2012年12月28日金曜日

キャノン=バード説 Cannon-Bard theory



概略

 情動体験のメカニズムに関する古典的理論のうちの一つ。
 恐れや怒りなどの情動を引き起こす刺激は、感覚器から視床を経由して大脳皮質に達し、ここで選択された刺激が視床の抑制を解除する。さらに、視床は大脳皮質に信号を発して恐れなどの情動を体験させ、
同時に内蔵にも信号を出して心臓の鼓動の高まりなどの生理反応を引き起こすという過程が考えられている。
情動体験による中枢の機能を重視するための中枢起源説とよばれることもある。

 同一の自律的反応でも異なった常道が生じること、また情動における視床下部の重要性が指摘されるようになり、
20世紀末にキャノン(Cannon,1927)とバード(Bard,1928)はそれぞれ、情動の視床下部起源説を唱えるようになった。


 この説はジェームズ・ランゲ説と対比されて提唱された。
キャノンは動物実験によって、内臓を中枢神経から切り離しても情動反応が見られることを示し、内蔵反応は情動体験に必ずしも必要ないと結論づけた。
そして、情動を引き起こす刺激は、まず大脳の視床で処理され、その後大脳皮質へ送られたものが情動体験となり、視床下部へ送られたものが生理的変化をもたらすと主張した。



考え方の例
 泣くから悲しいのではなく、悲しいから泣くのだ

 *情動体験が先行し、生理反応を引き起こす。

2012年12月27日木曜日

ジェームズ=ランゲ説 James-Lange theory



概略

 情動体験のメカニズムに関する古典的理論の一つ。通常、情動体験は外界から与えられた刺激を受け取り、それに伴って情動や生理反応が生じるという過程があると考えるが、ジェームズ=ランゲ説では刺激を受け取った際に生じる身体反応によって情動体験が引き起こされると考える。ジェームズ=ランゲ説はジェームズJames,W.)とランゲLange,C.)がほぼ同時期にほぼ同じ内容の考え方を発表したことからこのように呼ばれている。なお、ジェームズ=ランゲ説は感情の末梢説、または末梢起源説とも呼ばれる。
 同じ情動体験のメカニズムに関する古典的理論の一つである、キャノン=バード説よりも先に提唱された学説であり、その考え方は大きく異なっている。
 
 
考え方の例
 
 「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」
 
 「何かを見て、身体が震えるから恐怖を感じる」
 
 
 

*生理反応、身体反応によって、情動体験が引き起こされる

2012年12月22日土曜日

ヒューリスティックスとアルゴリズム heuristics and algorithm


ヒューリスティックス heuristics

ある問題を解決する際に、必ずしも成功するとは限らないが、うまくいけば解決に要する時間や手間を減少することが出来るような手続きや方法。発見法などと訳される。
 
 
アルゴリズム algorithm
 
ある方法に従えば必ずその問題が解決されるというような手続き。
解決が保証されているかわりに、しばしば多くの時間や手間を要する。



例:電話帳に全世帯の名前が掲載されているようなある町を初めて訪れた人が、その町に自分の親戚がいるかどうかを調べるという問題を考える(アンダーソンが挙げた例)

ヒューリスティックス:
    自分と同じ姓だけ電話して尋ねる。結婚やその他の理由で性が変わった親戚を見落とす可能性はあるものの、アルゴリズムに比べると経済的。
 
 
アルゴリズム:
    全ての人に電話をかけて尋ねる。町の人が非協力的でないならば、問題は解決する、という意味でのアルゴリズムの一つ。しかし非常に手間がかかる。




*参考*

代表性ヒューリスティック representativeness heuristic

 不確実な状況下で確立判断を行う際の、ヒューリスティックスの一つ。
 ある事象が特定のカテゴリーに属するかどうかの確率を、その事象がカテゴリーを見かけ上よく代表しているか否かに基づいて判断する直感的方略のこと。
 よく代表していると認知された場合には、カテゴリーの基準率を無視して、その事象の生起頻度を過大に見積もる傾向がある。 

利用可能性ヒューリスティック availability heuristic

 不確実な状況下で確立判断を行う際の、簡便で効率的な、しかし誤りを生むことのあるヒューリスティクスの一つ。
ある事象の生起頻度を、それに当てはまる事例をどれだけ記憶から取り出して利用しやすいのか(長期記憶からの検索可能性)に応じて判断する直感的方略のこと。
 利用しやすさは現実の生起頻度とは必ずしも対応せず、目立ちやすく選択的に記憶されやすい事象はその生起頻度が過大に見積もられる傾向がある。

