、または手続きをさす(手続きは特に実験的消去 experimental extinction)。

自発的回復 spontaneous recovery
 条件づけられた反応を消去している最中にしばらく休止期間を入れると、その後一時的に反応郷土が多少回復する現象。

脱制止 dishibition
 通常の消去期間中や弁別負刺激呈示中に新奇刺激を呈示すると、低く抑えられていた反応強度が一時的に多少回復する現象。
 脱制止にも馴化があり、新奇刺激の提示が繰り返されると消失していく。


 自発的回復や脱制止は、単に条件付けを消していくだけのプロセスではなく、
   積極的に条件反応を抑制するプロセスであることを示している。



レスポンデント行動 respondent behavior
 スキナーは行動を二分法的に分類し、それぞれレスポンデント行動、オペラント行動と命名した。
レスポンデント行動は、特定の誘発刺激によって引き起こされる反応である。
何が誘発刺激であるかは、生得的に定まっている場合もあれば、学習される場合もある。



同時条件付け simultaneous conditioning

条件刺激の提示を開始してから、5秒以内の一定時間後に無条件刺激を提示し、さらに一定時間後に両刺激(CSとUS)を同時に終了させる置いう手続きを繰り返す。一般にCSとUSが正確に同時に開始され終了する場合には、条件付けは起こりにくいとされる、CSがUSにわずかな時間先行する手続きは、標準的手続きとされる。たとえば、空腹の犬に1分間に100回の速さで音を出すメトロノームを聞かせ始めると同時に、ほぼ30秒余りで食べおわる量のドッグフードを入れたエサ皿を前に提示する犬はすぐに食べ始めるが、当然それと同時に宇井駅分泌が生じる、ドッグフードを提示して30秒後に、メトロノームを止め、同時にエサ皿もひっこめ、5~6分間放置し、また同じ手順でメトロノーム音とドッグフードを対提示する。この手続きを毎日同じ水準の空腹状態にした犬に6回ずつを繰り返してから、5日間くらい続けると、犬は1分間に100回の速さでなるメトロノーム音を聞くだけで、唾液分泌を生ずるようになる。


遅延(延滞)条件づけ delayed conditioning

条件刺激の呈示開始に遅れて無条件刺激の呈示が始まるが、両者が同時に呈示されている期間が存在するものをいう。
条件刺激を呈示してから5秒以上の一定時間後に無条件刺激を呈示し、さらに一定時間後に両刺激を同時に終了させるのがこのタイプの基本型である。
多くの実験状況で条件反応の形成に最も適しているとされるのは、0.5秒ほどの遅延である。
同時条件付との主な違いは、無条件刺激の開始が、このタイプでは、条件刺激の開始より5秒以上遅れる点である。この点が守れているなら条件刺激の収量が、少なくとも無条件刺激の開始と同時であっても、遅延条件付けに含まれる。


痕跡条件付け trace conditioning

条件刺激の呈示が終了した後ある間隔をおいて無条件刺激の呈示が始まるもので、両者が同時に呈示されている時間は存在しない
形成される条件反応の開始時期も条件刺激呈示期に遅れる。
間隔があまりに長くなると条件付けは困難になっていく。
たとえば空腹の犬に、あらかじめ定めた音を40秒間聞かせ、続いてその音を停止し、120秒経過したと同時に、ドッグフードの入ったエサ皿を30秒間だけを提示するという手続きを繰り返して、音に膵液分泌を条件づけるなら、これは痕跡条件付けである。無条件刺激(ドッグフード)が提示されるときには、条件刺激(音)は提示されておらず、あるのは中枢神経系における条件刺激の痕跡であることから痕跡条件付けといわれる。


逆行条件付け backward conditioning

 通常とは逆に無条件刺激の開始が条件刺激の開始に先行するもので、条件付けは成立しないとされる。
条件付け実験の統制手続きとして用いられたこともあった。


時間条件反応 temporal conditioned response

 明確な条件刺激を与えないで、無条件刺激のみを一定時間間隔で与えると、ちょうど無条件刺激出現時間直前に条件反応が現れるようになる。
最終の無条件刺激からの経過時間の感覚が次の無条件刺激に対する条件刺激の役割を果たしていると考えられる。
たとえば空腹の犬に、25分おきに30秒間だけドッグ・フードを呈示することを繰り返していると、ドッグフードを与えなくても25分おきに膵液分泌が生ずるようになる。


