2013年2月20日水曜日

催眠 hypnosis



概略


言語暗示によって人為的に引き起こされた意識の変容状態のことで、18世紀後半にメスメル(Mesmer,F.A.)動物磁気という名前で心理療法として初めて催眠を使用した。
催眠には催眠状態と呼ばれる意識状態と催眠暗示現象の2つの大きな側面がある。
催眠の意識状態は催眠性トランスとも呼ばれ、変性意識状態の一つである。
催眠暗示現象には代表的なものとして、運動性の暗示現象、知覚性の暗示現象、人格性の暗示現象などがあり、これらの暗示現象が引き起こされている状態を催眠性トランス状態という。
催眠性トランス状態を演技的に行うことは可能だが、暗示現象は演技と異なり、その人自身には自分が行っている感覚がない。
催眠状態の特徴として、イメージが活性化されること、心身のリラックス状態が得られること、注意集中が受動的でかつ狭くなることなどがあげられる。
催眠に誘導するためには暗示が重要であり、催眠療法では通常、催眠誘導のために決まった一連の暗示系列がある。



定義

言語暗示によって人為的に引き起こされた意識の変容状態



人物
F.A.メスメル Mesmer,F.A.

ウィーン生まれの医師で、18世紀後半に動物磁気という心理療法で催眠を初めて使用した人物。
動物磁気療法はメスメリズムとも呼ばれる。

J.ブレイド Braid,J

イギリスの医師。
眠りを意味するギリシャ語hypnosから催眠hyponosis』と名付けた。
言語によって催眠現象を引き起こす言語暗示法を創始し、これは今日の催眠療法の基本形である。




key words

動物磁気 animal magnetism

ウィーンの医師メスメル(Mesmer,F.A.)は1766年に発表した「人体におよぼす遊星の影響について」と題する論文の中で、遊星の影響と物理学における時期の概念に着目し、人体の中に磁気の両極を仮定し、磁気分布が適当でないときに病気が生じると考えた。
一定の状況下でカタレプシーを生じさせるものであったと言われ、彼の理論はメスメリズムとよばれ、催眠研究の端緒であると考えることもできる。


トランス trance  
何らかの方法で普段の意識状態と著しく異なる状態が覚醒中に生じるとき、その意識状態をトランスという。
目の前で起きた出来事についての意識の狭窄や個人的同一性の感覚の一時的喪失、運動活動や発話の減退がみられ、被暗示性も強まっている状態。
極端に興奮を高めることによって生じるものと、極端に興奮を鎮めることにより生じるものがある。
前者は原始宗教やシャーマンなどにみられる憑依状態や脱魂状態であり、
後者は瞑想状態などが例としてあげられる。
トランスは薬や催眠によっても生じる。


催眠性トランス hypnotic trance
催眠の意識状態で、理性的思考が減少し、象徴的思考やイメージ思考などが顕著になる。
さらに現実的関心が減少し、自己感覚に浸り、その感覚を世界空間にまで広げていくような特徴を持っている。


暗示 suggestion

対人的な影響過程の一種で、認知・感情・行動面での変化を無批判に受け入れるようになる現象、またはそのような現象を引き起こすための刺激、その際の心理過程をいう。
言語によって与えられることが多いが、ジェスチャーによるなど非言語的なものもある。
催眠状態に誘導してさまざまな現象を引き起こすには必須のものであるが、催眠そのものではない。
通常の覚醒状態で与えられる覚醒暗示と、催眠状態での催眠暗示などが区別される。



催眠暗示現象 例

・運動性の暗示現象
  四肢が動く / 動かない、固まる  など

・知覚性の暗示現象
  痛み・温感・味覚・聴覚・触覚などにおける変容
  特に身体知覚における暗示現象は生じやすい

・人格性の暗示現象
  年齢退行、健忘、自動書記、人格交替、後催眠暗示  など



ヒルガード Hilgard, E. R.による催眠現象の特徴

 ①企図機能の低下
 ②注意の再配分
 ③過去の記憶の視覚的利用が可能で,空想や創作の能力が亢進する
 ④現実吟味の低下および持続的な現実歪曲に対する耐性
 ⑤被暗示性の亢進
 ⑥役割行動
 ⑦催眠中の体験についての健忘

 つまり催眠とは、暗示によって人為的に引き起こされた特異な心身の変性意識状態(トランス)と被暗示性亢進の状態である。



成瀬悟策による催眠法における3条件
 ①催眠誘導の過程に生じる諸現象に関すること
 ②催眠状態(トランス)そのものに関すること
 ③催眠状態での機能や効果に関すること



催眠療法 hypnotherapy

催眠を用いた心理療法で、18世紀後半のメスメルの動物磁気療法によって始まった。
現代における催眠療法は三つに分類できる。

暗示性催眠療法
  催眠現象のなかの暗示の特徴に強調点がおかれた催眠療法。
  M.H.エリクソンの影響によって、求める状態を直接的に暗示する直接暗示ではなく、
  別の状態を媒介させることによって求める間接暗示が用いられることが多い。

リラックス催眠療法
  催眠の意識状態に重点を置いた利用方法。
  催眠状態では、現実的な事柄からの解放がある。
  この特徴である心理的安全地帯に誘導することによって、治療をしていこうとする方法。

イメージ催眠療法
  イメージの側面に重点を置いた催眠療法で、イメージ療法と呼ばれることも多い。
  イメージ空間の中での体験が重要視され、体験を深めることによって
  体験の変容を求める方法や、精神分析的考え方で進める方法、
  ユング心理学的考え方で進める方法、行動療法的考え方で進める方法など、
  さまざまな具体的方法がある。

総合的に催眠療法では、体験、メタファ・象徴や心的流れを重視しているという共通した考え方がある。


 自己催眠 self-hypnosis ; autohypnosis

一般に催眠と呼ばれるときは、催眠にかかる人に対して催眠をかける人を必要とする。
しかし、自分自身に催眠現象を生じさせることが可能である。
催眠者を他者に求めない自己催眠と、他者を必要とする他者催眠がある。
自己催眠の代表的な例として、シュルツによって体系化された自立訓練法(autogenic training)が挙げられる。

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