2012年12月21日金曜日

ロールシャッハ・テスト Rorschach test



概略


 1921年にスイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハ(Hermann Rorschach)によって考案された投影法人格検査の代表的な方法。被験者にインクのしみを見せ、それから何を想像するかによって人格を分析しようとしたもの。初めはインクブロット・テスト(inkblot test)と呼ばれていたように、検査刺激は、左右対称のインクのシミを持つカードで、無彩色、赤と黒の2色、複数の色彩を用いたものがある。テストは、被験者にカードを1枚ずつ示し、まず、カードのしみが何に見えるのかを自由に回答させ(自由反応段階)、次に質疑を行って、どのように見えたか(刺激・特徴など)を聴取する(質疑段階)。そして、反応時間、反応内容、決定因(どのような特徴から見えたのか)、反応領域(どこが見えたか)、カードの向き、形態水準などを記録し、量的分析、および言語表現上の特徴を分析することにより、被験者のもともとの性格や、思考様式、感情状態、対人関係、自己認知といったパーソナリティを捉える事が出来る。解釈法はさまざまあり、膨大な研究が積み重ねられてきた。そのなかで、エクスナー(Exner,J.E.)による包括システムは比較的最近のもので、解釈仮説の背景にノーマル・データの蓄積による客観的データの裏づけをもっており、また感情、思考、認知、対人関係など各クラスターごとに分析を行うクラスター分析という手法を取り入れている。現在では世界中で行われており、最も信憑性の高い方法であるとされる。


方法
 テストには、紙の上にインクを落とし、それを2つ折りにして広げることにより作成されたほぼ左右対称の図版を持つカード(ロールシャッハ・カード)が用いられる。このような図版は原理的には簡単に作成できるものであるが、現在でもロールシャッハによって作成されたものが用いられている。カードは10枚1組で、無彩色のカードと有彩色のカードがそれぞれ5枚ずつ含まれる。各カードは約17cm x 24cmの大きさを持つ。



長所
 ・反応歪曲(回答を意識的に操作すること)が起きにくい
 

短所
 ・結果の分析に高度な技術を要する
  ⇒1920年代に開発されて以来、長年にわたって広く用いられており、テストへの反応と分析のデー
   タベース化が進んでいるため、統計的な評価もある程度可能になっている。
 ・MMPIやMINIなどに比べ、妥当性・信頼性が低く、1回のテストに分析を含めて長い時間を要する
  為、その有用性に疑問が持たれている。














定義




 被験者にインクのしみを見せ、それから何を想像するかによって人格を分析しようとしたもの。









提唱者




 ヘルマン・ロールシャッハ(スイスの精神科医)






2012年12月19日水曜日

マスキング(遮蔽効果) masking


概略

 感覚の相互作用現象の一つで、二つの効果の掻き消し効果、遮音効果ともいわれる。強い刺激があると弱い刺激の存在が感じられなくなる現象。嗅覚、味覚のみならず、視覚、聴覚領域でも重要な現象である。マスクする音(マスカーmasker)に対してマスクされる音(マスキーmaskee)の振動数が高いほうが、低い振動数の音よりもマスクされやすい。マスキング効果は、基底膜の振動様式や聴覚神経での抑制効果によるものである。

ex)
聴覚:静かな時に聞こえる音楽は、騒音の中だと聞こえなくなる
嗅覚:嫌な臭いは香水などで消す
味覚:嫌なにおい・色をした食べ物は食欲をなくす


聴覚マスキング 

 ある音に対する最少可聴値(音の強度に対する刺激閾)がほかの音の存在によって上昇する現象(JIS Z 8109)。すなわち、ある音がほかの音の存在によって、聞こえなくなる現象。A音がB音をマスクする場合、B音は聞こえにくくなり、B音はきこえにくくなり、閾値が上昇したのかを測ればマスキングの大きさはわかる。B音が単独で与えられたときの音圧レベルの値をI0とし、A音を同時に鳴らした時のB音の音圧レベルの値をImとすると、この上昇分がマスキングの大きさである。すなわち、マスキング量(MdB)は、MImIoで表される。



