2013年2月28日木曜日
トップダウン処理 / ボトムアップ処理 top-down processing / bottom-up processing
概略
認知心理学における情報処理アプローチで、ノーマンら(Norman,D.A. & Bobrow,D.G.)によって提唱された人間の能動的な情報処理の対極的ともいえる2種類の仕組み。
トップダウン処理とは、概念駆動処理(conceptually driven processing)ともよばれ、既有の記憶に依存することが大きく、高次の水準にある概念や理論などから駆動され、入力データを予想や仮説、期待などのもとに処理していく。
仮説演繹的に文脈による期待や知覚の構えから全体を想定して、部分的な構成要素を推測していくもの。
これに対してボトムアップ処理とは、データ駆動処理(date driven processing)ともよばれ、感覚入力データ群によって駆動され、それを扱い処理するスキーマを見出し、それらのデータはより上位の概念や枠組みに取り込まれていく。
分析―帰納的に感覚レベルでの部分的情報処理から全体像を推測していくもの。
すなわち、両方の仕組みでは、人間の知識や記憶の構造体であるスキーマ群と感覚情報からのデータ群とが、相互にやり取りする空間的な場が存在することが想定されており、ここで相互の間で、比較、照合、検証などがなされ、重層的に情報処理されることが前提となっている。
2013年2月27日水曜日
ゲシュタルト / ゲシュタルト心理学 Gestalt / gestalt psychology
概略
ゲシュタルトとは、形態や姿を意味する言葉であるが、ゲシュタルト心理学においては、要素に還元できない、まとまりのある一つの全体がもつ構造特性を意味する。
知覚の全体性や場の理論を重視する立場である。
ウェルトハイマーを創始者としてドイツで誕生し、ヴントに代表される要素主義の考え方を否定した。
ウェルトハイマーは仮現運動の実験を通してゲシュタルトの考えを実証し、視野の中で対象が分離し、それらがまとまって群を作る体制化の過程、および分離や群化が簡潔・単純な方向に向かって起こるというプレグナンツの傾向が秩序ある知覚世界を成立せしめていることを図形例を用いて説いた。
ゲシュタルトの概念は知覚のみならず、記憶、思考、要求と行動、集団特性等、広く心的過程一般に適用された。
定義
要素に還元できない、一つの全体が持つ構造特性であるゲシュタルトの概念を媒介とした、物心一元論的現象学的心理学
代表人物
ウェルトハイマー Wertheimer,M.
ゲシュタルト心理学の創始者。
仮現運動の実験結果から、ゲシュタルトの考えを実証した。
さらに、視野の中で図と地が分化し、さらに図がまとまって群をつくる体制化の過程、およびそれらが簡潔・単純な方向に向かって起こるというプレグナンツの傾向が、秩序ある知覚世界を成立させていることを図形例を用いて説いた。
ケーラー Köhler,W.
ゲシュタルト心理学の中心人物の一人。
物理学の場理論に精通しており、ゲシュタルト性が心的現象ばかりでなく物理的世界にも存在し、
広い意味での物理法則が支配する中枢神経系と現象世界の間には対応関係が成立するはずであるとする心理物理同型説を展開し(1920)、後年、図形残効などの研究によってそれを支持する証拠を追及した。
コフカ Koffka,K.
ゲシュタルト心理学の中心人物の一人。
『知覚―ゲシュタルト心理学序論』(1922) …ゲシュタルト理論を初めて紹介した論文
『ゲシュタルト心理学の原理』(1935)…理論の体系化を目指した大著
⇒心理学を行動の科学とすること、心理物理同型説の立場をとるとはいえ、
生理的対応過程の追求よりも現象ないし行動の世界の分析を重視するとした。
その際、行動を刺激への反応の集合としてではなく、部分の変化が他のすべての部分に
影響を与えるような力学的系としての場に依存して生じると考える。
レヴィン Lewin,K
物理的な環境とはなかば独立した心理学的な存在である生活空間の概念を用いて行動を理解しようとし、トポロジー心理学と呼ばれる力学的な理論を提起した。
場理論、グループ・ダイナミックスの研究などが代表。
key words
ゲシュタルト gestalt
ドイツ語を語源とし、形態と訳される。
体制化された構造(organized structure)、要素に還元できない、一つの全体が持つ構造特性であり、集合体(aggregate)やたんなる総和(summation)とは区別されるものをいう。
体制化の結果を記述するのに用いられるだけでなく、過程そのものの構造的な特性をも示している。
プレグナンツの傾向 Prägnanztendenz
一般的にはプレグナンツの法則または原理と呼ばれる。
ウェルトハイマーが指摘した、体制化が簡潔・単純な方向に向かって起こる傾向をいう。
視野は全体として最も簡潔な、最も秩序あるまとまりをなそうとする傾向がある。
しかし簡潔でよい形(gute Gestalt)のまとまりとは必ずしも規則的や相称的を意味するものではなく、「知覚の体制化における単純で統一的な結果を実現させる傾向」を意味する。
仮現運動 apparent movement
物理的運動が存在しないにもかかわらず知覚される見かけの運動。
狭義には対象A、Bを適切な時間間隔をおいて、異なる地点に交互に呈示するとき知覚される対象の運動。
映画や踏切の警報器などで観察される。
要素主義 elementalism
心の世界を究極の構成要素に分解してその結合の法則を明らかにしようとする立場。
人間の心理現象は要素の総和によるものであり、視覚・聴覚などの刺激には、個々にその感覚や認識などが対応しているという考え。
ゲシュタルト心理学以前のすべての実験心理学がなんらかの意味で要素主義を暗黙の前提にしている。
意識心理学以外でも、パヴロフの条件反射学や行動主義の刺激反応学説(S-R説)など近代心理学の多くがこの立場である。
2013年2月20日水曜日
催眠 hypnosis
概略
言語暗示によって人為的に引き起こされた意識の変容状態のことで、18世紀後半にメスメル(Mesmer,F.A.)が動物磁気という名前で心理療法として初めて催眠を使用した。
催眠には催眠状態と呼ばれる意識状態と催眠暗示現象の2つの大きな側面がある。
催眠の意識状態は催眠性トランスとも呼ばれ、変性意識状態の一つである。
催眠暗示現象には代表的なものとして、運動性の暗示現象、知覚性の暗示現象、人格性の暗示現象などがあり、これらの暗示現象が引き起こされている状態を催眠性トランス状態という。
催眠性トランス状態を演技的に行うことは可能だが、暗示現象は演技と異なり、その人自身には自分が行っている感覚がない。
催眠状態の特徴として、イメージが活性化されること、心身のリラックス状態が得られること、注意集中が受動的でかつ狭くなることなどがあげられる。
催眠に誘導するためには暗示が重要であり、催眠療法では通常、催眠誘導のために決まった一連の暗示系列がある。
定義
言語暗示によって人為的に引き起こされた意識の変容状態
人物
F.A.メスメル Mesmer,F.A.
