2013年2月15日金曜日
防衛機制 defense mechanisms ; mechanisms of defense
概略
不快な感情の体験を弱めたり避けることによって、心理的な安定を保つために用いられるさまざまな心理的作用で、無意識的に発動する自我の働き。
この働きは、本能的欲求(イド)とそれを満たすことのできない現実(超自我)との間に葛藤が起きたとき、極端な自信喪失や不安などによる人格の崩壊を防ごうと無意識的に行われる。
誰にでも認められる正常な心理的作用で、通常は他のものと関連し合いながら作用する。
不安や不快を回避して状況に適応するための手段として我々の日常生活において意義をもつといえるが、特定のものが常習的に柔軟性を欠いて用いられると、病的な症状や性格特性などの不適応状態として表面化することになる。
S.フロイトは、受け入れがたい観念や感情を受け流すために無意識的にとる心理過程を防衛と呼び、また苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい観念や感情が無意識に抑圧されるとし、この抑圧を自我の防衛として捉えられた。
自我の防衛の概念は、A.フロイトによって防衛機制として体系化され、また、M.クラインは子供の治療の経験を通して原始的防衛機制を明らかにした。
定義
不快な感情体験を弱めたり避けることによって心理的安定を保つために無意識的に用いられるさまざまな心理的作用。
提唱者
S.フロイト Sigmund Freud
苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい観念や感情を受け流すために
無意識的にとる心理過程を 防衛 という用語で1894年に初めて記載。
A.フロイト Anna Freud
防衛機制論を発展をさせた。
防衛機制自体には健康的な側面もあり、自我の健康な働きを強調し、
精神分析的自我心理学の基礎を作った。
M.クライン Klein Melanie
前エディプス期における子どもの精神発達に研究の焦点を当て、
原始的防衛機制の解明に貢献し、今日の対象関係論の発展の基盤を作った。
防衛 defense
S.フロイトに由来する精神分析理論の中心概念のひとつ。
強い葛藤を感じたり、身体的・社会的に脅威にさらされたり、自己の存在を否定されたりというように自我が脅かされたとき、直接的な欲求の充足を求める衝動に対抗するとともに、不安の発生を防ぎ、心の安定と調和を図るためにとられる自我による無意識の調整機能を防衛と言い、また、そのためにとられる手段を防衛機制という。
代表的な防衛機制
抑圧 repression
一番基本的で重要なメカニズムである。
自我の代表的な防衛機制で、受け入れがたい観念、感情、思考、空想、記憶を意識から締め出そうとする無意識的な心理的作用。
抑圧された内容は夢、言い間違いなどの失策行為、白昼夢、症状などのなかに現れるとされる。
意識的に行う抑制suppressionとは異なる。
反動形成 reaction formation
受け入れがたい衝動や観念が抑圧されて無意識的なものになり、意識や行動面ではその反対のものに置き換わること。
例:憎しみの感情に代わって愛情だけが意識される
拒否感を否定するために子どもに過保護になる など
退行 regression
以前の未熟な段階の行動に逆戻りしたり、未分化な思考や表現の様式となること。
過去の発達段階に戻り、その段階で満足を得る。
不随意的で非可逆的な病的な退行と、遊びや睡眠などのより健康的で創造的な退行とが区別される。
精神療法の過程で治療力動との関わりにおいて起こる退行である治療的退行(therapeutic regression)が必須のものと考えられている。
例:弟・妹の誕生後に夜尿や指しゃぶりが再発する など
置き換え displacement
ある表象に向けられていた関心や精神的エネルギー(カセクシス)が、自我にとってより受け入れやすい、関連する(連想上結びつく)別の表彰に向けられることをいう。
転換や昇華、感情転移といった機制のなかにも置き換えが含まれている。
S.フロイトによって神経症の症状形成の一つ、また夢の心的規制の一つとして取り上げられている。
投影 projection
受け入れがたい感情や衝動、観念を自分から排除して、他の人やものに位置づけること。
