2013年1月25日金曜日

ヒステリー hysteria




概略

 現実に問題となっていることを解決することができず心の中に葛藤を生じ、その葛藤のために自我の安定を保つことが困難な状況になったときに、
自我の防衛機制の一つとして意識が消失したり、手足がマヒしたり、声が出なくなるなど、問題に直面することを回避する結果となる、というような病態をヒステリーとよぶ。
ヒステリーの概念は古代エジプト時代に誕生し、その語源はギリシア語で子宮を意味するhystéraである。
当初はその症状は子宮が体内を動きまわるために起きる女性特有の疾患と考えられていた。
しかしその後、1870年代に、シャルコーが「催眠術」でヒステリーの症状がなくなることをみつけ、ヒステリーは『「暗示」という心理作用によって生じた機能障害である』とし、精神疾患として位置づけられるようになった。
それ以来、女性に限らず男性にもみとめられる病気として認識されるようになった。
なおヒステリーの際の意識消失、麻痺、失声などの症状は脳の神経学的機能の器質的障害の結果ではなく心理学的障害であり、その症状は回復可能なものである。



定義

 課題解決が困難である問題に直面したときに、それを正常に認識したり言語化できず、問題回避的に意識消失、運動機能低下、失声などの器質的要因を伴わない症状が出現する症状。

 しかしヒステリーの概念は古く、概念・定義自体がさまざまな変遷を遂げてきているため多義的である。治療現場においても、それぞれの立場からヒステリーという用語を使用している。



歴史

 ヒステリーという呼び名は,女性に特有の疾患との誤解から子宮に問題があると信じらてていたため、古代ギリシア語で「子宮」を意味するヒステラ(hystéra)と名付けられた
古代ギリシャ時代にヒポクラステス(Hippokrates)が,その名を病名として用い、この原因は子宮の異常であり、体内を動きまわるために起きる女性特有の疾患と言われていた。

中世においてはヒステリー弓、ヒステリー球、けいれん発作、視野狭窄、失声、失歩、失立などをはじめとするヒステリー症状は、悪魔に取り憑かれたしるしであるとみなされ、しばしば魔女狩りの犠牲となった。
しかし、当時の鬼神論者たちによる研究はその後のヒステリー研究の基礎資料となっていった。
近代に至り精神医学的見地からの研究がはじまり、ヒステリーは精神疾患として位置づけられるようになったり、男性の患者が確認されはじめたりした。
1870年代にシャルコー(Charcot,J.M.)は、ヒステリーを器質的病変の認められない機能障害と位置づけ、病因として身体的要因を主張しながらもその治療にメスメリズム(mesmerism/一種の催眠術)が効果的であることに注目した。

またジャネ(Janet,P.)は、ヒステリーを機能的疾患としての神経症の中に位置づけ、心理的緊張の低下と意識野の狭窄、人格の解離という考えを用いて説明した。
ベルネーム(Bernheim,H.M.)はヒステリーを暗示によって起こる機能障害ととらえ、精神療法としての催眠術を確立し、バビンスキー(Babinski,J.)はヒステリーの被暗示性に注目し、説得によって治療するという立場から暗示療法を発展させた。
また、プロイアー(Breuer,J.)は有名なアンナ・Oの治療を通して催眠浄化法(hypnocatharsis;カタルシス法)を見いだした。

フロイト(Freud,S.)はブロイアーらの方法の追試を行う中で、自我による防衛の働きに注目するようになり、精神力動的観点一つのヒステリー概念を作り上げた。
フロイトはブロイアーとの共同研究をもとに『ヒステリー研究(1895)』を著し、自我の防衛としての抑圧を重視するようになり、抑圧される心的外傷は幼児期における性的な出来事に起因するとみなし性的欲動論の立場からヒステリーの説明を行っていった。
この抑圧の概念が、その後の精神分析学の発展の基礎となった。


症状

大きく2種類(転換型ヒステリー / 解離型ヒステリー)に分けられる。

転換型ヒステリー 
 痙攣発作、運動マヒ、感覚マヒ、痛み、知覚変化など運動・感覚機能の変容が生じるもの。
器質的病変は認められないにもかかわらず、さまざまな運動マヒや痙攣発作が現れる。
失立、失歩、失声、難聴、書字困難,嚥下困難などがあげられる。
全身強直発作(例:ヒステリー弓)をはじめとする痙攣発作は、てんかんの大発作と見分けがつきにくい場合があるが、脳波検査などによって鑑別することができる。
 身体症状は、フロイトが指摘したように症状の性質や現れる身体部位により無意識の葛藤が象徴的に現れているとみると理解しやすい場合が多く、これを器官言語(organ language)という。


解離型ヒステリー
 意識喪失、もうろう発作、記憶障害、幻覚といった精神機能の変容が生じるもの。
精神症状は解離(dissociation)の機制が主に用いられた症状であり、選択的健忘、とん走、仮性痴呆などがあげられる。


実際の患者では双方を合併したものが多く、また、ヒステリー患者の大半に転換症状がみられ解離症状は単独に症状として現出しないことが示唆されたことから、転換型ヒステリーがヒステリーの中心的な障害であるという報告もされている。


治療

 治療法としては精神分析および精神分析的精神療法や、薬物療法などがあげられる。
薬物療法として、抗不安薬、少量の抗精神病薬を使用する。
精神療法として、自我機能が相対的に保たれている人には洞察を得ることを促す精神療法を、
自我機能が相対的に不十分な人には当面する仕事や学業についての支持的な精神療法を行う。

ヒステリーの治療で障害となるのは疾病利得(gain from illness)であり、発症によって問題に直面せずに済むという一次的利得(primary gain)に加えて、周囲の者に大事にしてもらえるなど第二次的疾病利得を学習してしまうと治療を困難にすることとなる。二次的利得(secondary gain)が強固なものになる前に、早期の治療を行うことが望ましいと考えられる。

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