種類

   部分マスキング
   音は聞こえるがその大きさが小さくなる

同時マスキング
  マスクする音とマスクされる音が同時に提示される。最もマスキング量が大きい。

  継時マスキング
   二つの音が継時的に与えられて生じるマスキング

  順向マスキング
   マスクする音A→マスクされる音Bの順に提示するマスキング。マスクする音とマスクされる音の間に2040㎳以内の時間間隔が生じる

  逆向マスキング
   マスクされる音B→マスクする音Aの順に提示するマスキング。マスクする音とマスクされる音の間に140340㎳以内で時間間隔が生じる。時間間隔が同じであれば、順向マスキングより逆向マスキングのほうがマスキング量が多い。

  認知マスキング
   ほかの音などの提示によって音の認知が妨害されること。音が提示されると知覚的な表象が作られ、それに基づいてどのような音であるかについての認知が行われるが、後続音が提示されてしまうと先行音の知覚表象が妨げられて、認知がよくできなってしまうためではないかと考えられている。

  両耳間マスキングcontaralatetal masking)
  二つの音が左右の耳に別々に与えられた場合マスキングは同時マスキングより50B程度低い。純音を雑音でマスクしたとき、純音の振動数を中心にした、ある狭い帯域に雑音が集中している。この帯域を臨界帯域という。同耳マスキングと比べて、マスキング量は50dB程度少ない。マスクする音が骨伝導によって反対側の耳に伝わり、そこで同耳マスキングを生じさせているといえる。

 

傾向 
 
 マスカーとマスキーの両方の周波数と強さをいろいろに変えてマスキング量を測定すると、次にあげるような一定の傾向がある。

①低周波数音は高周波数音をマスクしやすいが、高周波数音は低周波数音をマスクしやすい

②周波数の近い音ほどマスキング量は大きいが、あまり近いとうなりが生じてB音の存在が検知されやすくなるために、マスキング量はかえって減少する。同様のことは、B音の周波数がA音の倍音付近の場合にも生じる。

A音の強さが増大するほどマスクされる範囲は広がり、マスキング量も増大するが、その割合は周波数によって異なる。

 
 

視覚マスキング 
 
 ある視覚像が別の視覚像を壊し得ることを示す。二つの異なる刺激を素早く継時的に提示して、被験者が何を知覚するかを調べる方法である。

Averbach and coriell及びSperlingは、マスキング手続きを用いてアイコン貯蔵を調べた。フラッシュ光をマスク刺激として用い、被験者に文字刺激を短時間見せ、その文字刺激が消えた後すぐにフラッシュ光を提示した。そして見えた文字数を調べるという実験を行った。結果はマスク光がすぐ提示されるほど、報告できる文字数は少なかった。マスクが文字の近くに影響を及ぼしたと考えられる。

しかし、因果律によれば、ある事象は、それがほかの事象に先んじるか、あるいは同時に生起するときにのみほかの自称に影響を及ぼしえる、そして科学は因果律の上に成り立っている。よってマスクは先行する事象に逆行して影響を及ぼしているよう見えるだけであって、実際にそうではない。マスクはそれが生起したときに進行している過程影響するのである。たとえそれが文字の近くのような単純なものであっても、認知過程には時間がかかる、先の実験であれば、近く過程は短時間提示された刺激が消えた後にも侵攻しており、マスクはこの近く過程にかんしょうしたのである。

マスクが鑑賞しえるアイコン超像の過程は、少なくとも二段階ある。マスクはアイコンの形成を妨害しえるし、アイコンから文字を読みだす際の文字の道程も妨害しえる。


アイコン記憶:視覚的印象の「持続性」というものは、その刺激が終結してしまった後でさえ、それらの印象をしばらくの間、処理のために利用しうるようにさせるものである。

2012年12月18日火曜日

カクテルパーティ効果 cocktail-party effect



概略


 パーティ会場などの騒がしい所でも、話し相手の話す内容を聞き取り、会話を続けられたり、人と話している時でも、別の所で自分の名前が呼ばれるとそれに気づいたりする。このような二つ以上の音源に対して、自分に関係のある一つの音源を選択的に聴取できる効果をいう。また、こうした知覚の選択制を注意の働き、選択的注意という。