ウィーン生まれの医師で、18世紀後半に動物磁気という心理療法で催眠を初めて使用した人物。
動物磁気療法はメスメリズムとも呼ばれる。
J.ブレイド Braid,J
イギリスの医師。
眠りを意味するギリシャ語hypnosから催眠『hyponosis』と名付けた。
言語によって催眠現象を引き起こす言語暗示法を創始し、これは今日の催眠療法の基本形である。
key words
動物磁気 animal magnetism
ウィーンの医師メスメル(Mesmer,F.A.)は1766年に発表した「人体におよぼす遊星の影響について」と題する論文の中で、遊星の影響と物理学における時期の概念に着目し、人体の中に磁気の両極を仮定し、磁気分布が適当でないときに病気が生じると考えた。
一定の状況下でカタレプシーを生じさせるものであったと言われ、彼の理論はメスメリズムとよばれ、催眠研究の端緒であると考えることもできる。
トランス trance
何らかの方法で普段の意識状態と著しく異なる状態が覚醒中に生じるとき、その意識状態をトランスという。
目の前で起きた出来事についての意識の狭窄や個人的同一性の感覚の一時的喪失、運動活動や発話の減退がみられ、被暗示性も強まっている状態。
極端に興奮を高めることによって生じるものと、極端に興奮を鎮めることにより生じるものがある。
前者は原始宗教やシャーマンなどにみられる憑依状態や脱魂状態であり、
後者は瞑想状態などが例としてあげられる。
トランスは薬や催眠によっても生じる。
催眠性トランス hypnotic trance
催眠の意識状態で、理性的思考が減少し、象徴的思考やイメージ思考などが顕著になる。
さらに現実的関心が減少し、自己感覚に浸り、その感覚を世界空間にまで広げていくような特徴を持っている。
暗示 suggestion
対人的な影響過程の一種で、認知・感情・行動面での変化を無批判に受け入れるようになる現象、またはそのような現象を引き起こすための刺激、その際の心理過程をいう。
言語によって与えられることが多いが、ジェスチャーによるなど非言語的なものもある。
催眠状態に誘導してさまざまな現象を引き起こすには必須のものであるが、催眠そのものではない。
通常の覚醒状態で与えられる覚醒暗示と、催眠状態での催眠暗示などが区別される。
催眠暗示現象 例
・運動性の暗示現象
四肢が動く / 動かない、固まる など
・知覚性の暗示現象
痛み・温感・味覚・聴覚・触覚などにおける変容
特に身体知覚における暗示現象は生じやすい
・人格性の暗示現象
年齢退行、健忘、自動書記、人格交替、後催眠暗示 など
ヒルガード Hilgard, E. R.による催眠現象の特徴
①企図機能の低下
②注意の再配分
③過去の記憶の視覚的利用が可能で,空想や創作の能力が亢進する
④現実吟味の低下および持続的な現実歪曲に対する耐性
⑤被暗示性の亢進
⑥役割行動
⑦催眠中の体験についての健忘
つまり催眠とは、暗示によって人為的に引き起こされた特異な心身の変性意識状態(トランス)と被暗示性亢進の状態である。
成瀬悟策による催眠法における3条件
①催眠誘導の過程に生じる諸現象に関すること
②催眠状態(トランス)そのものに関すること
③催眠状態での機能や効果に関すること
催眠療法 hypnotherapy
催眠を用いた心理療法で、18世紀後半のメスメルの動物磁気療法によって始まった。
現代における催眠療法は三つに分類できる。
①暗示性催眠療法
催眠現象のなかの暗示の特徴に強調点がおかれた催眠療法。
M.H.エリクソンの影響によって、求める状態を直接的に暗示する直接暗示ではなく、
別の状態を媒介させることによって求める間接暗示が用いられることが多い。
②リラックス催眠療法
催眠の意識状態に重点を置いた利用方法。
催眠状態では、現実的な事柄からの解放がある。
この特徴である心理的安全地帯に誘導することによって、治療をしていこうとする方法。
③イメージ催眠療法
イメージの側面に重点を置いた催眠療法で、イメージ療法と呼ばれることも多い。
イメージ空間の中での体験が重要視され、体験を深めることによって
体験の変容を求める方法や、精神分析的考え方で進める方法、
ユング心理学的考え方で進める方法、行動療法的考え方で進める方法など、
さまざまな具体的方法がある。
総合的に催眠療法では、体験、メタファ・象徴や心的流れを重視しているという共通した考え方がある。
一般に催眠と呼ばれるときは、催眠にかかる人に対して催眠をかける人を必要とする。
しかし、自分自身に催眠現象を生じさせることが可能である。
催眠者を他者に求めない自己催眠と、他者を必要とする他者催眠がある。
自己催眠の代表的な例として、シュルツによって体系化された自立訓練法(autogenic training)が挙げられる。
2013年2月19日火曜日
対象関係論 object relations theory
概略
精神分析理論の一つで、自我と対象の関係(内的対象関係)のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。
前エディプス期の段階での母子関係における自我の発達を対象関係として扱う理論である。
自我は本来、対象希求的なものであるとし、自我と対象との関わりを一義的なものとして考える。
乳児の内的対象関係は、自己と他者の区別のない自己愛的対象関係から、対象の一部を認識する部分的対象関係段階を経て、統合された全体的対象関係へと発展する。
そしてその段階に応じて対象との間にさまざまな不安を体験していく。
この理論をめぐって個人の現実適応を重視したA.フロイトらの自我心理学との論争が起こった。
対象関係論は原始的防衛機制に着目したM.クラインや、移行対象などの概念を提唱したD.W.ウィニコットらによって発展させられていった。
定義
前エディプス期の段階での母子関係における自我の発達を対象関係として扱う理論。
自我と対象の関係のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。
代表的人物
M.クライン Klein, Melanie
精神分析家で対象関係論の創始者。
S.フロイトの内在化の概念を発展させ、内的対象の概念を提唱し内的対象関係を重視した。
また、転移を内的世界の外在化としてとらえた。
妄想-分裂体制と抑うつ態勢の概念や、分裂機制による良い内的対象と悪い内的対象の分裂を提唱した。
前エディプス期における子どもの精神発達に焦点を当て、原始的防衛機制の解明に貢献し、
今日の対象関係論の発展の基盤を作った。
児童分析をめぐってA.フロイトと激しい論争を展開した。
D.W.ウィニコット Winnicott, D.M.