2013年1月13日日曜日

プライミング priming


概略



 先行刺激(プライム刺激)が提示されると後続刺激(標的刺激)の処理に無意識的に促進効果を及ぼすこと。
条件によっては、抑制効果を及ぼすこともあるが、この場合のプライミングを、ネガティブ・プライミング(negaive priming)と言うことがある。
プライミングには、直接プライミング(direct priming)と間接プライミング(indirect priming)があり、直接プライミングは、さらに知覚的プライミング(perceptual priming)と概念的プライミング(conceptual priming)に分けられる。
 反応を促進するプライミングは促進的プライミングとよばれ、反応を抑制するプライミングは抑制的プライミングとよばれる。



定義
プライミング
 先行刺激の受容が後続刺激の処理に無意識的に促進効果を及ぼすこと
   直接プライミング(反復プライミング:repetition priming)
    先行刺激(プライム刺激)と後続の刺激(ターゲット刺激)が同じ場合。
    先行刺激が後続刺激としても繰り返し呈示されたり、
    先行刺激が後続刺激の反応として繰り返し出現する場合のプライミング
      知覚的プライミング プライム刺激とターゲット刺激が知覚的に同じ
      概念的プライミング 概念的に類似している

   間接プライミング
    先行刺激が後続刺激の認知閾に促進的影響を与える
    

 
プライム
 先に見聞きする、先行する刺激・事柄

ターゲット
 プライムの影響を受ける後続の事柄


 
  


 知覚的プライミングの実験では、プライム刺激(先行刺激)としていくつかの単語(例:だいどころ)を呈示し、一定時間後、単語完成テスト(例:だい□□ろ)を行うと、呈示した単語についての単語完成テスト項目は、呈示されなかった単語完成テスト項目より正答率が高い。
すなわち先行刺激が後続のテストに促進効果を持ったのである。

 概念的プライミングの実験では、たとえばプライムを刺激としていくつかの単語(例:だいどころ)を呈示し、一定時間後、自由連想テスト(例:料理→○○)を行う。すると呈示された単語の方が呈示されなかった単語よりも、連想語として出現しやすい。

知覚的プライミングはプライム刺激の知覚的要素が、概念的プライミングはプライム刺激の概念的要素が、プライミングを起こしていると考えられる。

 間接プライミングの実験では、プライム刺激(例:だいどころ)を呈示しその認知閾を測定し、次にテスト刺激(例:たべもの)のそれを測定すると、両刺激間に連想関係がある場合には、ない場合と比べ、テスト刺激の認知閾が低下する。これは、プライム刺激の認知がテスト刺激の認知を促進したのである。



2013年1月9日水曜日

元型 archetype

 

概略

ユング(Jung,C.G.)の概念で、集合的無意識の内容。
心の奥底にある普遍的イメージやパターンのことで,さまざまなイメージを生産し,そのイメージが個人の心を左右する。
宗教や神話、そして幻覚や妄想といった精神的体験のなかに時代や文化をこえた普遍的なイメージが認められることから、ユングは人間の精神世界の中に祖先から受け継いだものがあるとして元型を考えた。
ユング心理学において,元型は中核となる概念のひとつであるため,元型心理学とも呼ばれる。
イメージ療法、夢、自由連想、白昼夢、精神症状などに反映される。



定義
 ユングの仮定した集合的無意識の内容で、人類に共通する心の奥底にある普遍的イメージやパターン。



集合的無意識普遍的無意識collective unconscious

ユング(Jung,Carl Gustav)による概念で、人類に共通でより深い人格層にある無意識のこと。
ユングは、人間は精神(プシケ)を構成部分内容力動的力相互関係という4側面から捉えているが、集合的無意識は構成部分の一つである。
分析心理学においては、S.フロイト構造論の中の1つである無意識をさらに個人的無意識集合的無意識に分けた。
前者は、抑圧された個人的な内容を持つ無意識であり、
後者は人類に共通でより深い人格層ある無意識である。
すべての人が保持・共有している記憶,本能,経験を保持している無意識の一部分で、客体的なこころ,人種的記憶,人種的無意識ともいう。



