2013年1月31日木曜日

愛着 attachment




概略

 特定の対象に対する特別の情緒的結びつき(affectional tie)のこと、もしくは他の特定の人間(動物)と情緒的に結びつきたいという要求をもつ状態を指す。
愛着を形成する生得的傾性を有して人間は誕生すると考えるボウルビィは、生理的満足の源として母親に依存するという考えに基づいて用いられた依存(dependence)という概念を避け、これに代わる愛着(attachment)という新たな概念を提出した。
彼によると母親への愛着は、
①人に関心を抱くが、人を区別した行動は見られない段階、
②母親へ対する分化した反応が見られるが、母親の不在に対して泣くというような行動はまだ見られない段階、
③明らかに愛着が形成され、愛着行動がきわめて活発な段階、
④愛着対象との身体的接近を必ずしも必要としなくなる段階
の4つの段階を経て発達し、その間にその他の対象へも愛着の輪を広げていくとしている。
愛着は、子どもの愛着欲求に対する母親の応答性によって生後6ヶ月以内に発達する正常な絆である。この重要な時期におけるマターナル・デプリベーションは心理発達に問題をもたらす。



定義
 ・特定の対象に対する特別の情緒的結びつき
 ・他の特定の人間(動物)と情緒的に結びつきたいという要求をもつ状態


提唱者
  ボウルビィ Bowlby,John.

ボウルビィによる愛着発達の4段階
 ①人に関心を抱くが、人を区別した行動は見られない段階
   (誕生から12週まで。人を目で追う、微笑、人の声や顔を見ると泣き止むなど)

 ②母親へ対する分化した反応が見られるが、母親の不在に対して泣くというような行動はまだ見られない段階
   (12週から6か月まで。母親的な人物に向けて、より明確な人間指向的な行動が出現)

 ③明らかに愛着が形成され、愛着行動がきわめて活発な段階
   (6、7か月ごろから2,3歳ごろまで。母親を後追いする、戻ってきた母親を喜んで迎える、探索活動の基地として母親を活用するなど、移動の手段により、弁別された人物に対して、近接を保持する。一方、未知の人間に対しては、恐れや警戒を示すなど、人見知りをするようになる。一人の主たる養育者との接触が乏しい場合は、この段階の始まりが遅れることもある)

 ④愛着対象との身体的接近を必ずしも必要としなくなる段階
  (3歳前後から。母親の感情や行動の目的についての見通しができるようになり、母子間に目標―修正的なパートナーシップが形成される)

また、この発達の間にその他の対象へも愛着の輪を広げていくとしている。


愛着行動 attachment behavior
 …愛着の存在を示す具体的な行動。
  愛着対象のみに示され、病気の時や不安が高まっているときなどに活性化する特徴を持つ。

  ・信号行動
    微笑・発声・泣きといった信号を通して、接近や相互作用を求める行動

  ・接近行動
    接近・接触・後追いなど、自らが移動することで身体的接近や接触を能動的に求める行動



エインズワース(Ainsworth, M.D.S)による愛着の5つの特色

 ①愛情を暗に含んでいる
 ②特異的・弁別的である
 ③外的行動として示され観察可能である
 ④主体的な過程であって受動的ではない
 ⑤相手の感動を喚起する二方向的な過程である


2013年1月30日水曜日

ボウルビィ Bowlby, John (1907-90)



概略

 イギリスの児童精神医学者で愛着(attachment)理論の創始者。
ロンドン北西部のハムステッドに誕生し、外科医であった父親の影響で最初ケンブリッジ大学で身体医学や自然科学を学んだが、のちにロンドン大学付属モーズレイ病院とユニバーシティ・カレッジ病院で児童精神医学を専攻する。
その頃、クラインアンナフロイトらの児童分析にも興味をもち、精神分析研究所で精神分析技法を学んだ後、ロンドンのタヴィストック・クリニックで治療と研究にあたった。
母子関係が人格形成に及ぼす影響と特にその喪失の重大性を考察し、WHOの依託を受けて行った施設児に関する研究報告書である『乳幼児の精神衛生 Maternal Care and Mental Health 』のなかで示したマターナル・デプリベーション(maternal deprivation;母性的養育の喪失/母性剥奪)という概念は大きな反響を呼び、後の愛着理論の出発点となった。
母子関係の研究を一貫して研究テーマとし、「愛着行動体制説」「愛着性理論」などを発表した。


愛着 attachment
 この言葉を心理学に導入したのは彼が初めてである。アタッチメントとは「人間(動物)が、特定の個体に対して持つ情愛的なきずな(addectional tie)のこと」であると述べている。
 ボウルビィはこの愛着の形成段階を4段階に分けた。誕生から12週頃までの前愛着段階、生後12週から6か月ごろまでの愛着形成段階、生後6~7か月から2歳ごろまでの明瞭な愛着段階、3歳以降からはじまる目標修正的協調関係である。
 乳幼児期に安定した愛着(secure attachment)を形成することが健全なパーソナリティ発達の基本になると考えられている。


マターナル・デプリベーション maternal deprivation  母性剥奪
 ボウルビィは「乳幼児と母親(あるいは生涯母親の役割を演ずる人物)との人間関係が親密かつ継続的で、しかも両者が満足と幸福感にみたされるような人間関係が精神衛生の基礎である」とし、母子関係の相互作用の重要性を説いた。
幼児期における良好な母子関係はその後の人格形成や精神衛生の基盤となることを指摘したが、良好な母子関係が築けず、母子相互作用が欠如することを「母性的養育の喪失」と呼んだ。
これによる打撃で人格発達を阻止され、永続的障害として残りうると考え、母子の愛着関係を人格形成の核になるものとみなし、この関係を単なる依存に終わらぬものとみなした。
最近では子から母親への愛着行動と母親が子に注ぐ直線的な愛情の両方向からの母と子の絆といった用語が使用されている。