内的で主観的な世界と外的で客観的な環境要因とのかかわりを重視し、相互の橋渡しを軸とした概念や理論を展開し、抱える環境の失敗から精神病理を捉えた。
分離不安に対する防衛として移行対象の概念を提出し、移行対象を幼児の錯覚が脱錯覚されていく過程における代理的な満足対象として捉えた。
また抱える環境の失敗による不安が、子どもの本来の自発性と創造性を犠牲にする迎合的な偽りの自己を発達させることを明らかにした。
M.バリント Balint, M.
言語に古典的精神分析では扱うことが難しい、治療関係において原初的な母子関係が現れるクライエントの特性として基底欠損をあげ、主に境界例患者における対象関係の重要性を指摘した。
W.R.D.フェアバーン
⇒ウィニコットやフェアバーンは、A.フロイトとM.クラインの論争のどちら側にも積極的に味方をしなかったため、英国独立学派と呼ばれる。
key words
内的対象関係
外的な対象に加えて、個体の精神内界に形成される内的対象との間で発展する対象関係
妄想‐分裂態勢
堅固なナルシズムが支配的で、部分対象関係による妄想的不安と分裂機制が作動する状態。
内的対象は良い内的対象と悪い内的対象に分裂している。
抑うつ態勢
全体対象関係が成立して対象の価値を認める状態だが、そのために母親からの分裂に伴う不安が生じる。
2013年2月15日金曜日
防衛機制 defense mechanisms ; mechanisms of defense
概略
不快な感情の体験を弱めたり避けることによって、心理的な安定を保つために用いられるさまざまな心理的作用で、無意識的に発動する自我の働き。
この働きは、本能的欲求(イド)とそれを満たすことのできない現実(超自我)との間に葛藤が起きたとき、極端な自信喪失や不安などによる人格の崩壊を防ごうと無意識的に行われる。
誰にでも認められる正常な心理的作用で、通常は他のものと関連し合いながら作用する。
不安や不快を回避して状況に適応するための手段として我々の日常生活において意義をもつといえるが、特定のものが常習的に柔軟性を欠いて用いられると、病的な症状や性格特性などの不適応状態として表面化することになる。
S.フロイトは、受け入れがたい観念や感情を受け流すために無意識的にとる心理過程を防衛と呼び、また苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい観念や感情が無意識に抑圧されるとし、この抑圧を自我の防衛として捉えられた。
自我の防衛の概念は、A.フロイトによって防衛機制として体系化され、また、M.クラインは子供の治療の経験を通して原始的防衛機制を明らかにした。
定義
不快な感情体験を弱めたり避けることによって心理的安定を保つために無意識的に用いられるさまざまな心理的作用。
提唱者
S.フロイト Sigmund Freud
苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい観念や感情を受け流すために
無意識的にとる心理過程を 防衛 という用語で1894年に初めて記載。
A.フロイト Anna Freud
防衛機制論を発展をさせた。
防衛機制自体には健康的な側面もあり、自我の健康な働きを強調し、
精神分析的自我心理学の基礎を作った。
M.クライン Klein Melanie
前エディプス期における子どもの精神発達に研究の焦点を当て、
原始的防衛機制の解明に貢献し、今日の対象関係論の発展の基盤を作った。
防衛 defense
S.フロイトに由来する精神分析理論の中心概念のひとつ。
強い葛藤を感じたり、身体的・社会的に脅威にさらされたり、自己の存在を否定されたりというように自我が脅かされたとき、直接的な欲求の充足を求める衝動に対抗するとともに、不安の発生を防ぎ、心の安定と調和を図るためにとられる自我による無意識の調整機能を防衛と言い、また、そのためにとられる手段を防衛機制という。
代表的な防衛機制
抑圧 repression
一番基本的で重要なメカニズムである。
自我の代表的な防衛機制で、受け入れがたい観念、感情、思考、空想、記憶を意識から締め出そうとする無意識的な心理的作用。
抑圧された内容は夢、言い間違いなどの失策行為、白昼夢、症状などのなかに現れるとされる。
意識的に行う抑制suppressionとは異なる。
反動形成 reaction formation
受け入れがたい衝動や観念が抑圧されて無意識的なものになり、意識や行動面ではその反対のものに置き換わること。
例:憎しみの感情に代わって愛情だけが意識される
拒否感を否定するために子どもに過保護になる など
退行 regression
以前の未熟な段階の行動に逆戻りしたり、未分化な思考や表現の様式となること。
過去の発達段階に戻り、その段階で満足を得る。
不随意的で非可逆的な病的な退行と、遊びや睡眠などのより健康的で創造的な退行とが区別される。
精神療法の過程で治療力動との関わりにおいて起こる退行である治療的退行(therapeutic regression)が必須のものと考えられている。
例:弟・妹の誕生後に夜尿や指しゃぶりが再発する など
置き換え displacement
ある表象に向けられていた関心や精神的エネルギー(カセクシス)が、自我にとってより受け入れやすい、関連する(連想上結びつく)別の表彰に向けられることをいう。
転換や昇華、感情転移といった機制のなかにも置き換えが含まれている。
S.フロイトによって神経症の症状形成の一つ、また夢の心的規制の一つとして取り上げられている。
投影 projection
受け入れがたい感情や衝動、観念を自分から排除して、他の人やものに位置づけること。
自分の欲求や感情を、相手のものと考える。
正常な心理過程でもみられるが、より病理の重い場合に現実吟味能力の低下を伴ってしばしば生じる。
投影法検査の理論的根拠ともなっている。
例:自分が嫌っている人がいる場合に、相手が自分のことを嫌っているように感じる
隔離 isolation