日常的場面での実例。情報の選択は人間の情報処理過程のどの過程で生じるのか、早期選択説と後記選択説の二つがある。前者は注意を向けられていない情報に関しては、物理的・感覚的レベルまでしか処理がなされないと考える。両耳分離聴実験が裏付けとして用いられ、注意を向けていない方の音の物理的変化を、被験者はすぐに察知するが、その内容は理解していないことから、早期選択説を支持している。具体的システムとしてフィルター説と減衰説がある。一方、後記選択説は注意を向けていない対象に関しても、意味レベルまで処理は進んでおり、その上で選択されていると考える。これが冒頭の例の後者にあたり、それまで無視されてきた情報も意味的処理がされ、自分の名前と気づき、注意を向ける対象になり得た。現在では注意の選択は、複数の段階で起こりうるのではないかと考えられている

 

定義

二つ以上の音源に対して一つの音源のみを選択的に聴取できる効果

聴覚的情報の選択処理、聴覚受容器に到達する刺激強度に特に差はないのにもかかわらずその中の特定の会話を選択できる。こうした知覚の選択制を注意の働きとし、選択的注意selectiveattention)という。
 
具体例 

 パーティ会場などの騒がしいところでも、話し相手の話す内容を聞き取ることができ、会話を続けることができる。
 大勢が話している場でも自分の名前が話題に上ると、自分の名前を聞き取ることができる。


知覚のシステム


 選択的注意のシステムを調べるためにCherry,E.C. (1953)に両耳分離聴の実験を行い、選択的注意の原理を明らかにした。それをもとに、ブロードベントフィルター説トレイスマン減衰説などが提唱された。フィルター説や減衰説は、情報の取捨選択は情報の入力直後の段階に行われるとする早期選択(early selection)の立場をとる。これに対し、後期選択(late selection)の立場では、最も重要な入力情報が反応に影響を与えるという前提から意味的分析やパターン認知などの入力情報の内容分析が終了したあと、注意による情報の選択が行われると考える(Deutsch&Deutsch,1963)。脳の反応である事象関連電位を指標とした神経心理学的研究からは、注意を向けた刺激は注意を向けない刺激よりも、大きな反応を生じることを報告しており、この結果は初期選択説を支持している。ブロードベントの考えたフィルター説ではどれか1つの回路が選択されることにより、一度に1つのものしか通過できなかったが、トレイスマンの説では、同時に多くの情報が伝えられると、注意を向けていないものは減衰されられるがまったく通過できないわけではないから、もしそれが重要であれば時には発見され受け入れられるのである。したがって、注意の機構は初期の段階に存在すると考えられる。


フィルター説Broadbent,1958

処理機構の入り口付近に複数のフィルターが存在し、情報の内容によってではなく物理的特性によって、そのうちのあるフィルターだけが多選択されて聞かれ、そのフィルターを通過した情報のみが処理されると考えた。したがって、注意を向けていない対象に対しては何も知ることができないことになる。


減衰説(attenuator theory)(Treisman,1964)

注意を向けていない方の耳からの情報もある程度の処理がなされると考えた。たとえば、自分の名前などのように関心のる情報の場合には、たとえ減衰して伝えられてもある程度の分析が行われると説明した、ブロードベントの考えたフィルター説ではどれか1つの回路が選択されることにより、一度に1つのものしか通過できなかったが、トレイスマンの説では、同時に多くの情報が伝えられると、注意を向けていないものは減衰されられるがまったく通過できないわけではないから、もしそれが重要であれば時には発見され受け入れられるのである。したがって、注意の機構は初期の段階に存在すると考えられる。



選択的注意(selectiveattention)
多様な情報が渦巻くような環境条件下において、その個人にとって重要だと認識された情報を選択してそれに注意を向ける認知機能を指す概念。カクテルパーティ効果や両耳分離聴の実験によって明らかにされている。