喪失と悲嘆 loss and grief
 喪失とは価値や愛情、依存の対象を別離、拒絶、剥奪によって失うことであり、喪失で生じる悲しみや絶望感といった情動的苦しみが悲嘆である。
ボウルビィは喪失に引き続く心理過程を以下の3つに区分した。
 ①「抗議」…失った対象を取り戻そうとする
 ②「絶望と抑うつ」…失った対象との再結合の試みの失敗
 ③「離脱」…心的体制の再構築
喪失後の悲嘆反応に充分に浸ることにより、喪失とその受容の葛藤を克服することが可能になる。

  

 
ボウルビィは精神分析のように過去に遡る推論によらず、現実に生活している幼児の、母の存在と不在との反応を観察するという、比較行動学の、動物の初期経験と行動が社会的絆の形成につながるとみる観点に示唆を得た方法が活用され、人間の初期経験のしるしをのちの働きに認め、その結果、病的要因と思われる事象や経験を研究していった。

2013年1月29日火曜日

実験者効果 experimenter effect



概略

実験者が意図せずに、被験者の行動に影響を及ぼす実験統制外の影響のこと。
心理学が哲学と決別し、科学たることを目指す際に自然科学の方法論(特に実験)が手本とされた。
しかし、その適用にあたり、実験対象が実験者と同じ人間であることに由来する問題が生じてきた。
それは、実験状況における実験者と被験者の意識・無意識レベルでの相互作用が、実験結果に予期せざるバイアスをもたらすということであった。
実験者効果は実験者自信に原因が求められるものであり、「Aという結果になれば望ましい」というような願望が知らぬうちに被験者の行動あるいは反応に影響を及ぼす。
ローゼンタールによる「教室内のピグマリオン効果」は多くの問題を投げかけるものであった。


実験者側の要因が加わることによって実験結果が歪められると、結果の妥当性が低くなる。
そのため、実験を計画・実施する際に十分な吟味が重要とされる。

ピグマリオン効果 pygmalion effect



概略

教師期待効果とも呼ばれる。
意識するか否かに関わらず、他者に対する期待が成就されるように機能すること。
ピグマリオンという名前は、ギリシア神話から取ったものである。
ローゼンタールジェイコブソンRosenthal, R. & Jacobson, L.)は、教師が児童・生徒に対して持っているいろいろな期待が、彼らの学習成績を左右することを実証した。
また、期待効果は、教師のその子供に対する行動を意識しないうちに変化させていることも明らかにされた。
実験者の存在が間接的に被験者に影響する実験者効果とも類似しており、批判者はピグマリオン効果を心理学用語でのバイアスである実験者効果の一種とする。
また、教師が期待しないことによって学習者の成績が下がることをゴーレム効果という。


提唱者
 ローゼンタール(Rosenthal,R.)


実験①
 1963年 ローゼンタールフォードによる実験
学生にネズミを使った迷路実験をさせ、ネズミを渡す際に
「よく訓練された利口な系統のネズミ」と「これは動きの鈍いのろまな系統のネズミ」と伝えた。
その2つのグループの間で実験結果に差異が見られ、前者の方が結果が良かった。
このことからローゼンタールは、情報を受け取った学生の期待度の違いが実験結果に影響が与えられたと考え、期待された他者の能力は向上する、という仮説をたてた。

実験②
 翌年(1964)、小学校でハーバード大学式学習能力開花期テストと名付けた知能テストを行った。
「このテストにより子どもの1年後の成績の伸びを予想できる」と学級担任に伝え、実際の成績とは別に無作為に割り当てられた生徒の名簿を見せて、その後の成績の伸張を調査した。
その結果、学級担任が期待をもった、名簿の児童の成績が向上した。


しかし、このピグマリオン効果への異論も数多く唱えられている。

2013年1月25日金曜日

ヒステリー hysteria




概略

 現実に問題となっていることを解決することができず心の中に葛藤を生じ、その葛藤のために自我の安定を保つことが困難な状況になったときに、
自我の防衛機制の一つとして意識が消失したり、手足がマヒしたり、声が出なくなるなど、問題に直面することを回避する結果となる、というような病態をヒステリーとよぶ。
ヒステリーの概念は古代エジプト時代に誕生し、その語源はギリシア語で子宮を意味するhystéraである。
当初はその症状は子宮が体内を動きまわるために起きる女性特有の疾患と考えられていた。
しかしその後、1870年代に、シャルコーが「催眠術」でヒステリーの症状がなくなることをみつけ、ヒステリーは『「暗示」という心理作用によって生じた機能障害である』とし、精神疾患として位置づけられるようになった。
それ以来、女性に限らず男性にもみとめられる病気として認識されるようになった。
なおヒステリーの際の意識消失、麻痺、失声などの症状は脳の神経学的機能の器質的障害の結果ではなく心理学的障害であり、その症状は回復可能なものである。



定義

 課題解決が困難である問題に直面したときに、それを正常に認識したり言語化できず、問題回避的に意識消失、運動機能低下、失声などの器質的要因を伴わない症状が出現する症状。

 しかしヒステリーの概念は古く、概念・定義自体がさまざまな変遷を遂げてきているため多義的である。治療現場においても、それぞれの立場からヒステリーという用語を使用している。



歴史

 ヒステリーという呼び名は,女性に特有の疾患との誤解から子宮に問題があると信じらてていたため、古代ギリシア語で「子宮」を意味するヒステラ(hystéra)と名付けられた
古代ギリシャ時代にヒポクラステス(Hippokrates)が,その名を病名として用い、この原因は子宮の異常であり、体内を動きまわるために起きる女性特有の疾患と言われていた。