欲求や感情と対象との関係、思考と感情のつながりなどを切り離すこと。
苦痛な体験を語るときに、感情が伴わない(感情を記憶から切り離す)など。
否認 denial
外的な現実を拒絶して、不快な体験を認めないようにする働き。
子どもが強いヒーローであるかのように空想したり振る舞うことで、自分が無力であることから目をそらすような場合に用いられる。
軽度なものは健康な人にもみられるが、重篤なものは精神病的な状態で生じる。
臨死患者などの場合にも、自分の病気の受容体験の一段階として生じる。
同一視(同一化) identification
自分にとって重要な人の属性を自分のなかに取り入れる過程一般をさして用いられる。
発達において重要であり、社会・文化への適応力や、アイデンティティ確立の基礎が築かれる。
取り入れ(摂取) introjection
他者の好ましい諸属性を自分のものにしようとする働き。
(好ましい性質を取り入れて同一化する。)
同一視(同一化)が生じる前段階と考えられている。
健康な精神発達の上で重要な役割を果たす一方、自他の区別があいまいになる場合もある。
合理化 rationalization
葛藤や罪悪感を伴う言動を正当化するために社会的に承認されそうな理由づけをおこなう試み。
論理的な理由をつけて合理的に説明する。
実際には抑圧されている願望から生じる行動を説明するために、事実ではないが得心のいく、または自分の為になる理解が作り出される。
例:「すっぱいブドウ」 (イソップ物語 キツネの言い訳)
失敗を偶然的な原因に帰す場合
言動の責任を外的な要因に求める場合 など
昇華 sublimation
性的欲求や攻撃欲求など社会的に許容されない本能的・反社会的な欲求を、文化的社会的価値のあるな行動に変容し充足させること。
置き換えを基本とする機制である。
他の機制とは異なり、欲求は抑圧されることなく、現実に取り組むエネルギーとなる。
例:性的欲動や攻撃性などのエネルギーがスポーツや文化・芸術活動などに向けられること
知性化 intellectualization
本能・衝動をコントロールするために、情緒的な問題を抽象的に論じたり、過度に知的な活動によって覆い隠すようなことで、青年期に顕著にみられる。
観念や思考から感情を分離する防衛機制である隔離(isolation)とともに作用する。
例:性欲や攻撃性(本能的欲求)の高まりをかわすために哲学や宗教に没頭する。
投影性同一視 (*原始的防衛機制)
過剰な投影で、自己の部分を対象の中に押しやり、対象を支配する。
自分の中にあるネガティブな側面を相手の中に見出し、そこを刺激して相手がそのネガティブな側面を表に現すように無意識に働きかけること。
分裂 splitting (*原始的防衛機制)
欠点も長所も含めて1つの人格だということを認識できなくなること。
良いか悪いかという二項対立的に物事を判断してしまう。
この原始的防衛機制を用いると自己像も不安定になりがちになる。
例:怒られているときの母親と大切にしてくれる時の母親を統合せず、悪い母親と良い母親とし
別々の存在として扱う
*自我の分離‐個体化が達成される以前にみられる防衛機制
防衛機制自体は誰にでも認められる正常な心理的作用で、通常は単独ではなく他のものとともに関連し合いながら作用する。
しかし、特定のものが常習的に柔軟性を欠いて用いられると、病的な症状や性格特性、人格構造となってさまざまな不適応状態として表面化することになる。
発達の段階や病理の重さに対応して、成熟した防衛、神経症的防衛、心像歪曲的防衛、未熟な防衛、精神病的防衛に分類されることがある。
病理の理解には、用いられる防衛機制の種類だけでなく、そのもとにある衝動や葛藤(コンフリクト)の強さ、自我機能の統合度、対象関係の質といった諸側面から吟味する必要がある。
2013年2月11日月曜日
人間性心理学 humanistic psychology
概略
人間を無意識に支配されているとする精神分析や、外的環境に支配されているとする行動主義に対して、人間を自由意志を持つ主体的な存在としてとらえる立場。
個人の独自性と自由性を重視し、個人への共感的関与を特徴とする。
アメリカでは1960年代以降、西海岸を中心にして急速に広まった。
マズロー(Maslow,A.H.)はこれを、精神分析と行動主義の二大勢力に対して第三勢力(の心理学)と呼んでいる。
人間性心理学に基づく心理療法はクライエントの主体性と自由を強調し、治療へのクライエントの責任を明確にし、それまでの心理療法各派への大きな影響を与えた。
実存主義的心理療法も人間性心理学として分類されることがある。
代表人物 例
・A.H.マズロー(Maslow,A.H.)
自己実現の概念の提唱者。
階層的動機論で自己実現欲求を明らかにし、欲求階層説を提唱した。
また、人間性心理学の立場を第三勢力と呼んだ。
・C.R.ロジャーズ(Rogers,C.R.)
クライエント中心療法の創始者。
受容と共感を重視した。
・A.アドラー(Adler,A)
個人心理学の創始者。
人間性心理学の立場の先駆者として、人間が主体的に決断しうる存在であることを強調した。
・V.E.フランクル(Frankl,V.E.)
実存分析、およびロゴテラピー(Logotherapie)の提唱者。
アウシュヴィッツの強制収容所における体験を著した『霧と夜』(1947)は名著と言われる。
・L.ビンスワンガー(Binswanger,Ludwig)
現存在分析の創始者。
人間は本来世界内存在、すなわち他との関係において初めて成り立つという人間観がある。
・E.T.ジェンドリン(Gendlin,E.T.)
ロジャーズの弟子で、体験過程理論の概念の提唱者。
体験過程とは、有機体内の感覚としては確かに感じ取れる心身未分化な体験の流れのこと。
体験過程療法における主要技法にフォーカシングがある。
・J.L.モレノ(Moreno,J.L.)
ソシオメトリーやサイコドラマの創始者。
・F.S.パールズ(Perls,F.S.)