両耳分離聴(dichoyic listening)
注意の研究でしばしば用いられる方法。カクテルパーティ効果を実験的に知り得るためにCherry,E.C. 1953 )により行われた実験。この方法では、左右の耳に別々の情報を等しい大きさで同時に提示する。チェリーは、左耳にA、右耳にBという言葉を提示し、被験者に追唱(shadowing)させた。被験者は比較的容易にこの課題を遂行できたが、このとき追従しなかった法の言葉はほとんど覚えてなかった。ただし、それが男声であったか女声であったかはということは覚えていた。しかし、英語からドイツ語に変わったことは気づかなかった。結果として、追唱を受けない、すなわち注意をむけられないチャンネルの情報は、英語か日本語かといった意味内容までは分析されず、男声か女声かというような物理的特徴の処理に留まる。この選択的注意の原理からトレイスマンは減衰説、ブロードベントは記憶のフィルターモデルを提唱した。これは記憶の流れに関するモデルで、感覚受容器(資格や聴覚など)が受け取った多様な情報が、感覚記憶から短期記憶の貯蔵庫あるいは長期記憶の貯蔵庫に移行する際に選択的注意が働き、需要度に応じてフィルターがかかり、そのフィルターを通過した情報だけが短期記憶や長期記憶として貯蔵されると説明される。


追唱(shadowing) 

一方の耳の情報を繰り返し言わせる、被験者の注意を一方に偏らせるために用いる選択的注意の実験の代表的手段。


2012年12月17日月曜日

フラッティング flooding


概略

 行動療法における古典的条件づけに基づく技法の一つで、クライエントが抱えている不安・恐怖に対し、その原因となる現実場面に直接曝す方法。 イメージを用いる場合と、現実場面を用いる方法がある。主に、不安神経症、恐怖症、強迫性の疾患に用いられることが多い。ただし今日では、いきなり強い不安・恐怖を喚起する刺激ではなく、弱いものから強いものへ段階的呈示する手法の法が効果的とされている。

これに似た方法として、『エクスポージャー』や『系統的脱感作』という行動療法が存在する。
これらの技法は弱い不安を生じる場面から順を追って、恐怖対象と少しずつ触れていくが、
フラッディングの技法では、いきなり極限の恐怖を体験させる点が大きく異なる。


特徴

 もっとも不安を感じる刺激状況にさらす。
 主に恐怖症・強迫性障害の治療に用いられる。
 被治療者が治療状況に耐えられるならば、もっとも有効な行動療法。
 想像上で行う場合はインプロージョンと呼ばれる。

注意点

 注意点は、エクスポージャー法と同様。

・実施前にインフォームドコンセントを十分に行い、その意義をクライエントに理解してもらうこと。
・被治療者の安全を確実に確保すること。
・被治療者が不安・恐怖の対象から逃げ出さないように完全に退路をたつこと。

2012年12月16日日曜日

エクスポージャー 暴露法;exposure 


 

 広義では、不安などの不適応反応を惹起する刺激に患者が身をさらすことであり、系統的脱感作法フラッティングなどの治療法の構成要素としての意味で用いられる。狭義では、慣れ、あるいは消去による恐怖反応の減少を目的として、恐怖反応が生じなくなるまで不安惹起刺激に患者が長時間身をさらす治療法のことを指す。後者の場合、フラッティングとほぼ同義であるが、ハイアラーキー(不安段階表)を用いて段階的に恐怖場面に直面させる段階的エクスポージャー法をさして単にエクスポージャー法と呼ぶことが多く、最初から最強の恐怖場面に直面させるのをフラッティングということが多い。不安障害の治療法として系統的脱感作法やフラッティングにかわって今日よく用いられる。


 エクスポージャー法では、「過去のトラウマ」を「現在の体験」として仮想的に言語化し、トラウマ状況を知覚的・認知的・感情的に思い出してイメージ化・言語化する。そのため、クライエントに強い不安や恐怖が伴うため、クライエントの感じている恐怖や苦痛が急激に高まり精神的な混乱やパニック発作が起きた時には、エクスポージャー法を中止して思考中止法とリラクセーション技法を用いてクライエントの精神状態を鎮静し安定させる。
クライエントへの十分なインフォームド・コンセントを行って心理状態を確認しながらエクスポージャーを実施することが必要だが、クライエントの精神状態が不安定な時やストレス耐性が極端に低くなっている時には行動療法は実施すべきではない。

2012年12月15日土曜日

系統的脱感作法 systematic desensitization



概略

 特に不安・恐怖の治療法としてウォルピによって開発された、行動療法の主要な治療技法のひとつで、エクスポージャー逆制止法が合わさったもの。不適応行動を起こす不安が問題となる場合に用いられる。不安を引き起こす刺激に対し、筋弛緩反応(リラクセーション)と不安反応を拮抗させ、段階的に不安を低減させる方法。ウォルピは、「不安(恐怖・緊張)と相容れない反応を不安が生起している場面で引き起こすことが出来れば、その不安は低減し消失される」と説明した。
 
