2013年2月11日月曜日

人間性心理学 humanistic psychology


概略


人間を無意識に支配されているとする精神分析や、外的環境に支配されているとする行動主義に対して、人間を自由意志を持つ主体的な存在としてとらえる立場。
個人の独自性と自由性を重視し、個人への共感的関与を特徴とする。
アメリカでは1960年代以降、西海岸を中心にして急速に広まった。
マズロー(Maslow,A.H.)はこれを、精神分析と行動主義の二大勢力に対して第三勢力(の心理学)と呼んでいる。
人間性心理学に基づく心理療法はクライエントの主体性と自由を強調し、治療へのクライエントの責任を明確にし、それまでの心理療法各派への大きな影響を与えた。
実存主義的心理療法も人間性心理学として分類されることがある。



代表人物 例

 A.H.マズロー(Maslow,A.H.)
  自己実現の概念の提唱者。
  階層的動機論で自己実現欲求を明らかにし、欲求階層説を提唱した。
  また、人間性心理学の立場を第三勢力と呼んだ。

 C.R.ロジャーズ(Rogers,C.R.)
  クライエント中心療法の創始者。
  受容共感を重視した。

 A.アドラー(Adler,A)
  個人心理学の創始者。
  人間性心理学の立場の先駆者として、人間が主体的に決断しうる存在であることを強調した。

 V.E.フランクル(Frankl,V.E.)
  実存分析、およびロゴテラピー(Logotherapie)の提唱者。
  アウシュヴィッツの強制収容所における体験を著した『霧と夜』(1947)は名著と言われる。

 L.ビンスワンガー(Binswanger,Ludwig)
  現存在分析の創始者。
  人間は本来世界内存在、すなわち他との関係において初めて成り立つという人間観がある。

 E.T.ジェンドリン(Gendlin,E.T.)
  ロジャーズの弟子で、体験過程理論の概念の提唱者。
  体験過程とは、有機体内の感覚としては確かに感じ取れる心身未分化な体験の流れのこと。
  体験過程療法における主要技法にフォーカシングがある。

 J.L.モレノ(Moreno,J.L.)
  ソシオメトリーサイコドラマの創始者。

 F.S.パールズ(Perls,F.S.)
  ゲシュタルト療法の創始者。
  過去の体験や生育歴の探索ではなく、患者の「今、ここで」の体験と関係の全体性に重点を置く。


人間性心理学の基本的特徴

 ①人間性を全体的に理解する
 ②人間の直感的経験を重視する
 ③「今、ここ」で体験されるものや、個人にとって意味のあるものが重要である
 ④研究者もその場に共感的に関与する
 ⑤個人の独自性を中心におく
 ⑥過去や環境より価値や未来を重視する
 ⑦人間独自の特質、選択性、創造性、価値判断、自己実現を重視する
 ⑧人間の健康的で積極的な側面を強調する

                                など

これらの考え方は、健常者の人格成長や自己開発にも貢献しうる。
教育や成長を目的とした集団療法もこの流れをくむものが多い(エンカウンターグループなど)。

批判を受ける点

 ①知性を軽視し、感情を重視しすぎる
 ②自己決定の力が過度に強調されている
 ③科学的探究に対する不信と否定がみられる
 ④主観的現象を記述する概念の定義が不明確である
 ⑤共感的態度だけでは永続的な効果は望めないと考える
 ⑥人間の持つ悪や影の部分が見落とされる

                               など

人間性心理学に依拠した実践(療法

 Tグループ training group
  人間関係訓練の一つで、感受性訓練(sensitivity training ; ST)、
  ラボラトリー・トレーニング等とも呼ばれる。
   ・防衛機制の撤廃
   ・いま・ここ(here and now)の現実を生きることの体験
   ・現場への応用
              を目的とする

 エンカウンター・グループ encounter group
  自己成長を目指し、一時的に10人前後のグループを形成し、数日間合宿生活をする中で
  お互いの人間性をぶつけ合うような課題を経験する。


自己理論

 来談者中心療法を発展させたC.R.ロジャーズは、人間が本来的に持っている実現傾向、成長能力や適応能力を重視し、この発現を促進する条件としてカウンセリングやエンカウンター・グループにおける受容共感を重視した。
 ロジャーズの自己に関する理論は自己理論と呼ばれ、クライエントの不適応状態を理想自己現実自己のずれとしてとらえる。
 この両方の自己を受容しともに生きることでずれを解消する方向に向かう傾向を実現傾向と呼んだ。
*理想自己と現実自己の一致そのものではなく、両者が受容されることが重視される。

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