ゲシュタルト療法の創始者。
過去の体験や生育歴の探索ではなく、患者の「今、ここで」の体験と関係の全体性に重点を置く。
人間性心理学の基本的特徴
①人間性を全体的に理解する
②人間の直感的経験を重視する
③「今、ここ」で体験されるものや、個人にとって意味のあるものが重要である
④研究者もその場に共感的に関与する
⑤個人の独自性を中心におく
⑥過去や環境より価値や未来を重視する
⑦人間独自の特質、選択性、創造性、価値判断、自己実現を重視する
⑧人間の健康的で積極的な側面を強調する
など
これらの考え方は、健常者の人格成長や自己開発にも貢献しうる。
教育や成長を目的とした集団療法もこの流れをくむものが多い(エンカウンターグループなど)。
批判を受ける点
①知性を軽視し、感情を重視しすぎる
②自己決定の力が過度に強調されている
③科学的探究に対する不信と否定がみられる
④主観的現象を記述する概念の定義が不明確である
⑤共感的態度だけでは永続的な効果は望めないと考える
⑥人間の持つ悪や影の部分が見落とされる
など
人間性心理学に依拠した実践(療法)
・Tグループ training group
人間関係訓練の一つで、感受性訓練(sensitivity training ; ST)、
ラボラトリー・トレーニング等とも呼ばれる。
・防衛機制の撤廃
・いま・ここ(here and now)の現実を生きることの体験
・現場への応用
を目的とする
・エンカウンター・グループ encounter group
自己成長を目指し、一時的に10人前後のグループを形成し、数日間合宿生活をする中で
お互いの人間性をぶつけ合うような課題を経験する。
自己理論
来談者中心療法を発展させたC.R.ロジャーズは、人間が本来的に持っている実現傾向、成長能力や適応能力を重視し、この発現を促進する条件としてカウンセリングやエンカウンター・グループにおける受容と共感を重視した。
ロジャーズの自己に関する理論は自己理論と呼ばれ、クライエントの不適応状態を理想自己と現実自己のずれとしてとらえる。
この両方の自己を受容しともに生きることでずれを解消する方向に向かう傾向を実現傾向と呼んだ。
*理想自己と現実自己の一致そのものではなく、両者が受容されることが重視される。
2013年2月8日金曜日
行動主義 behaviorism
概略
ワトソンが提唱した現代心理学における基本的方法論の一つ。
科学的心理学とは行動の科学であり、その研究対象は客観的測定の不可能な意識ではなく直接観察可能な行動であり、その目的は刺激=反応関係における法則性の解明であるとする立場。ワトソンは、内観法による意識心理学を否定し、他の自然科学と方法論を共有するためには、心理学は客観的な行動を対象とするべきだと主張した。
この理論の背景にはダーウィンの進化論、パヴロフの条件反射説、デューイやエンジェルらの機能主義心理学の影響とされる。
また、行動主義では、心理学の目的は行動の予測と制御であるとされ、物理的刺激と個体の全体的活動の関係が研究された。
内省に頼らずに実験が行えるため、乳幼児や動物も等しく研究対象とすることが可能となり、学習理論の発達を導いた。
心理的現象を刺激と反応の分析単位(S-R)から探求する方法論的行動主義の流れは、刺激と反応の間に行動的な変数(媒介変数)を仮定する新行動主義へと発展した。
定義
心理学の研究法や説明に行動的な変数を用いることを求め、刺激と反応の関係における法則性の解明を目的とする立場。
提唱者
ワトソン(J.B.Watson)
行動主義の先駆者
パブロフ(Pavlov,I.P.)
古典的(レスポンデント)条件付け理論 提唱
ソーンダイク(Thorndike,E.L.)
道具的(オペラント)条件付け理論 提唱
ハル、トールマン、ガスリー、スキナーといった人物が独自の理論を展開し、発展させたものは
のちの新行動主義とよばれるものである。
行動理論 behavior theory
客観的に観察可能な行動のみを心理学の研究対象とすべきであるというワトソンの行動主義心理学は、心理学のおもな一研究分野をなすようになった。
おもに動物を被験体として、特に行動の学習メカニズムや学習現象について実験研究が進められ、さまざまな学習理論が提唱されるようになるが、
学習メカニズムを「刺激と反応の結びつき」で説明するワトソンの流れをくむS-R説(行動主義)と、
学習メカニズムをたんに刺激と反応の結びつきだけで説明するのでなく、そこに有機体内部の諸要因を組み入れるS-O-R説(新行動主義)といわれる学習理論の2つの考え方が展開されていった。
この一連の学習理論を行動理論という。
1970年代になり、バンデューラ(Bandura, A.)によって提唱された社会的学習理論は、認知要因を組み入れたきわめてすぐれた行動理論として従来の行動理論に影響を与え、現在では認知的要因を重視する行動理論が広く展開されつつある。
行動療法 behavior therapy
行動理論を理論的基盤として心理治療論と治療技法を展開したのが行動理論である。
精神分析理論の考え方、つまり「問題行動の根底に無意識な関与を仮定する」ことへの科学的実証性の疑問、そのことによる精神分析理論の妥当性への疑問、ひいてはその治療効果について疑問を投げかけた。
行動療法は、学習心理学の分野で実験などを通して構築されてきた学習理論を理論的基盤とする治療論と治療技法を提唱した。
定義は研究者により異なるが、共通する内容は「実験によって証明された現代学習理論あるいは行動理論の活用による行動変容法」である。
初期の行動療法は、行動理論(動物実験によって構築された学習理論)に基づいて体系化されたものであった。
1970年代以降、認知要因を重視する行動理論に影響を受け、認知行動療法へと展開していった。
・リンズリーら(Lindsley, O.R. et al.)
精神疾患患者の行動形成にオペラント条件付けの手続きを応用した研究報告を公表し、そのなかで行動療法という用語を初めて用いた。
・アイゼンク (Eysenck, H.J.)
様々な学習理論(行動理論)を応用した神経症や不適応行動の行動変容法を包含して、行動療法という語を用いた。
・ラザルス(Lazarus, A.A.)