   エクスポージャー
   クライエントを、恐怖や不安症状の原因となる状況や刺激に段階的にさらすことで、不適応反応を消去する行動療法のひとつ。曝露法とも言う。

  逆制止
   不安や恐怖に対して、拮抗する反応(リラックス状態)をぶつけることで打ち消す技法
 
 
開発者
 
  ウォルピ Wolpe,J


系統的脱感作法の実施手順

1段階目…
  筋弛緩訓練(リラクセーション)。自律訓練法などの筋弛緩訓練を実施し、リラックス状態が築けるトレーニングを行う。

2段階目…
  不安階層表の作成。面接や各種心理検査の情報から、クライエントが不安を感じる具体的な場面項目の情報を収集し、不安の強さの順に配列した「不安階層表」を作成する。

3段階目…
  不安階層表に基づいて、不安の低い場面からイメージさせるとともに、逆行条件づけの手続きを繰り返すことにより、不安を低減させる。完全に不安が解消されたところで、順番に不安の強いものへと移行し、同様の手続きを繰り返す。
 
 

そうして不安段階表の最も強度の刺激までひとつひとつ段階的に患者に克服させていく。

2012年12月14日金曜日

パーソナリティ障害 personality disorder


 


定義

 人格(personality)とは、その個体に特徴的で一貫性のある認知、感情、行動のあり方であるが、それが大きく偏り固定化したために非適応的になっている状態

 

概要

 患者は、人格の著しい偏りのために、適応的な判断や行動ができず、感情を適切に抑制できず、その結果、自分自身や周囲の人たちが苦しむようになっている。

 こうした人格の偏りは、通常、思春期後期もしくは成人期前期にしだいに明らかになるものであり、その後それが持続的、恒常的に続くことになる。

 1980年に発表された米国精神医学会の『性心疾患の診断と統計のためのマニュアル DSM‐Ⅲ』では、多軸方式の診断システムが用いられており、その第2軸がパーソナリティ障害となっている。DSM‐Ⅲでは、11のパーソナリティ障害のタイプが挙げられているし、1986年のDSM‐Ⅲ‐Rでは、さらに2つのパーソナリティ障害タイプが付録として付け加えられている。そして、1994年に発表されたDSM‐Ⅳでは、10のパーソナリティタイプに分類されている(分類参照)

 なお、「人格」という言葉は価値観を含んでおり、原語のpersonalityの意味を反映していないため、DSM‐Ⅳ‐TRの日本語版では「パーソナリティ」という用語を用いるようになった。




DSM‐Ⅳ‐TRによるパーソナリティ障害の全般的診断基準
 A.その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2(またはそれ以上)の領域に現れる。

(1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する方法)
(2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
(3)対人関係機能
(4)衝動の制御

 B.その持続的様式は柔軟性がなく、個人および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。

 C.その持続的様式が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

 D.その様式は安定し、長期間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。

E.その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。

F.その持続的様式は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。



診断方法

 ①患者が全般的診断基準に当てはまるかを吟味する。
 ②個々のパーソナリティ障害の類型記述(診断基準)に照らし合わせて、規定数以上の診断基準を満足しているならば、その類型を診断する。

 それぞれの類型の特徴の有無を面接で一通り調べるという手法(構造化診断面接)が使われることがある。


分類


A群パーソナリティ障害 (Cluster A Personality Disorders)  奇妙で風変わりな群

 
妄想性パーソナリティ障害 (Paranoid Personality Disorder)
  他人の動機を悪意のあるものと解釈するといった、広範な不信と疑い深さの様式

スキゾイドパーソナリティ障害 (Schizoid Personality Disorder)
  社会的関係からの遊離、対人関係状況での感情表現の範囲の限定などの広範な様式

統合失調型パーソナリティ障害 (Schizotypal Personality Disorder)
   親密な関係では急に気楽でいられなくなること、そうした関係を形成する能力が足りないこと、および認知的または知覚的歪曲と行動の奇妙さのあることの目立った、社会的および対人関係的な欠陥の広範な様式