中世においてはヒステリー弓、ヒステリー球、けいれん発作、視野狭窄、失声、失歩、失立などをはじめとするヒステリー症状は、悪魔に取り憑かれたしるしであるとみなされ、しばしば魔女狩りの犠牲となった。
しかし、当時の鬼神論者たちによる研究はその後のヒステリー研究の基礎資料となっていった。
近代に至り精神医学的見地からの研究がはじまり、ヒステリーは精神疾患として位置づけられるようになったり、男性の患者が確認されはじめたりした。
1870年代にシャルコー(Charcot,J.M.)は、ヒステリーを器質的病変の認められない機能障害と位置づけ、病因として身体的要因を主張しながらもその治療にメスメリズム(mesmerism/一種の催眠術)が効果的であることに注目した。

またジャネ(Janet,P.)は、ヒステリーを機能的疾患としての神経症の中に位置づけ、心理的緊張の低下と意識野の狭窄、人格の解離という考えを用いて説明した。
ベルネーム(Bernheim,H.M.)はヒステリーを暗示によって起こる機能障害ととらえ、精神療法としての催眠術を確立し、バビンスキー(Babinski,J.)はヒステリーの被暗示性に注目し、説得によって治療するという立場から暗示療法を発展させた。
また、プロイアー(Breuer,J.)は有名なアンナ・Oの治療を通して催眠浄化法(hypnocatharsis;カタルシス法)を見いだした。

フロイト(Freud,S.)はブロイアーらの方法の追試を行う中で、自我による防衛の働きに注目するようになり、精神力動的観点一つのヒステリー概念を作り上げた。
フロイトはブロイアーとの共同研究をもとに『ヒステリー研究(1895)』を著し、自我の防衛としての抑圧を重視するようになり、抑圧される心的外傷は幼児期における性的な出来事に起因するとみなし性的欲動論の立場からヒステリーの説明を行っていった。
この抑圧の概念が、その後の精神分析学の発展の基礎となった。


症状

大きく2種類(転換型ヒステリー / 解離型ヒステリー)に分けられる。

転換型ヒステリー 
 痙攣発作、運動マヒ、感覚マヒ、痛み、知覚変化など運動・感覚機能の変容が生じるもの。
器質的病変は認められないにもかかわらず、さまざまな運動マヒや痙攣発作が現れる。
失立、失歩、失声、難聴、書字困難,嚥下困難などがあげられる。
全身強直発作(例:ヒステリー弓)をはじめとする痙攣発作は、てんかんの大発作と見分けがつきにくい場合があるが、脳波検査などによって鑑別することができる。
 身体症状は、フロイトが指摘したように症状の性質や現れる身体部位により無意識の葛藤が象徴的に現れているとみると理解しやすい場合が多く、これを器官言語(organ language)という。


解離型ヒステリー
 意識喪失、もうろう発作、記憶障害、幻覚といった精神機能の変容が生じるもの。
精神症状は解離(dissociation)の機制が主に用いられた症状であり、選択的健忘、とん走、仮性痴呆などがあげられる。


実際の患者では双方を合併したものが多く、また、ヒステリー患者の大半に転換症状がみられ解離症状は単独に症状として現出しないことが示唆されたことから、転換型ヒステリーがヒステリーの中心的な障害であるという報告もされている。


治療

 治療法としては精神分析および精神分析的精神療法や、薬物療法などがあげられる。
薬物療法として、抗不安薬、少量の抗精神病薬を使用する。
精神療法として、自我機能が相対的に保たれている人には洞察を得ることを促す精神療法を、
自我機能が相対的に不十分な人には当面する仕事や学業についての支持的な精神療法を行う。

ヒステリーの治療で障害となるのは疾病利得(gain from illness)であり、発症によって問題に直面せずに済むという一次的利得(primary gain)に加えて、周囲の者に大事にしてもらえるなど第二次的疾病利得を学習してしまうと治療を困難にすることとなる。二次的利得(secondary gain)が強固なものになる前に、早期の治療を行うことが望ましいと考えられる。

2013年1月24日木曜日

投影法 projective technique



概略

 被験者に比較的自由度が高く正誤や優劣の評価を下せない課題の遂行を求め、その結果からパーソナリティを測定する性格検査の一つのカテゴリー。
曖昧な刺激図版や言語刺激を提示し、それに対し被験者に自由に連想・想像をさせ、それを回答させることにより、被験者の無意識の中にある個性や性格特徴を測定する。
このような連想や想像のなかに、被験者独自の個性がスクリーンのように映し出されるとの前提のもとに作成され活用されている。
投影法の長所は質問紙法とは異なり、ふさわしい回答というものが分かりにくいため、回答者が意図的に結果を操作することが難しいことや、無意識レベルの個性を測定することが可能である点があげられる。
一方短所は、テストの施行、整理する手間が複雑で、適切な判定をするためには十分な訓練と深い洞察力、そして知識が必要とされる。また、検査者によって解釈が異なる事が多いため、信頼性があまり高まらないという欠点もある。
さらに、反応が特定の性格傾向の反映であるとする根拠が薄いものが多いという行動理論的な立場からの批判もある。


定義

 あいまいで非構造的な刺激を提示し、その反応を分析し解釈する方法


特徴

 長所
  ・被験者が自由に反応できる
  ・反応の意図的歪曲が起こりにくい
  ・単なる査定のみならず、治療的な役割を果たすものもある

 短所
  ・解釈が主観的になりやすい
  ・理論的根拠が曖昧で信頼性が高まらない


種類 例

 ロールシャッハ・テスト rorschach test
  インクのしみによって作られた無意味図形に対する反応から被験者の表面化していない欲求や葛藤を明らかにしようとする