治療の焦点を不適応行動そのものにおき、行動そのものを修正するということで行動療法という名称を用いた。
2013年2月6日水曜日
精神分析&精神分析療法 psychoanalysis & psychoanalytical therapy
概略
パーソナリティの機能および構造に関する理論であり、かつ特殊な心理療法的技法であって、この理論の他の学問への適応をも含むもの。
S.フロイトが創始した心理学理論であり、その理論に基づく心理療法であって、人間心理の研究方法でもある。
主要な理論として、局所論、構造論、力動論、エネルギー経済論、発達論、適応論などがある。
特に局所論は精神分析学の基本であり、人間の行為の背景に無意識を想定するものである。
失錯行為や夢の内容、神経症症状などの精神現象は一見明確な原因がないようにみえるが、その原因が無意識内に存在するために意識からは因果関係がわからないだけである。
ゆえに精神分析では、意識に現れた事象を分析することで無意識にアクセスし、症状の原因を明確化することが治療機序となる。
また精神分析療法は、基本的には現在みられる心理的問題の背景に過去の発達段階で未解決な心的な問題が存在すると仮定する。
一般に夢や自由連想法によって得られた資料が分析の対象となり、防衛機制や転移の解釈を通して無意識の自己理解をすすめる。
患者の健康な自我の主体性を期待し、適応ではなく、精神内界や人格の再構成を目標とする。
定義
精神分析についての定義は、研究者により異なる
S.フロイト Freud, Sigmund (精神分析学の創始者)
「(人の)内部に抑圧されている精神的なものを意識化する仕事」
⇒無意識の深層を研究する学問と定義
A.フロイト Freud, Anna
「深層心理学すなわち精神分析ではなくイド、自我、超自我の三つの部分について完全な知識を得ることが精神分析の課題である」
⇒古典的な精神分析から自我心理学へ発展した証左
対人関係論や対象関係論へと発展
(国際精神分析学会第30回大会(1977)での定義)
「パーソナリティの機能および構造に関する理論であり、かつ特殊な心理療法的技法であって、この理論のほかの学問への適応をも含むものである。この学問はジグムント・フロイトによる非常に重要な心理学的発見を基盤としている」
創始者
S.フロイト Freud, Sigmund(1856-1939)
後に多くの分析家が独自の理論を展開、発展させていく。
フロイトは神経学者シャルコー(Charcot, J.M.)やベルネーム(Bernheim, H.M.)のもとで研究を進めていたが、ヒステリー性の神経症状が催眠暗示によって消失することから、本人の意識されていない感情や欲求の存在を確信するし、カタルシスによる心理治療を行った。
しかし、「多くの神経症者はどんな方法によっても催眠されえない」という事実から、催眠とは違う新しい浄化法を考えることとなり、自由連想法が開発された。
さらに意識の統制が弱まる睡眠中の夢も無意識を知る素材を提供してくれるものとして、夢分析も重視された。
S.フロイトの主要な理論 (精神分析の基本的見地)
① 局所論
心理的過程は意識、前意識、無意識からつくられているという考え
意識 consciousness
これは私の経験だと感じることのできること。意識内容は当人のみ経験する。
前意識 preconscious
意識されてはいないものの、思いだそうと注意を向ければ思いだせるもの。
いつでも意識のなかに入り込める。
無意識 unconscious
現実には認めがたい欲望や感情、思考などが強く抑圧され意識には上がってこないもの。
②構造論
心を心的装置(超自我(スーパーエゴ)、自我(エゴ)、イド(エス))として捉える
超自我 super ego
良心あるいは道徳的禁止機能を果たす人間の精神分析構造の一部。
快楽原則に従う本能的欲動を検閲し抑圧する。
自我 ego
認知、感情、行動などの精神諸機能を統制、統合する心的機関。意識の中心。
イド id
本能的性欲動(リビドー)の源泉。快楽原則に支配され、無意識的である。
一次過程と呼ばれる非論理的で非現実的な思考や、不道徳で衝動的な行動をもたらす。
③力動論
さまざまな心理的現象は、心理的な力関係によって生み出される。
④(エネルギー)経済論
性的欲動である精神的エネルギー(リビドー)を仮定し、
その充当や対象への分配などから種々の不適応や防衛機制を考える。
⑤発達論
自我、イド、超自我の相互関係やエネルギー分配の様態を
幼児から成人へという発達の中で捉え、逆方向を退行と考える。
⑥適応論
対人関係や社会への適応という視点から心理学的現象を考える。
精神分析療法 psychoanalytical therapy
S.フロイトの創始した心理療法であるが、広義には寝椅子や自由連想法などを採用しない、精神分析理論を援用した心理療法をも意味することもある。
浄化法(カタルシス)から発展してきたもので、無意識的な存在と意識とを疎通させ、患者がこれまで行ってきた自動的な不快支配の結果拒否し(抑圧し)てきたもの(無意識的なもの)を、(意識化して)もっとよく洞察しようという動機にはげまされて、(抵抗を克服し)抑圧されたものを意識的に受け入れるようにそのような患者の変化を意図した治療法である。
つまり、人間の心を理解しようとする治療法であり、人の感情や思考、行動などは無意識によって規定されていると考え、その無意識を意識化することで人を悩みから解放しようとする治療法である。
フロイトの精神分析療法は、その後の後継者によってさまざまに分岐していくが、基本的には現在みられる心理的問題の背景に、過去の発達段階で未解決な心的な問題が存在すると仮定する。
治療者との関係のなかで生じる感情転移や、抵抗を見出し、その解釈を通して患者の洞察を促す。
精神分析療法において、自由連想法を基本原則としており、治療者は、患者の話しに傾聴するとともに、中立性を保ちながら、患者の無意識についての理解(解釈)を伝えていく。
一般に夢や自由連想法によって得られた資料が分析の対象となり、防衛機制や転移の解釈を通して無意識の自己理解をすすめる。
自由連想法 free association
フロイトが創始した精神分析の技法で、精神分析療法の基本である。
1890年代に無意識の探索手段としてそれまで用いていた催眠技法の代わりに患者に心の中に思い浮かぶことを自由に語らせる方法を採用した。
この手段は催眠にかからない患者へも適応しうるものであるが、通常患者は寝椅子に横になり、心に浮かぶこと(考え・記憶・感情など)を話すよう求められる。
そのときに語られる内容が分析の素材であり、患者の隠された無意識の現れとしている。
治療の過程で生じてくる抵抗や転移に対し、治療者が技法的な中立性の立場で直面化、明確化、解釈を与えることにより、患者の洞察、無意識の意識化が得られるように促していく。
転移(感情転移) transference
過去の体験が現在の人間関係のなかに反復強迫的に持ち越されること。
フロイトは、精神分析の面接過程が進むにつれて、患者が治療者に向ける肯定的・否定的感情(多くは患者が過去に誰か(多くは両親)に向けた、または向けることのできなかった感情)を治療者に置き換えて向けること転移と呼んだ。
転移は患者が持っている心理的問題と深い結びつきがあることが観察されたことから、その転移の出所と、かつて誰に向けたものであったかを解釈することで、治療的に活用できるとし、
フロイトは「転移という現象は精神分析療法中に必然的に生じる」と考えた。
また、転移によって患者が治療者に憎しみや敵意をいだく場合を陰性転移と呼び、一方で患者が治療者に好意や愛情を抱く場合のことを陽性転移と呼ぶ。
