2013年2月6日水曜日

精神分析&精神分析療法 psychoanalysis & psychoanalytical therapy



概略


パーソナリティの機能および構造に関する理論であり、かつ特殊な心理療法的技法であって、この理論の他の学問への適応をも含むもの。
S.フロイトが創始した心理学理論であり、その理論に基づく心理療法であって、人間心理の研究方法でもある。
主要な理論として、局所論構造論力動論エネルギー経済論発達論適応論などがある。
特に局所論は精神分析学の基本であり、人間の行為の背景に無意識を想定するものである。
失錯行為や夢の内容、神経症症状などの精神現象は一見明確な原因がないようにみえるが、その原因が無意識内に存在するために意識からは因果関係がわからないだけである。
ゆえに精神分析では、意識に現れた事象を分析することで無意識にアクセスし、症状の原因を明確化することが治療機序となる。
また精神分析療法は、基本的には現在みられる心理的問題の背景に過去の発達段階で未解決な心的な問題が存在すると仮定する。
一般に夢や自由連想法によって得られた資料が分析の対象となり、防衛機制転移の解釈を通して無意識の自己理解をすすめる。
患者の健康な自我の主体性を期待し、適応ではなく、精神内界や人格の再構成を目標とする。




定義
精神分析についての定義は、研究者により異なる

 S.フロイト Freud, Sigmund (精神分析学の創始者)
  「(人の)内部に抑圧されている精神的なものを意識化する仕事」
    ⇒無意識の深層を研究する学問と定義

 A.フロイト Freud, Anna 
  「深層心理学すなわち精神分析ではなくイド自我超自我の三つの部分について完全な知識を得ることが精神分析の課題である」
  ⇒古典的な精神分析から自我心理学へ発展した証左
   対人関係論対象関係論へと発展

(国際精神分析学会第30回大会(1977)での定義)
  「パーソナリティの機能および構造に関する理論であり、かつ特殊な心理療法的技法であって、この理論のほかの学問への適応をも含むものである。この学問はジグムント・フロイトによる非常に重要な心理学的発見を基盤としている」




創始者

S.フロイト Freud, Sigmund(1856-1939)

 後に多くの分析家が独自の理論を展開、発展させていく。

 フロイトは神経学者シャルコー(Charcot, J.M.)ベルネーム(Bernheim, H.M.)のもとで研究を進めていたが、ヒステリー性の神経症状が催眠暗示によって消失することから、本人の意識されていない感情や欲求の存在を確信するし、カタルシスによる心理治療を行った。
しかし、「多くの神経症者はどんな方法によっても催眠されえない」という事実から、催眠とは違う新しい浄化法を考えることとなり、自由連想法が開発された。
さらに意識の統制が弱まる睡眠中の夢も無意識を知る素材を提供してくれるものとして、夢分析も重視された。



S.フロイトの主要な理論 (精神分析の基本的見地)
局所論
  心理的過程は意識、前意識、無意識からつくられているという考え
   意識 consciousness
    これは私の経験だと感じることのできること。意識内容は当人のみ経験する。

   前意識 preconscious
    意識されてはいないものの、思いだそうと注意を向ければ思いだせるもの。
    いつでも意識のなかに入り込める。

   無意識 unconscious
    現実には認めがたい欲望や感情、思考などが強く抑圧され意識には上がってこないもの。
    

構造論
  心を心的装置(超自我(スーパーエゴ)、自我(エゴ)、イド(エス))として捉える

   超自我 super ego
    良心あるいは道徳的禁止機能を果たす人間の精神分析構造の一部。
    快楽原則に従う本能的欲動を検閲し抑圧する。

   自我 ego
    認知、感情、行動などの精神諸機能を統制、統合する心的機関。意識の中心。

   イド id
    本能的性欲動(リビドー)の源泉。快楽原則に支配され、無意識的である。
    一次過程と呼ばれる非論理的で非現実的な思考や、不道徳で衝動的な行動をもたらす。