 主題統覚検査 thematic apperception test ; TAT
  図版を提示して、そこから想像した物語をかたらせることで被験者の願望や葛藤を明らかにしようとする

 文章完成法 sentence completion test ; SCT
  「私は…」などの冒頭のみ示された未完成の文章を提示し、最初に頭に浮かんだ続きを書く

 絵画欲求不満テスト P-Fスタディ picture-frustration study
  欲求不満場面に対する反応のタイプから、自我防衛水準での被験者のパーソナリティを明らかにする

 ソンディテスト szondi test
  48枚の顔写真の刺激図版に対する好悪評定を行わせ、その結果からパーソナリティ傾向を把握する

 描画法
 

2013年1月21日月曜日

S-R理論 stimulus-response theory;S-R theory



概略
刺激=反応学習説。
ワトソンが提唱した、人間の行動を『刺激(S:Stimulus)』に対する『反応(R:Response)』として理解する理論のことである。
刺激と反応の結合が学習され、その成立のために、刺激と反応の接近性(contiguity)の条件だけではなく、さらに強化の条件が必要である。
すなわち、強化を必要とする説では、効果の法則を主張したソーンダイク、習慣の強度による連合の形成を提唱したハルがあげられる。
強化を必要としない説では、たんに刺激と反応の接近性による成立、しかも、ただ一回の試行で学習が成立すると説いたガスリー、また、パヴロフの条件づけの手続きで情動反応の条件づけに成功したワトソンがあげられる。
ワトソンは刺激と反応の連合は頻度(frequency)と新近性(recency)によって成立するとした。
S-R論者の各主張に相違はあるが、学習されるのは刺激=反応の連合の形成という点において共通している。


定義

人間の行動を『刺激(S:Stimulus)』に対する『反応(R:Response)』として理解する理論



提唱者
ワトソンWatson,John Broadus(1878-1958)
 行動主義の提唱者。

2013年1月19日土曜日

オペラント条件付け operant conditioning



概略

 道具的条件付けとも呼ばれる。
 有機体の自発したオペラント行動に強化刺激を随伴させ、その反応頻度や反応トポグラフィを変容させる条件付けの操作、およびその過程。
餌で強化することにより、ラットのレバー押し行動を増加させるのはその例。
弁別刺激=オペラント反応=強化刺激 という三項随伴性three-term contingency)によって制御される。
これを最初に実験的に検討したのがソーンダイク(Thorndike,E.L.)で、彼は中の仕掛けを操作すればドアが開き、外に出て餌を食べることができる問題箱を作成した。
空腹のネコを問題箱に入れるとネコは試行錯誤で脱出に成功し、さらに試行を繰り返すと脱出潜時は漸進的に減少した。
この結果から、ソーンダイクは試行錯誤学習は満足をもたらした反応(R)がその刺激状況(S)と結合するS-Rの連合学習であり、効果の法則に従うと主張した。
条件付け操作により反応の生起頻度が増加すれば強化、減少すればである。
スキナー箱における自由オペラント手続きが開発されると、オペラント条件付けの研究は格段に進歩した。
強化のスケジュール刺激制御に関する成果はその最たるものである。




定義
 有機体の自発したオペラント行動に強化刺激を随伴させ、その反応頻度や反応トポグラフィを変容させる条件付けの操作、およびその過程。


研究者
 ソーンダイク(Thorndike,Edward Lee)
  実験および教育心理学者。
 1896年前後から動物の知能をめぐって学習の研究がさまざまな脊椎動物を用いてなされた。
 ネコを用いた問題箱の試行錯誤学習の実験もこの時に行われた。
 そこから学習には動物の能動的な行動が必要であるという練習の法則(law of exercise)および効果の法則という主要な結果が導かれた。
 後者はのちにスキナーに引き継がれ、強化の概念として確立する。

 スキナー(Skinner, Burrhus Frederic)
  20世紀を代表する心理学者の一人で行動分析の創始者。
  1930年代後半までにスキナー箱を用いたオペラント行動研究の基礎を打ち立てた。


オペラント行動 operant behavior
 スキナーは行動を二分法的に分類し、それぞれレスポンデント行動、オペラント行動と命名した。
 オペラント行動とは、特定の誘発刺激がなく、自発した(emitted)反応である。
 


反応トポグラフィ response topography
 通常、オペラント行動は機能的に定義されここの運動の差異を考慮しないが、
 そうした物理的性質は反応トポグラフィとして記述される。
 たとえば、右手で押しても左手で押しても、オペラントとしてのレバー押し行動であることに変わりはないが、反応トポグラフィとしては異なる反応である。


効果の法則 law of effect
 問題箱などの実験を通してオペラント条件付けの先駆的研究を行ったソーンダイクの唱えた法則。
学習が生起するためには反応が環境に対して何らかの効果をもつことが必要であるとしたもの。
 今日強化と呼ばれる概念の必要性を唱え、また観念の連合に代わってS-Rの結合を考えたものであり、しばらく後の行動理論の発展に影響を与えた。


オペラント条件付け療法 orerant conditioning therapy
 行動療法の中心的治療技法の一つ。
 スキナーのオペラント条件付けに関する研究成果およびその条件付けの原理を応用する行動変容法。
 生体の自発的な反応または行動の生起率に影響を与えるような刺激を操作的に生体の反応の生起直後に随伴させる手続きで、行動の変容を図るもの。

 主な手法
  ・シェイピング法
  ・トークン・エコノミー法
  ・刺激統制法
  ・行動契約法
  ・バイオフィードバック法
                   など