自分の欲求や感情を、相手のものと考える。
正常な心理過程でもみられるが、より病理の重い場合に現実吟味能力の低下を伴ってしばしば生じる。
投影法検査の理論的根拠ともなっている。
例:自分が嫌っている人がいる場合に、相手が自分のことを嫌っているように感じる
隔離 isolation
欲求や感情と対象との関係、思考と感情のつながりなどを切り離すこと。
苦痛な体験を語るときに、感情が伴わない(感情を記憶から切り離す)など。
否認 denial
外的な現実を拒絶して、不快な体験を認めないようにする働き。
子どもが強いヒーローであるかのように空想したり振る舞うことで、自分が無力であることから目をそらすような場合に用いられる。
軽度なものは健康な人にもみられるが、重篤なものは精神病的な状態で生じる。
臨死患者などの場合にも、自分の病気の受容体験の一段階として生じる。
同一視(同一化) identification
自分にとって重要な人の属性を自分のなかに取り入れる過程一般をさして用いられる。
発達において重要であり、社会・文化への適応力や、アイデンティティ確立の基礎が築かれる。
取り入れ(摂取) introjection
他者の好ましい諸属性を自分のものにしようとする働き。
(好ましい性質を取り入れて同一化する。)
同一視(同一化)が生じる前段階と考えられている。
健康な精神発達の上で重要な役割を果たす一方、自他の区別があいまいになる場合もある。
合理化 rationalization
葛藤や罪悪感を伴う言動を正当化するために社会的に承認されそうな理由づけをおこなう試み。
論理的な理由をつけて合理的に説明する。
実際には抑圧されている願望から生じる行動を説明するために、事実ではないが得心のいく、または自分の為になる理解が作り出される。
例:「すっぱいブドウ」 (イソップ物語 キツネの言い訳)
失敗を偶然的な原因に帰す場合
言動の責任を外的な要因に求める場合 など
昇華 sublimation
性的欲求や攻撃欲求など社会的に許容されない本能的・反社会的な欲求を、文化的社会的価値のあるな行動に変容し充足させること。
置き換えを基本とする機制である。
他の機制とは異なり、欲求は抑圧されることなく、現実に取り組むエネルギーとなる。
例:性的欲動や攻撃性などのエネルギーがスポーツや文化・芸術活動などに向けられること
知性化 intellectualization
本能・衝動をコントロールするために、情緒的な問題を抽象的に論じたり、過度に知的な活動によって覆い隠すようなことで、青年期に顕著にみられる。
観念や思考から感情を分離する防衛機制である隔離(isolation)とともに作用する。
例:性欲や攻撃性(本能的欲求)の高まりをかわすために哲学や宗教に没頭する。
投影性同一視 (*原始的防衛機制)
過剰な投影で、自己の部分を対象の中に押しやり、対象を支配する。
自分の中にあるネガティブな側面を相手の中に見出し、そこを刺激して相手がそのネガティブな側面を表に現すように無意識に働きかけること。
分裂 splitting (*原始的防衛機制)
欠点も長所も含めて1つの人格だということを認識できなくなること。
良いか悪いかという二項対立的に物事を判断してしまう。
この原始的防衛機制を用いると自己像も不安定になりがちになる。
例:怒られているときの母親と大切にしてくれる時の母親を統合せず、悪い母親と良い母親とし
別々の存在として扱う
*自我の分離‐個体化が達成される以前にみられる防衛機制
防衛機制自体は誰にでも認められる正常な心理的作用で、通常は単独ではなく他のものとともに関連し合いながら作用する。
しかし、特定のものが常習的に柔軟性を欠いて用いられると、病的な症状や性格特性、人格構造となってさまざまな不適応状態として表面化することになる。
発達の段階や病理の重さに対応して、成熟した防衛、神経症的防衛、心像歪曲的防衛、未熟な防衛、精神病的防衛に分類されることがある。
病理の理解には、用いられる防衛機制の種類だけでなく、そのもとにある衝動や葛藤(コンフリクト)の強さ、自我機能の統合度、対象関係の質といった諸側面から吟味する必要がある。
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