力動論
  さまざまな心理的現象は、心理的な力関係によって生み出される。

(エネルギー)経済論
  性的欲動である精神的エネルギー(リビドー)を仮定し、
  その充当や対象への分配などから種々の不適応や防衛機制を考える。

発達論
  自我、イド、超自我の相互関係やエネルギー分配の様態を
  幼児から成人へという発達の中で捉え、逆方向を退行と考える。

適応論
  対人関係や社会への適応という視点から心理学的現象を考える。



精神分析療法 psychoanalytical therapy

 S.フロイトの創始した心理療法であるが、広義には寝椅子や自由連想法などを採用しない、精神分析理論を援用した心理療法をも意味することもある。
浄化法カタルシス)から発展してきたもので、無意識的な存在と意識とを疎通させ、患者がこれまで行ってきた自動的な不快支配の結果拒否し(抑圧し)てきたもの(無意識的なもの)を、(意識化して)もっとよく洞察しようという動機にはげまされて、(抵抗を克服し)抑圧されたものを意識的に受け入れるようにそのような患者の変化を意図した治療法である。 
つまり、人間の心を理解しようとする治療法であり、人の感情や思考、行動などは無意識によって規定されていると考え、その無意識を意識化することで人を悩みから解放しようとする治療法である。
フロイトの精神分析療法は、その後の後継者によってさまざまに分岐していくが、基本的には現在みられる心理的問題の背景に、過去の発達段階で未解決な心的な問題が存在すると仮定する。
治療者との関係のなかで生じる感情転移や、抵抗を見出し、その解釈を通して患者の洞察を促す。
精神分析療法において、自由連想法を基本原則としており、治療者は、患者の話しに傾聴するとともに、中立性を保ちながら、患者の無意識についての理解(解釈)を伝えていく。
一般に夢や自由連想法によって得られた資料が分析の対象となり、防衛機制や転移の解釈を通して無意識の自己理解をすすめる。


自由連想法 free association

 フロイトが創始した精神分析の技法で、精神分析療法の基本である。
1890年代に無意識の探索手段としてそれまで用いていた催眠技法の代わりに患者に心の中に思い浮かぶことを自由に語らせる方法を採用した。
この手段は催眠にかからない患者へも適応しうるものであるが、通常患者は寝椅子に横になり、心に浮かぶこと(考え・記憶・感情など)を話すよう求められる。
そのときに語られる内容が分析の素材であり、患者の隠された無意識の現れとしている。
治療の過程で生じてくる抵抗転移に対し、治療者が技法的な中立性の立場で直面化、明確化、解釈を与えることにより、患者の洞察、無意識の意識化が得られるように促していく。



転移(感情転移) transference

 過去の体験が現在の人間関係のなかに反復強迫的に持ち越されること。
フロイトは、精神分析の面接過程が進むにつれて、患者が治療者に向ける肯定的・否定的感情(多くは患者が過去に誰か(多くは両親)に向けた、または向けることのできなかった感情)を治療者に置き換えて向けること転移と呼んだ。
転移は患者が持っている心理的問題と深い結びつきがあることが観察されたことから、その転移の出所と、かつて誰に向けたものであったかを解釈することで、治療的に活用できるとし、
フロイトは「転移という現象は精神分析療法中に必然的に生じる」と考えた。
また、転移によって患者が治療者に憎しみや敵意をいだく場合を陰性転移と呼び、一方で患者が治療者に好意や愛情を抱く場合のことを陽性転移と呼ぶ。
患者が幼児期の人間関係に由来した感情を治療者に向けるのが転移であるが、逆に治療者が同様な感情を患者に向ける場合を逆転移という。



リビドー libido

 人間に本来備わっている、性欲動を意味する精神エネルギーのこと。
このエネルギーが限局される身体部位によって口唇期、肛門期、男根期(エディプス期)、性器期といった心理=性的発達段階を唱えた。
なお、ユングの場合は性的なものではなく、活動源としての一般的な心的エネルギーを意味する。