強化 reinforcement
 オペラント条件付けにおいて、反応に随伴した後続の結果(consequence)によりその反応の生起確率がオペラント水準に比べて増加した場合、その事態や過程もしくは操作をさす記述概念。

強化子 reinforcer
 環境の変化と個体の行動の変容との機能的関係によって定義された刺激の類(クラス)の一つ。
 正の強化子:反応増加の原因が、後続結果として刺激が呈示されたことによる場合
 負の強化  :反応増加の原因が、後続結果として刺激が除去された事による場合

罰刺激/罰子 punisher
 オペラント条件付けにおいて、反応に後続して何らかの環境変化が起こり、その後に反応出現確率の減少が確認された場合、その環境変化を罰刺激もしくは罰子という。
 この事態ならびに過程、または罰子を反応に随伴させる手続きをという。

嫌悪刺激 aversive stimulus
 生体に嫌悪感情を引き起こすと考えられる刺激の総称。
 逃避学習、回避学習、罰訓練などで負の強化子として用いられる有害または不快刺激、罰子(punisher)。
 嫌悪刺激によりその行動の生起頻度は低下する。

2013年1月18日金曜日

古典的条件付け classical conditioning



概略


道具的条件付けオペラント条件付け)とともに2つの条件付けの型の一つ。
レスポンデント条件づけ、パブロフ型条件づけとも呼ばれる。

条件刺激(CS)の呈示後に無条件刺激(US)を対呈示することにより、条件反応(CR)を形成するもの。
ロシアの生理学者パブロフ(Pavlov,Ivan Petrovich)が発見・提唱し、彼のイヌの唾液条件づけは代表的実験である。
この反射づけは明るいところでは瞳孔が収縮したり、食べ物が口にはいうと唾液が分泌されるような、生まれつきの反射(生得的反射機構)に基づいており、
このような生まれつきの反射、無条件反射には各反射を誘発する刺激、無条件刺激が存在している。
条件刺激と無条件刺激の対呈示を繰り返す強化
古典的条件付けが成立した後で今度は条件刺激だけを提示して無条件刺激を呈示しないという手続きを繰り返すと、条件反応は次第に弱まり、最終的には反応しなくなる消去
消去の途中でしばらく休止期間をはさみ、それから改めて条件刺激を呈示すると、一時的に条件反応が回復する自発的回復などの手続きからなる。
この他にも手続き中のCSとUSの呈示する時間や順番を変化させることで、条件づけられる反応を変えることができ、同時条件づけ遅延条件づけ恐怖条件づけなどでより高次の条件付けがなされる。



定義

・条件刺激の呈示後に無条件刺激を対呈示することにより、条件反応を形成するもの。

もともとは反応と関係のない刺激が学習によって新しく反応を引き起こす力、ある特定の条件下で獲得された後天的な反射(条件反射)を持つようになるまでの手続きやその結果を古典的条件付けという。


提唱者
  ロシアの生理学者パブロフ(Pavlov,Ivan Petrovich 1928 ) 
     1904年に食物消化の神経機構の研究でノーベル生理学医学賞を受賞。
     また、唾液分泌に関する研究中、条件反射の現象を発見した。
  彼の研究は20世紀初期からのアメリカの行動主義心理学の発展に大きく貢献した。



パヴロフ型条件付けの発見から、パヴロフは環境と動作との反射的結合が必ずしも先天的に規定された経路によるものではなく,中枢神経機能によって変化し得ることを示した。

パヴロフ型条件づけは、後にスキナー道具的条件づけと区別するためにヒルガードが古典的条件づけと命名した。
この古典的条件づけを人間の行動変容に適用する研究が発展し,行動療法の基礎が形成された。
また,彼の条件反射説は行動主義心理学の提唱者ワトソンの説の展開において中心的役割を果たし,学習理論にも寄与した。

さらに彼は犬に行った視覚弁別実験において、弁別課題が難しく嫌悪刺激の電気ショックを受ける可能性が高まると、
弁別の成績が悪くなるだけでなく、吠えたり噛みついたりといった落ち着きのない異常状態が慢性的に持続することが観測された。
(中枢神経系の興奮を生ずる条件刺激と類似した抑制を生ずる条件刺激を呈示すると異常な反応を示した)
これを大脳の興奮と制止の混乱によるものであると考え、人間の神経症に類似した症状であることから、この状態を実験神経症と名付けた。
この発見は、臨床精神医学の分野にも大きな影響を与えた。



刺激と反応

 
 無条件刺激 UnConditioned Stimulus ; UCS or US
  条件刺激に続いて呈示される刺激。
  唾液条件付けでの食物、恐怖条件付けでの電撃など。

 無条件反応 UnConditioned Response ; UCR or UR
  無条件刺激の呈示に伴って生ずる反応。
  食物に対する唾液分泌や、電撃に対する心拍・皮膚電気反射(GSR)などの不随意反応。

 中性刺激 Neutral Stimulus ; NS
  現在問題にしている特定の反応はもたらさない、行動を誘発させない刺激。

 条件刺激 Conditioned Stimulus ; CS
  条件付けが行われる対象となる刺激。
  初めは何も反応を誘発しない刺激も、無条件刺激との対呈示を繰り返すことにより
  特定の反応を生じさせるようになる。

 条件反応 Conditioned Response ; CR
  条件刺激に誘発される反応。
  当初は認められないが、条件付けの進行に伴って生ずるようになる。

手続き


条件刺激(Conditioned Stimulus:CS)の呈示後に無条件刺激(UnConditioned Stimulus:UCS , US)をついとして呈示することにより、条件反応(Conditioned Response:CR)を形成する。