元型イメージの代表例


自己(セルフ self)
 究極の目的としての自分。円のイメージであらわれる。天使の輪など。


影(シャドウ shadow)
 自分の認めたくない面を他人に投影させたもの。
 見知らぬ不気味な人としてあらわれる。


太母(グレートマザー great mother)
 すべてを生み出すものとしての母。慈悲深い面と恐ろしい面をあわせ持つ。


老賢者(オールドワイズマン old wise man)
 若いときにあらわれるもの。
 智恵を持ち,自分を導いてくれる老人としてあらわれる。


アニマ(anima)
 男性の中の女性像。
 母親から生まれたイメージを出発点とし,成長に応じて発展していく。


アニムス(animus)
 女性の中の男性像。
 父親から生まれたイメージを出発点とし,成長に応じて発展していく。

2013年1月6日日曜日

演繹と帰納 deduction and induction



演繹 
 定められた論理規則に従って、前提命題から結論となる命題を導くこと。

 演繹推理は、一般的法則を、個別的な事柄に適用して個別的知識を導き出す思考過程である。
 正しい前提に基づいて、演繹推理の手続きで結果を得られたなら必ず正しい結論に達する。
 そのため、導き出された結果は、強い説得力を持つ。
 しかし、1つずつ順序立てて仮定していくため、理論が1つでも破綻したら、その先にある結論へは絶対にたどり着けないという欠点がある。
 演繹推理には、一つの命題から結論を導く直接推理と、二つ以上の命題から結論を導く間接推理がある。
 三段論法は、間接推理の一種である。
 


帰納 
 個別的な命題から、そこに共通する普遍的な命題を導くこと。

 帰納推理は、いくつかの個別的知識から、一般的法則を導き出す思考過程である。
 演繹推理と異なり、一般的法則を導き出すときに新たな意味情報を加えることになる。
 そのため、蓋然性の高い結果は得られても一義的に結論を決定することはできない。
 つまり、導き出された結論はあくまで統計論にすぎない、という欠点がある。
 しかし人間の知識獲得には重要な過程であり、概念を形成したり言葉を獲得したりする際に用いられ、人間の学習の基礎になっていると考えられる。



例 ①

演繹推理
 前提条件: すべての人間は、いつか死ぬ
   事実 : ソクラテスは人間だ
   結論 : ソクラテスも、いつか死ぬ

帰納推理
  ソクラテスは死んだ
  アリストテレスは死んだ
  プラトンは死んだ
    ⇒すべてに共通するのは”人間である”ということ
  結論 : すべての人間は、いつか死ぬ


例 ②
 
 演繹推理
  前提条件: A社の商品はオーガニック商品だ
    事実 : 商品XはA社製だ
    結論 : 商品Xはオーガニック商品だ

 帰納推理
   商品Xはオーガニック商品だ
   商品Yはオーガニック商品だ
   商品Zはオーガニック商品だ
     ⇒すべてに共通するのは”A社製である”ということ
   結論 : A社の商品はオーガニック商品だ


  

2013年1月4日金曜日

仮現運動 apparent motion



概略
 

客観的には静止している対象が特定の位置または時間間隔で出現・消失を繰り返すとき,その対象が運動しているかのように知覚されることがある。広義には、物理的運動が存在しないにもかかわらず知覚される見かけの運動をいう。狭義では、対象A、Bを適切な時間感覚をおいて、異なる地点に交互に呈示するとき知覚される対象の運動を言う。視覚以外にも聴覚,触覚などでも認められている。


