2013年1月30日水曜日

ボウルビィ Bowlby, John (1907-90)



概略

 イギリスの児童精神医学者で愛着(attachment)理論の創始者。
ロンドン北西部のハムステッドに誕生し、外科医であった父親の影響で最初ケンブリッジ大学で身体医学や自然科学を学んだが、のちにロンドン大学付属モーズレイ病院とユニバーシティ・カレッジ病院で児童精神医学を専攻する。
その頃、クラインアンナフロイトらの児童分析にも興味をもち、精神分析研究所で精神分析技法を学んだ後、ロンドンのタヴィストック・クリニックで治療と研究にあたった。
母子関係が人格形成に及ぼす影響と特にその喪失の重大性を考察し、WHOの依託を受けて行った施設児に関する研究報告書である『乳幼児の精神衛生 Maternal Care and Mental Health 』のなかで示したマターナル・デプリベーション(maternal deprivation;母性的養育の喪失/母性剥奪)という概念は大きな反響を呼び、後の愛着理論の出発点となった。
母子関係の研究を一貫して研究テーマとし、「愛着行動体制説」「愛着性理論」などを発表した。


愛着 attachment
 この言葉を心理学に導入したのは彼が初めてである。アタッチメントとは「人間(動物)が、特定の個体に対して持つ情愛的なきずな(addectional tie)のこと」であると述べている。
 ボウルビィはこの愛着の形成段階を4段階に分けた。誕生から12週頃までの前愛着段階、生後12週から6か月ごろまでの愛着形成段階、生後6~7か月から2歳ごろまでの明瞭な愛着段階、3歳以降からはじまる目標修正的協調関係である。
 乳幼児期に安定した愛着(secure attachment)を形成することが健全なパーソナリティ発達の基本になると考えられている。


マターナル・デプリベーション maternal deprivation  母性剥奪
 ボウルビィは「乳幼児と母親(あるいは生涯母親の役割を演ずる人物)との人間関係が親密かつ継続的で、しかも両者が満足と幸福感にみたされるような人間関係が精神衛生の基礎である」とし、母子関係の相互作用の重要性を説いた。
幼児期における良好な母子関係はその後の人格形成や精神衛生の基盤となることを指摘したが、良好な母子関係が築けず、母子相互作用が欠如することを「母性的養育の喪失」と呼んだ。
これによる打撃で人格発達を阻止され、永続的障害として残りうると考え、母子の愛着関係を人格形成の核になるものとみなし、この関係を単なる依存に終わらぬものとみなした。
最近では子から母親への愛着行動と母親が子に注ぐ直線的な愛情の両方向からの母と子の絆といった用語が使用されている。


喪失と悲嘆 loss and grief
 喪失とは価値や愛情、依存の対象を別離、拒絶、剥奪によって失うことであり、喪失で生じる悲しみや絶望感といった情動的苦しみが悲嘆である。
ボウルビィは喪失に引き続く心理過程を以下の3つに区分した。
 ①「抗議」…失った対象を取り戻そうとする
 ②「絶望と抑うつ」…失った対象との再結合の試みの失敗
 ③「離脱」…心的体制の再構築
喪失後の悲嘆反応に充分に浸ることにより、喪失とその受容の葛藤を克服することが可能になる。

  

 
ボウルビィは精神分析のように過去に遡る推論によらず、現実に生活している幼児の、母の存在と不在との反応を観察するという、比較行動学の、動物の初期経験と行動が社会的絆の形成につながるとみる観点に示唆を得た方法が活用され、人間の初期経験のしるしをのちの働きに認め、その結果、病的要因と思われる事象や経験を研究していった。

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