オペラント条件づけとの違い

古典的条付け
 行動・反応に関わらず条件刺激と無条件刺激が対になって呈示されることにより反応が誘発される。
 基本的に条件付けの前に反応が起こる必要はなく、対象となる反応は不随意的である。

オペラント条件付け
 自発的な何らかの行動・反応に強化子が与えられることにより、行動の頻度が変化する。
 基本的に条件付けの前に反応が起こる必要があり、その反応は随意的である。



古典的条件付けの操作

強化 reinforcement
 古典的条件付けにおいて条件刺激と無条件刺激を対にして提示することによって引き起こされる事態。
 その後ソーンダイク効果の法則の中で今日の強化の概念的基礎が形成されていった。

消去 extinction
 条件付けにより形成された反応が、もはや強化されないことにより、その成功が減衰していく過程、または手続きをさす(手続きは特に実験的消去 experimental extinction)。

自発的回復 spontaneous recovery
 条件づけられた反応を消去している最中にしばらく休止期間を入れると、その後一時的に反応郷土が多少回復する現象。

脱制止 dishibition
 通常の消去期間中や弁別負刺激呈示中に新奇刺激を呈示すると、低く抑えられていた反応強度が一時的に多少回復する現象。
 脱制止にも馴化があり、新奇刺激の提示が繰り返されると消失していく。


 自発的回復や脱制止は、単に条件付けを消していくだけのプロセスではなく、
   積極的に条件反応を抑制するプロセスであることを示している。



レスポンデント行動 respondent behavior
 スキナーは行動を二分法的に分類し、それぞれレスポンデント行動、オペラント行動と命名した。
レスポンデント行動は、特定の誘発刺激によって引き起こされる反応である。
何が誘発刺激であるかは、生得的に定まっている場合もあれば、学習される場合もある。



同時条件付け simultaneous conditioning

条件刺激の提示を開始してから、5秒以内の一定時間後に無条件刺激を提示し、さらに一定時間後に両刺激(CSとUS)を同時に終了させる置いう手続きを繰り返す。一般にCSとUSが正確に同時に開始され終了する場合には、条件付けは起こりにくいとされる、CSがUSにわずかな時間先行する手続きは、標準的手続きとされる。たとえば、空腹の犬に1分間に100回の速さで音を出すメトロノームを聞かせ始めると同時に、ほぼ30秒余りで食べおわる量のドッグフードを入れたエサ皿を前に提示する犬はすぐに食べ始めるが、当然それと同時に宇井駅分泌が生じる、ドッグフードを提示して30秒後に、メトロノームを止め、同時にエサ皿もひっこめ、5~6分間放置し、また同じ手順でメトロノーム音とドッグフードを対提示する。この手続きを毎日同じ水準の空腹状態にした犬に6回ずつを繰り返してから、5日間くらい続けると、犬は1分間に100回の速さでなるメトロノーム音を聞くだけで、唾液分泌を生ずるようになる。


遅延(延滞)条件づけ delayed conditioning

条件刺激の呈示開始に遅れて無条件刺激の呈示が始まるが、両者が同時に呈示されている期間が存在するものをいう。
条件刺激を呈示してから5秒以上の一定時間後に無条件刺激を呈示し、さらに一定時間後に両刺激を同時に終了させるのがこのタイプの基本型である。
多くの実験状況で条件反応の形成に最も適しているとされるのは、0.5秒ほどの遅延である。
同時条件付との主な違いは、無条件刺激の開始が、このタイプでは、条件刺激の開始より5秒以上遅れる点である。この点が守れているなら条件刺激の収量が、少なくとも無条件刺激の開始と同時であっても、遅延条件付けに含まれる。


痕跡条件付け trace conditioning

条件刺激の呈示が終了した後ある間隔をおいて無条件刺激の呈示が始まるもので、両者が同時に呈示されている時間は存在しない
形成される条件反応の開始時期も条件刺激呈示期に遅れる。
間隔があまりに長くなると条件付けは困難になっていく。
たとえば空腹の犬に、あらかじめ定めた音を40秒間聞かせ、続いてその音を停止し、120秒経過したと同時に、ドッグフードの入ったエサ皿を30秒間だけを提示するという手続きを繰り返して、音に膵液分泌を条件づけるなら、これは痕跡条件付けである。無条件刺激(ドッグフード)が提示されるときには、条件刺激(音)は提示されておらず、あるのは中枢神経系における条件刺激の痕跡であることから痕跡条件付けといわれる。


逆行条件付け backward conditioning

 通常とは逆に無条件刺激の開始が条件刺激の開始に先行するもので、条件付けは成立しないとされる。
条件付け実験の統制手続きとして用いられたこともあった。


時間条件反応 temporal conditioned response

 明確な条件刺激を与えないで、無条件刺激のみを一定時間間隔で与えると、ちょうど無条件刺激出現時間直前に条件反応が現れるようになる。
最終の無条件刺激からの経過時間の感覚が次の無条件刺激に対する条件刺激の役割を果たしていると考えられる。
たとえば空腹の犬に、25分おきに30秒間だけドッグ・フードを呈示することを繰り返していると、ドッグフードを与えなくても25分おきに膵液分泌が生ずるようになる。


2013年1月13日日曜日

プライミング priming


概略



 先行刺激(プライム刺激)が提示されると後続刺激(標的刺激)の処理に無意識的に促進効果を及ぼすこと。
条件によっては、抑制効果を及ぼすこともあるが、この場合のプライミングを、ネガティブ・プライミング(negaive priming)と言うことがある。
プライミングには、直接プライミング(direct priming)と間接プライミング(indirect priming)があり、直接プライミングは、さらに知覚的プライミング(perceptual priming)と概念的プライミング(conceptual priming)に分けられる。
 反応を促進するプライミングは促進的プライミングとよばれ、反応を抑制するプライミングは抑制的プライミングとよばれる。