夢分析 dream analysis

 フロイトは夢が主体の心理的世界をよく表していると考えて科学的な対象とした。
睡眠という意識の統制が弱まった状況下で抑圧されていた無意識が浮上してきたものであり、自由連想法とともに、「夢判断は無意識を知る王道である」とした。
そして、ばらばらでまとまりのない夢も実際はある意味を担っており、読解されるべき心理的現象であるとした。
また、夢は無意識的な願望充足であると考え、構成された夢(顕在的夢思考)から、夢の持つ隠された内容(潜在的夢思考)を引き出そうとした。
 一方,ユングの夢分析では、夢はを目的論的視点から理解しており、過去の妥協の産物としてよりも、ときには将来を示す集合的無意識からのメッセージとみなしている。



精神分析学から派生した諸学派


新フロイト派  neo-Freudian

 S.フロイトのリビドー論に拠った生物学的立場よりも、文化人類学やコミュニケーション理論の影響を受けた、社会的・文化的要因を重視した学派である。
フロム(E.Fromm)ホーナイ(K.Horney)サリヴァン(H.S.Sullivan)フロム-ライヒマン(Fromm-Reichmann, F.)など、1930年代から40年代にかけてのアメリカの一群の精神分析家たちをさす。
エディプス葛藤を認めない母系民族社会の存在を明らかにしてフロイトの汎性欲説の普遍性に疑問を投げかけたM.ミードなどの、文化人類学やコミュニケーション理論を援用しているところに特徴がある。
そのため、力動的・文化的精神分析学(dynamic-cultural psychoanalysis)と呼ばれている。
新フロイト派は、各人はフロイトの仮説に反対しているが、それぞれが強調する点が違い、また、ひとつの理論や技法に限定して縛らない点、違いを認めながらさらに理論を展開して統合する力を示している点などが特徴である。


個人心理学 individual psychology

 
 アドラー(Adler, A.)によって創始された心理学体系で精神分析の一派。
人格の全体性や社会的視点を重視した理論である。
S.フロイトが性欲を重視するのに対し、アドラーは劣等感(器官劣等)を重視した。
人間の基本的動機づけとして劣等感を補償するための権力への意思を強調し、人間を動かす根本的な欲求であると捉え、フロイトの性欲説を批判した。
また、フロイトが神経症の原因として過去の生活史に着目したのに対し、
アドラーは人間行為の目的性に注目し未来志向的観点から神経症を理解すべきだと主張した。


深層心理学 depth psychology

 より表層的な意識の部分と深層の無意識という精神の階層構造論の立場から、意識よりも無意識によって人間の行動が左右されているとみる立場。
特にユング(Jung, C.G.)が確立した分析心理学(ユング心理学)において、無意識は個人的無意識と集合的無意識(普遍的無意識)からなると主張し、集合的無意識における元型を重視した。
また、素質的な根本的態度の型である、内向―外向や、心理機能として思考―感情、感覚―直感を区別し、これらの組み合わせによる8つの類型から独自のタイプ論を展開した。


自我心理学 ego psychology

 S.フロイトが仮定した心的装置であるイド、自我、超自我のうち、特に自我の重要性を強調する学派。
ハルトマン(Hartmann, H.)E.H.エリクソン(E.H.Erikson)に代表される。
また、A.フロイトは防衛機制論を発展させ、自我の健康的な働きを強調して精神分析的自我心理学の基礎をつくり、さらに精神分析を子供に適用して遊戯療法の基礎をうちたてた。
新フロイト派の立場も取り入れたE.H.エリクソンはアイデンティティ理論を唱えた。


対象関係論 object relations theory

 個体の精神内界に形成される内的対象との間で発展する対象関係(内的対象関係)を重視する。
 自我と対象の関係のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。
つまり、対象を生物学的な本能充足の手段として理解するS.フロイト精神分析を基礎としたそれまでの立場に対し、自我は本来、対象希求的なものであるとし、自我と対象との関わりを一義的なものと考える立場である。
クライン(Klein, M.)ウィニコット(Winnicott, D.W.)ガントリップ(Guntrip, H.)らによって発展させられていった。

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