B群パーソナリティ障害 (Cluster B Personality Disorders)  演技的・感情的で移り気の群


反社会性パーソナリティ障害 (Antisocial Personality Disorder)
    他人の権利を無視しそれを侵害する様式(15歳以降に起こる)

 境界性パーソナリティ障害 (Borderline Personality Disorder)
  対人関係、自己像、感情の不安定性および著しい衝動性の広範な様式

 演技性パーソナリティ障害 (Histrionic Personality Disorder)
     過度な情動性と人の注意を引こうとする広範な様式

自己愛性パーソナリティ障害 (Narcissistic Personality Disorder)
  誇大性(空想または行動における)、賞賛されたいという欲求、共感の欠如の広範な様式

 
C群パーソナリティ障害 (Cluster C Personality Disorders)  不安で内向的な群

 
回避性パーソナリティ障害 (Avoidant Personality Disorder)
    社会的制止、不全感、および否定的評価に対する過敏性の広範な様式 

依存性パーソナリティ障害 (Dependent Personality Disorder)
  面倒をみてもらいたいという広範で過剰な欲求があり、そのために従属的でしがみつく行動をとり、分離に対する不安を感じる様式

強迫性パーソナリティ障害 (Obsessive-Compulsive Personality Disorder)
秩序、完全主義、精神および対人関係の統一性にとらわれ、柔軟性、開放性、効率性が犠牲にされる広範な様式


* ④の反社会性パーソナリティ障害以外、成人期早期までに始まる。

現在、以上のようなカテゴリー分類の妥当性について疑問視する意見もある。
ここに挙げたカテゴリーでは、人間のパーソナリティを十分に表現しきれないという指摘である。


頻度

 パーソナリティ障害は、一般の人々にも高率で見出だされる。構造化面接を用いた疫学的研究において一般人口の10~15%に何らかのパーソナリティ障害が診断されることが明らかになっている。

 以下、従来の疫学的研究をまとめたCoid(2003)による個々の類型の頻度 

①妄想性パーソナリティ障害 (Paranoid Personality Disorder)   0.72.4%

②スキゾイドパーソナリティ障害 (Schizoid Personality Disorder) …0.4~1.7%

③統合失調型パーソナリティ障害 (Schizotypal Personality Disorder)0.1~5.6%

④反社会性パーソナリティ障害 (Antisocial Personality Disorder)  0.6~3.0%

⑤境界性パーソナリティ障害 (Borderline Personality Disorder)  …0.7~2.0%

⑥演技性パーソナリティ障害 (Histrionic Personality Disorder)  …2.1%

⑦自己愛性パーソナリティ障害 (Narcissistic Personality Disorder) …0.4~0.8%

⑧回避性パーソナリティ障害 (Avoidant Personality Disorder)   …0.8~5.0%

⑨依存性パーソナリティ障害 (Dependent Personality Disorder)  …1.0~1.7%

⑩強迫性パーソナリティ障害 (Obsessive-Compulsive Personality Disorder)1.7~2.2%

 
プライマリーケアの場や精神科臨床では、さらに頻度が高まる。


病因・病態

 要因として、遺伝的要因が挙げられる。

パーソナリティ障害の特性が同じ家系の人に見出されることが多い

  一卵性双生児で二卵性双生児よりも一致しやすい
  (臨床遺伝学的研究により確認済み)

 パーソナリティ障害と生物学的特性との間のさまざまな関連が確認されている。

 Ex)反社会性、境界性などの患者では、その衝動性がセロトニン系の機能低下と関連しているという知見が報告されている。

 発症の要因として、発達過程や生育環境も重視する。

 他の精神障害が合併しやすい。

 Ex)  境界性    … 感情障害や不安障害が併発しやすい

   反社会、境界性 … 薬物関連障害を起こしやすい

治療

 パーソナリティ障害患者は一般に、不信感が強く情緒的にも動揺しやすいので、安定した治療関係を作ることが重要。また、治療に際し臨床家は、偏見をもたずに、個々の具体的な問題について患者とゆっくり話し合って治療に導入することが必要。また、パーソナリティ障害の治療は長期にわたることが多く、個々人の問題を生物・心理・社会的側面から統合的に把握して、柔軟に治療を進めていくことが大切。
①生物学的アプローチ

②心理的アプローチ

③社会的アプローチ