定義
プライミング
 先行刺激の受容が後続刺激の処理に無意識的に促進効果を及ぼすこと
   直接プライミング(反復プライミング:repetition priming)
    先行刺激(プライム刺激)と後続の刺激(ターゲット刺激)が同じ場合。
    先行刺激が後続刺激としても繰り返し呈示されたり、
    先行刺激が後続刺激の反応として繰り返し出現する場合のプライミング
      知覚的プライミング プライム刺激とターゲット刺激が知覚的に同じ
      概念的プライミング 概念的に類似している

   間接プライミング
    先行刺激が後続刺激の認知閾に促進的影響を与える
    

 
プライム
 先に見聞きする、先行する刺激・事柄

ターゲット
 プライムの影響を受ける後続の事柄


 
  


 知覚的プライミングの実験では、プライム刺激(先行刺激)としていくつかの単語(例:だいどころ)を呈示し、一定時間後、単語完成テスト(例:だい□□ろ)を行うと、呈示した単語についての単語完成テスト項目は、呈示されなかった単語完成テスト項目より正答率が高い。
すなわち先行刺激が後続のテストに促進効果を持ったのである。

 概念的プライミングの実験では、たとえばプライムを刺激としていくつかの単語(例:だいどころ)を呈示し、一定時間後、自由連想テスト(例:料理→○○)を行う。すると呈示された単語の方が呈示されなかった単語よりも、連想語として出現しやすい。

知覚的プライミングはプライム刺激の知覚的要素が、概念的プライミングはプライム刺激の概念的要素が、プライミングを起こしていると考えられる。

 間接プライミングの実験では、プライム刺激(例:だいどころ)を呈示しその認知閾を測定し、次にテスト刺激(例:たべもの)のそれを測定すると、両刺激間に連想関係がある場合には、ない場合と比べ、テスト刺激の認知閾が低下する。これは、プライム刺激の認知がテスト刺激の認知を促進したのである。



2013年1月9日水曜日

元型 archetype

 

概略

ユング(Jung,C.G.)の概念で、集合的無意識の内容。
心の奥底にある普遍的イメージやパターンのことで,さまざまなイメージを生産し,そのイメージが個人の心を左右する。
宗教や神話、そして幻覚や妄想といった精神的体験のなかに時代や文化をこえた普遍的なイメージが認められることから、ユングは人間の精神世界の中に祖先から受け継いだものがあるとして元型を考えた。
ユング心理学において,元型は中核となる概念のひとつであるため,元型心理学とも呼ばれる。
イメージ療法、夢、自由連想、白昼夢、精神症状などに反映される。



定義
 ユングの仮定した集合的無意識の内容で、人類に共通する心の奥底にある普遍的イメージやパターン。



集合的無意識普遍的無意識collective unconscious

ユング(Jung,Carl Gustav)による概念で、人類に共通でより深い人格層にある無意識のこと。
ユングは、人間は精神(プシケ)を構成部分内容力動的力相互関係という4側面から捉えているが、集合的無意識は構成部分の一つである。
分析心理学においては、S.フロイト構造論の中の1つである無意識をさらに個人的無意識集合的無意識に分けた。
前者は、抑圧された個人的な内容を持つ無意識であり、
後者は人類に共通でより深い人格層ある無意識である。
すべての人が保持・共有している記憶,本能,経験を保持している無意識の一部分で、客体的なこころ,人種的記憶,人種的無意識ともいう。



元型イメージの代表例


自己(セルフ self)
 究極の目的としての自分。円のイメージであらわれる。天使の輪など。


影(シャドウ shadow)
 自分の認めたくない面を他人に投影させたもの。
 見知らぬ不気味な人としてあらわれる。


太母(グレートマザー great mother)
 すべてを生み出すものとしての母。慈悲深い面と恐ろしい面をあわせ持つ。


老賢者(オールドワイズマン old wise man)
 若いときにあらわれるもの。
 智恵を持ち,自分を導いてくれる老人としてあらわれる。


アニマ(anima)
 男性の中の女性像。
 母親から生まれたイメージを出発点とし,成長に応じて発展していく。


アニムス(animus)
 女性の中の男性像。
 父親から生まれたイメージを出発点とし,成長に応じて発展していく。

2013年1月6日日曜日

演繹と帰納 deduction and induction



演繹 
 定められた論理規則に従って、前提命題から結論となる命題を導くこと。

 演繹推理は、一般的法則を、個別的な事柄に適用して個別的知識を導き出す思考過程である。
 正しい前提に基づいて、演繹推理の手続きで結果を得られたなら必ず正しい結論に達する。
 そのため、導き出された結果は、強い説得力を持つ。
 しかし、1つずつ順序立てて仮定していくため、理論が1つでも破綻したら、その先にある結論へは絶対にたどり着けないという欠点がある。
 演繹推理には、一つの命題から結論を導く直接推理と、二つ以上の命題から結論を導く間接推理がある。
 三段論法は、間接推理の一種である。
 


帰納 
 個別的な命題から、そこに共通する普遍的な命題を導くこと。

 帰納推理は、いくつかの個別的知識から、一般的法則を導き出す思考過程である。
 演繹推理と異なり、一般的法則を導き出すときに新たな意味情報を加えることになる。
 そのため、蓋然性の高い結果は得られても一義的に結論を決定することはできない。
 つまり、導き出された結論はあくまで統計論にすぎない、という欠点がある。
 しかし人間の知識獲得には重要な過程であり、概念を形成したり言葉を獲得したりする際に用いられ、人間の学習の基礎になっていると考えられる。