患者が幼児期の人間関係に由来した感情を治療者に向けるのが転移であるが、逆に治療者が同様な感情を患者に向ける場合を逆転移という。
リビドー libido
人間に本来備わっている、性欲動を意味する精神エネルギーのこと。
このエネルギーが限局される身体部位によって口唇期、肛門期、男根期(エディプス期)、性器期といった心理=性的発達段階を唱えた。
なお、ユングの場合は性的なものではなく、活動源としての一般的な心的エネルギーを意味する。
夢分析 dream analysis
フロイトは夢が主体の心理的世界をよく表していると考えて科学的な対象とした。
睡眠という意識の統制が弱まった状況下で抑圧されていた無意識が浮上してきたものであり、自由連想法とともに、「夢判断は無意識を知る王道である」とした。
そして、ばらばらでまとまりのない夢も実際はある意味を担っており、読解されるべき心理的現象であるとした。
また、夢は無意識的な願望充足であると考え、構成された夢(顕在的夢思考)から、夢の持つ隠された内容(潜在的夢思考)を引き出そうとした。
一方,ユングの夢分析では、夢はを目的論的視点から理解しており、過去の妥協の産物としてよりも、ときには将来を示す集合的無意識からのメッセージとみなしている。
精神分析学から派生した諸学派
・新フロイト派 neo-Freudian
S.フロイトのリビドー論に拠った生物学的立場よりも、文化人類学やコミュニケーション理論の影響を受けた、社会的・文化的要因を重視した学派である。
フロム(E.Fromm)、ホーナイ(K.Horney)、サリヴァン(H.S.Sullivan)、フロム-ライヒマン(Fromm-Reichmann, F.)など、1930年代から40年代にかけてのアメリカの一群の精神分析家たちをさす。
エディプス葛藤を認めない母系民族社会の存在を明らかにしてフロイトの汎性欲説の普遍性に疑問を投げかけたM.ミードなどの、文化人類学やコミュニケーション理論を援用しているところに特徴がある。
そのため、力動的・文化的精神分析学(dynamic-cultural psychoanalysis)と呼ばれている。
新フロイト派は、各人はフロイトの仮説に反対しているが、それぞれが強調する点が違い、また、ひとつの理論や技法に限定して縛らない点、違いを認めながらさらに理論を展開して統合する力を示している点などが特徴である。
・個人心理学 individual psychology
アドラー(Adler, A.)によって創始された心理学体系で精神分析の一派。
人格の全体性や社会的視点を重視した理論である。
S.フロイトが性欲を重視するのに対し、アドラーは劣等感(器官劣等)を重視した。
人間の基本的動機づけとして劣等感を補償するための権力への意思を強調し、人間を動かす根本的な欲求であると捉え、フロイトの性欲説を批判した。
また、フロイトが神経症の原因として過去の生活史に着目したのに対し、
アドラーは人間行為の目的性に注目し未来志向的観点から神経症を理解すべきだと主張した。
・深層心理学 depth psychology
より表層的な意識の部分と深層の無意識という精神の階層構造論の立場から、意識よりも無意識によって人間の行動が左右されているとみる立場。
特にユング(Jung, C.G.)が確立した分析心理学(ユング心理学)において、無意識は個人的無意識と集合的無意識(普遍的無意識)からなると主張し、集合的無意識における元型を重視した。
また、素質的な根本的態度の型である、内向―外向や、心理機能として思考―感情、感覚―直感を区別し、これらの組み合わせによる8つの類型から独自のタイプ論を展開した。
・自我心理学 ego psychology
S.フロイトが仮定した心的装置であるイド、自我、超自我のうち、特に自我の重要性を強調する学派。
ハルトマン(Hartmann, H.)やE.H.エリクソン(E.H.Erikson)に代表される。
また、A.フロイトは防衛機制論を発展させ、自我の健康的な働きを強調して精神分析的自我心理学の基礎をつくり、さらに精神分析を子供に適用して遊戯療法の基礎をうちたてた。
新フロイト派の立場も取り入れたE.H.エリクソンはアイデンティティ理論を唱えた。
・対象関係論 object relations theory
個体の精神内界に形成される内的対象との間で発展する対象関係(内的対象関係)を重視する。
自我と対象の関係のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。
つまり、対象を生物学的な本能充足の手段として理解するS.フロイト精神分析を基礎としたそれまでの立場に対し、自我は本来、対象希求的なものであるとし、自我と対象との関わりを一義的なものと考える立場である。
クライン(Klein, M.)やウィニコット(Winnicott, D.W.)、ガントリップ(Guntrip, H.)らによって発展させられていった。
2013年2月5日火曜日
作業検査法
概略
きわめて単純な作業を一定時間課し、作業量の推移に着目して気質、性格を測定・診断する方法。
被験者が作業を行う際の緊張、興奮、慣れ、練習効果、疲労、混乱、欲求不満などが性格を反映するという前提に基づく。
特徴
長所
・実施が容易
・適用範囲が広い
・言語を媒介としない
・反応の意図的歪曲が起こりにくい
・結果の数量化ができる
短所
・解釈が主観的になりやすい
・主に人格の意思的側面に限られる
・被験者に苦痛感を与える
・作業課題への意欲の有無が検査結果に影響する
種類 例
・内田=クレペリン精神作業検査 Uchida-Kraepelin Performance Test
隣り合う2つの1桁数字の連続加算を被験者に行わせ、その作業量と水準と作業曲線の形状の評価を行う検査。15分検査ののち5分の休憩をはさみ、その後再度15分検査を行う。
・ベンダー・ゲシュタルト検査 Bender Visual Motor Gestalt Test
視覚・運動形態機能を測定するための検査。被験者にさまざまな模様・図形を描写させ、その正確さ、混乱度、描画方法などが査定される。
2013年2月1日金曜日
質問紙法 questionnaire method
概略
調査対象者や被験者に自らの属性、心理状態、行動傾向などを回答させる方法のうち、特に質問紙によって回答を求める方法。
特定個人を診断したり、特定集団あるいは人間の行動を理解するのに使用する。
後者のような研究目的で使用する場合は特に質問紙調査法と呼ばれる。
あらかじめ設定された選択肢のなかから回答する形式と、回答欄に自由に文章を記入する形式(自由回答法;free answer; open-ended question)とがあり、実験室実験、個別面接調査、集合調査、留置調査、郵送調査などにおいて用いられる。
質問の主文や選択肢のワーディング(wording;言い回し)が非常に重要で、不適切な用語法や偏向した文章があると誘導質問となってしまう。
そのため、予備テストを実施し、あいまいな言葉や専門用語、二重否定などによる難しい文章、キャリーオーバー効果(前の質問内容・存在が後続質問への回答に及ぼす影響)の有無、ダブルバーレル質問の存在などについてチェックする必要がある。
また、濾過質問(filter question)によって非該当者への質問を行わないような配慮も必要である。
回答者によって黙従傾向(yes-tendency; acquiescence)を示す場合がある。
語句説明
キャリーオーバー効果 carry-over effect
前の質問の内容・存在が後続質問への回答に及ぼす影響。