日常場面において見られる例として、映画や踏切の警報機彼があげられ、これはβ運動と呼ばれている。
ゲシュタルト心理学者のウェルトハイマー(Wertheimer,M.)は、この現象を構成主義心理学の要素論的見解に反論するものとしてとらえ、仮現運動の成立要因を初めて実験的に研究した。
このとき刺激の呈示間隔時間が約30ミリ秒以下のとき、2光点の同時点滅が知覚される(同時時相)。
また、呈示する時間間隔が約60ミリ秒のとき、実際運動の知覚と変わらない、滑らかで明らかな運動が知覚される(最適時相)。これを特にφ(ファイ)現象という。
約200ミリ秒以上では、2光点の継続的な点滅が知覚され、運動は知覚されない(刑事時相)。

仮現運動にはこの他に,例えばミュラー=リヤー図形の主線の両端の矢羽の外向きと内向きを交互に呈示すると,主線が伸縮して見えるα運動や,ひとつの静止した光点の輝度の強弱を急激に変化させると,強度を上げるときには光点が膨張し,強度を下げるときには収縮して見えるなどがある。





定義

広義
 物理的運動が存在しないにもかかわらず知覚される見かけの運動

狭義
 対象A、Bを適切な時間感覚をおいて、異なる地点に交互に呈示するとき知覚される対象の運動

 ・映画やテレビのように、網膜に投影された画像の位置変化が生み出す運動印象。
  
  ・実際には動いていないのに、運動を感じること。特に数cm離れた二つの視覚刺激を交互に一定の速度で出現させたり、示したりするときに生じる一連の錯視のこと。


研究者

  ドイツの心理学者 ウェルトハイマー(Wertheimer,M.)



日常例
  映画やアニメ (コマ送りの連続)
  踏切の警報機
  電光掲示板 (複数の光点が点滅することによって、表示された文字などが動いて見える)


2013年1月2日水曜日

タイプA行動パターン type A behavior pattern


 
概略
 

 1950年代にアメリカの心臓病医フリードマンと、ローゼンマンによって、虚血性心疾患の危険因子の1つとして提唱された行動的特徴。フリードマン(Friedman,M.)、ローゼンマン(Rosenman,R.H. et al.)虚血性心疾患の患者には、ある共通した特徴があることに気付き、これをタイプA行動パターンと名付けた。特徴は以下のようなものである。


 性格面:競争的、野心的、精力的

 行動面:機敏、性急、常に時間に追われて切迫感をもっている、

多くの仕事に巻き込まれている

 身体面:高血圧、高脂血症が多い
 

タイプAの人は、自らストレスの多い生活を選び、ストレスを多く受けているにもかかわらず、そのことをあまり自覚せずに過ごす傾向がある。また、ストレスに対する反応の仕方も、交感神経優位型の反応が現れやすく、血圧が上がる、脈拍が増えるなど循環器系に負荷がかかり、虚血性心疾患の発症に関係していると考えられている。心臓病にならないように、日頃の生活習慣(ライフ・スタイル)を見直して、過労に陥らないように予防に努めることが重要。

2013年1月1日火曜日

シェイピング shaping


 
概略
 

 スキナーによって考案された応用行動分析モデルに基づく行動療法の一技法。複雑で新しい行動を獲得させるために、標的行動をスモール・ステップにわけ、達成が容易なものから順に学習し、最終的に目標行動を獲得させていく方法。オペラント技法の一つであり、プログラム学習の基礎をなす。通常は最初に単純な反応が要求され、その反応をより複雑で洗練されたものにするために、強化の基準を徐々に厳しく変化させていく。結果の操作を重視し、行動それ自体を変化させていく過程である。このような手続きは、最終目標とする行動が完全に達成されるまで続けられる。シェイピングを成功させるための留意点としては、標的行動を正確に明確化する、すでに達成できている行動を確認し、シェイピングされるべき行動を選択する、大きすぎず小さすぎないステップのサイズを設定する、などがあげられる。
 

 

定義

複雑で新しい行動を獲得させるために、標的行動をスモール・ステップにわけ達成が容易なものから順に形成していく方法

 

提唱者

 スキナー Skinner,Burrhus Frederic1904-90
   20世紀を代表する心理学者の一人で行動分析の創始者。