例 ①

演繹推理
 前提条件: すべての人間は、いつか死ぬ
   事実 : ソクラテスは人間だ
   結論 : ソクラテスも、いつか死ぬ

帰納推理
  ソクラテスは死んだ
  アリストテレスは死んだ
  プラトンは死んだ
    ⇒すべてに共通するのは”人間である”ということ
  結論 : すべての人間は、いつか死ぬ


例 ②
 
 演繹推理
  前提条件: A社の商品はオーガニック商品だ
    事実 : 商品XはA社製だ
    結論 : 商品Xはオーガニック商品だ

 帰納推理
   商品Xはオーガニック商品だ
   商品Yはオーガニック商品だ
   商品Zはオーガニック商品だ
     ⇒すべてに共通するのは”A社製である”ということ
   結論 : A社の商品はオーガニック商品だ


  

2013年1月4日金曜日

仮現運動 apparent motion



概略
 

客観的には静止している対象が特定の位置または時間間隔で出現・消失を繰り返すとき,その対象が運動しているかのように知覚されることがある。広義には、物理的運動が存在しないにもかかわらず知覚される見かけの運動をいう。狭義では、対象A、Bを適切な時間感覚をおいて、異なる地点に交互に呈示するとき知覚される対象の運動を言う。視覚以外にも聴覚,触覚などでも認められている。


日常場面において見られる例として、映画や踏切の警報機彼があげられ、これはβ運動と呼ばれている。
ゲシュタルト心理学者のウェルトハイマー(Wertheimer,M.)は、この現象を構成主義心理学の要素論的見解に反論するものとしてとらえ、仮現運動の成立要因を初めて実験的に研究した。
このとき刺激の呈示間隔時間が約30ミリ秒以下のとき、2光点の同時点滅が知覚される(同時時相)。
また、呈示する時間間隔が約60ミリ秒のとき、実際運動の知覚と変わらない、滑らかで明らかな運動が知覚される(最適時相)。これを特にφ(ファイ)現象という。
約200ミリ秒以上では、2光点の継続的な点滅が知覚され、運動は知覚されない(刑事時相)。

仮現運動にはこの他に,例えばミュラー=リヤー図形の主線の両端の矢羽の外向きと内向きを交互に呈示すると,主線が伸縮して見えるα運動や,ひとつの静止した光点の輝度の強弱を急激に変化させると,強度を上げるときには光点が膨張し,強度を下げるときには収縮して見えるなどがある。





定義

広義
 物理的運動が存在しないにもかかわらず知覚される見かけの運動

狭義
 対象A、Bを適切な時間感覚をおいて、異なる地点に交互に呈示するとき知覚される対象の運動

 ・映画やテレビのように、網膜に投影された画像の位置変化が生み出す運動印象。
  
  ・実際には動いていないのに、運動を感じること。特に数cm離れた二つの視覚刺激を交互に一定の速度で出現させたり、示したりするときに生じる一連の錯視のこと。


研究者

  ドイツの心理学者 ウェルトハイマー(Wertheimer,M.)



日常例
  映画やアニメ (コマ送りの連続)
  踏切の警報機
  電光掲示板 (複数の光点が点滅することによって、表示された文字などが動いて見える)


2013年1月2日水曜日

タイプA行動パターン type A behavior pattern


 
概略
 

 1950年代にアメリカの心臓病医フリードマンと、ローゼンマンによって、虚血性心疾患の危険因子の1つとして提唱された行動的特徴。フリードマン(Friedman,M.)、ローゼンマン(Rosenman,R.H. et al.)虚血性心疾患の患者には、ある共通した特徴があることに気付き、これをタイプA行動パターンと名付けた。特徴は以下のようなものである。


 性格面:競争的、野心的、精力的

 行動面:機敏、性急、常に時間に追われて切迫感をもっている、

多くの仕事に巻き込まれている

 身体面:高血圧、高脂血症が多い
 

タイプAの人は、自らストレスの多い生活を選び、ストレスを多く受けているにもかかわらず、そのことをあまり自覚せずに過ごす傾向がある。また、ストレスに対する反応の仕方も、交感神経優位型の反応が現れやすく、血圧が上がる、脈拍が増えるなど循環器系に負荷がかかり、虚血性心疾患の発症に関係していると考えられている。心臓病にならないように、日頃の生活習慣(ライフ・スタイル)を見直して、過労に陥らないように予防に努めることが重要。

2013年1月1日火曜日

シェイピング shaping


 
概略
 

 スキナーによって考案された応用行動分析モデルに基づく行動療法の一技法。複雑で新しい行動を獲得させるために、標的行動をスモール・ステップにわけ、達成が容易なものから順に学習し、最終的に目標行動を獲得させていく方法。オペラント技法の一つであり、プログラム学習の基礎をなす。通常は最初に単純な反応が要求され、その反応をより複雑で洗練されたものにするために、強化の基準を徐々に厳しく変化させていく。結果の操作を重視し、行動それ自体を変化させていく過程である。このような手続きは、最終目標とする行動が完全に達成されるまで続けられる。シェイピングを成功させるための留意点としては、標的行動を正確に明確化する、すでに達成できている行動を確認し、シェイピングされるべき行動を選択する、大きすぎず小さすぎないステップのサイズを設定する、などがあげられる。
 

 

定義

複雑で新しい行動を獲得させるために、標的行動をスモール・ステップにわけ達成が容易なものから順に形成していく方法

 

提唱者

 スキナー Skinner,Burrhus Frederic1904-90
   20世紀を代表する心理学者の一人で行動分析の創始者。