それまでの自分を肯定するかたちの言動を取りやすい傾向を指す。
ダブルバーレル質問 double-barreled question
2つの別の論点を含み、そのうちどちらが強調されているのかを回答者が識別できないような質問。
二重質問ともいう。
対象が複数あるパターンや、行動と動機のどちらを聞かれているのか区別できないパターンが代表的。
濾過質問 filter question
一般的な質問から徐々に調べたい質問に焦点をしぼっていく手法
黙従傾向 yes-tendency; acquiescence
質問内容とは無関係に反対より賛成(否定より肯定)を選択する傾向
定義
・調査対象者や被験者に自らの属性、心理状態、行動傾向などを回答させる方法のうち、特に質問紙によって回答を求める方法。
・構造化された質問項目に被験者が自ら答えていく方法。
特徴
長所
・低コストで、かつ実施が容易
・採点や結果の数量化が容易にできる
・結果の解釈に主観が入りにくい
・一度に多数の回答者を対象に実施可能
・回答が研究者(調査者)の存在による影響を受けにくい
・状況と行動を媒介する内的事柄に関する情報が得られる
短所
・質問項目に対する理解が被験者によって異なる可能性がある
・反応(回答)の歪曲が起こりやすい
・観察法に比べ言語以外の反応、回答状況、行動経過などを記録できない
・面接法に比べ対象や状況ごとに質問形式や内容を変化させることができない
・回答者の言語能力に依存する
調査方法
①郵送調査法
質問紙と返送用封筒を郵送して、一定期日までに回答を返送してもらう。
②留置調査法
戸別訪問をして質問紙を配布し、一定期日までに回答してもらい、回収にまわる。
③集合調査法
一定の場所に集合している対象者に質問紙を配布して説明し、その場で回答を求める。
④面接調査法
面接によって質問紙に従った質問をし、面接者が回答を記入する。
⑤電話調査法
対象者に電話して質問紙に従った質問を行い、回答を記入する。
種類 例
・矢田部=ギルフォード性格検査(Yatabe-Guilford Personality Inventory; Y-G性格検査)
12の下位尺度ごとに10問計120問の質問項目から構成される性格検査。
・ミネソタ多面人格目録(Minesota Multiphasic Personality Inventory; MMPI)
4妥当性尺度と10臨床尺度、550項目から構成される性格検査。
・顕在性不安尺度(Manifest Anxiety Scale; MAS)
MMPIのなかの50項目を選び出し作成した尺度。被験者の不安水準を測定する一般的な方法。
・モーズレイ性格検査(Maudsley Personality Inventory; MPI)
外向性‐内向性次元と情緒の安定性に関わる神経症傾向の二次元から測定される。全80項目。
・コーネル・メディカル・インデックス(Cornell Medical Index; CMI)
初診時に短時間で患者の状態を把握するための問診表として作成されたチェックリスト。
スクリーニングとして実施されることが多い。
・エゴグラム(egogram)
心のなかに親・大人・子どもの三つの自我状態の存在を仮定し、それによってパーソナリティの特徴をとらえることを目的とする。
東大式エゴグラム(TEG)など、いくつかの種類が開発されている。
・EPPS性格検査(Edwards Personal Preference Schedule)
マレーの欲求理論に基づき、その顕在性欲求リストを取り入れて作成した質問紙法性格検査。
社会的望ましさの程度がほぼ等価な2つの項目のうちいずれかを強制的に選択させる。
など
自己効力感 self-efficacy
概略
バンデューラ(Bandura, Albert)によって提唱された概念で、自分が行為の主体であると確信していること、自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信のこと。
ある行動がどのような結果を生み出すのかという 結果予期(Outcome expectancy)と、ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことが出来るのかという効力予期(efficacy expectancy)の2つに区分される。
自己効力感を発達的視点から捉えることも重要であり、子どもの自己認知の発達水準や、その時の親や教師などとの関わりに応じて、自己効力感の様相は異なってくる。
また、自己効力感の高い子供は、自分が努力すれば環境や自分自身に好ましい変化を生じさせようという見通し信念の下で、生き生きと周りの環境に働きかけ、充実した生活を送ることが出来る。
定義
自分の遂行能力や学習能力にかかわる自信や信念のこと
提唱者
バンデューラ (Bandura,Albert)
カナダの心理学者
自己効力感の起源
①達成体験
最も重要な要因で熟達の経験。成功は個人的な効力感の確固とした信念を作りあげ、失敗経験は特に効力感が確立されていない場合には効力感を低めてしまう。
②代理経験
社会的なモデリング(他者の何かの達成や成功を観察すること)。モデルはコンピテンスと動機づけの期限として役立つ。自分に似た他人が持続的な努力で成功するのを見れば、自分自身の可能性についての確信を強めることになる。
③言語的説得
社会的な説得(自分に能力があることを言語的に説明されること、言語的な励まし)による影響。自己効力感を持った行為について、それが認められ励ましを受ければ、より努力をするようになり、それが成功の機会を高める。
④生理的情緒的高揚
たとえば酒、薬物、その他の要因によって気分が高揚するというように、自分の生理的な状態にも部分的にではあるが依存している。生理的な過剰反応を減らしたり、自分の生理的な状態の解釈の仕方を変えることで自己効力感を強める。
⑤想像的体験
自己や他者の成功経験を想像すること
自己効力感の3タイプ
・自己統制的自己効力感
・社会的自己効力感
・学業的自己効力感
自己効力感が統制する人間の行動の仕方
①認知的側面
自分の能力がどれだけあるか、自分の目標を設定する仕方を決定する。
②動機づけ的側面
その後の結果を予測し、目標の設定を決定する。
自己効力感が達成の努力や肯定的な生き方の必要条件になっている。
③情動的側面
自己効力感は個人的な情動経験の性質や強度、不安や自己統制のあり方を決定する。
④選択的側面
自己効力感のもてる領域を選んで、そこで挑戦的な生き方をとろうとする。
自己効力感の構成
自己効力感は大きさ(magnitude)強さ(strength)一般性(generality)の三次元で構成されている。
・大きさ
どの程度の難しさの課題まで遂行可能であるかの期待の次元
・強さ
ある課題での行動をどの程度の強さで遂行可能であるかの期待の次元
・一般性
特定の課題に対する自己効力感と特定の課題を求めない一般的場面での自己効力感を結ぶ次元
コンピテンス competence
言語心理学や認知心理学の分野では、実際の行動や成績(パフォーマンス)に対して、潜在的能力を意味することが多い。たとえば、チョムスキーは、外部に反応として現れる元号運用と区別して、運用者の内部の根底にある言語能力をコンピテンスと呼んだ。
発達心理学において使用される場合、人にすでに備わっている潜在的能力と、環境に能動的に働きかえて自らの「有能さ」を追求しようとする動機付けを一体としてとらええる力動的な概念を指す。
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