定義
人格(personality)とは、その個体に特徴的で一貫性のある認知、感情、行動のあり方であるが、それが大きく偏り固定化したために非適応的になっている状態
概要
患者は、人格の著しい偏りのために、適応的な判断や行動ができず、感情を適切に抑制できず、その結果、自分自身や周囲の人たちが苦しむようになっている。
こうした人格の偏りは、通常、思春期後期もしくは成人期前期にしだいに明らかになるものであり、その後それが持続的、恒常的に続くことになる。
1980年に発表された米国精神医学会の『性心疾患の診断と統計のためのマニュアル DSM‐Ⅲ』では、多軸方式の診断システムが用いられており、その第2軸がパーソナリティ障害となっている。DSM‐Ⅲでは、11のパーソナリティ障害のタイプが挙げられているし、1986年のDSM‐Ⅲ‐Rでは、さらに2つのパーソナリティ障害タイプが付録として付け加えられている。そして、1994年に発表されたDSM‐Ⅳでは、10のパーソナリティタイプに分類されている(分類参照)。
なお、「人格」という言葉は価値観を含んでおり、原語のpersonalityの意味を反映していないため、DSM‐Ⅳ‐TRの日本語版では「パーソナリティ」という用語を用いるようになった。
DSM‐Ⅳ‐TRによるパーソナリティ障害の全般的診断基準
A.その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
(1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する方法)
(2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
(3)対人関係機能
(4)衝動の制御
B.その持続的様式は柔軟性がなく、個人および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
C.その持続的様式が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D.その様式は安定し、長期間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。
E.その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。
F.その持続的様式は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。
診断方法
①患者が全般的診断基準に当てはまるかを吟味する。
②個々のパーソナリティ障害の類型記述(診断基準)に照らし合わせて、規定数以上の診断基準を満足しているならば、その類型を診断する。
それぞれの類型の特徴の有無を面接で一通り調べるという手法(構造化診断面接)が使われることがある。
分類
A群パーソナリティ障害 (Cluster A Personality Disorders) 奇妙で風変わりな群
他人の動機を悪意のあるものと解釈するといった、広範な不信と疑い深さの様式
②スキゾイドパーソナリティ障害 (Schizoid Personality Disorder)
社会的関係からの遊離、対人関係状況での感情表現の範囲の限定などの広範な様式
③統合失調型パーソナリティ障害 (Schizotypal Personality
Disorder)
親密な関係では急に気楽でいられなくなること、そうした関係を形成する能力が足りないこと、および認知的または知覚的歪曲と行動の奇妙さのあることの目立った、社会的および対人関係的な欠陥の広範な様式
B群パーソナリティ障害 (Cluster B Personality Disorders) 演技的・感情的で移り気の群
④反社会性パーソナリティ障害 (Antisocial Personality Disorder)
他人の権利を無視しそれを侵害する様式(15歳以降に起こる)
⑦自己愛性パーソナリティ障害 (Narcissistic Personality
Disorder)
誇大性(空想または行動における)、賞賛されたいという欲求、共感の欠如の広範な様式
C群パーソナリティ障害 (Cluster C Personality Disorders) 不安で内向的な群
⑧回避性パーソナリティ障害 (Avoidant Personality Disorder)
社会的制止、不全感、および否定的評価に対する過敏性の広範な様式
⑨依存性パーソナリティ障害 (Dependent Personality Disorder)
面倒をみてもらいたいという広範で過剰な欲求があり、そのために従属的でしがみつく行動をとり、分離に対する不安を感じる様式
⑩強迫性パーソナリティ障害 (Obsessive-Compulsive Personality
Disorder)
秩序、完全主義、精神および対人関係の統一性にとらわれ、柔軟性、開放性、効率性が犠牲にされる広範な様式
* ④の反社会性パーソナリティ障害以外、成人期早期までに始まる。
現在、以上のようなカテゴリー分類の妥当性について疑問視する意見もある。
ここに挙げたカテゴリーでは、人間のパーソナリティを十分に表現しきれないという指摘である。
頻度
パーソナリティ障害は、一般の人々にも高率で見出だされる。構造化面接を用いた疫学的研究において一般人口の10~15%に何らかのパーソナリティ障害が診断されることが明らかになっている。
以下、従来の疫学的研究をまとめたCoid(2003)による個々の類型の頻度
①妄想性パーソナリティ障害 (Paranoid Personality Disorder) …0.7~2.4%
②スキゾイドパーソナリティ障害 (Schizoid Personality Disorder) …0.4~1.7%
③統合失調型パーソナリティ障害 (Schizotypal Personality
Disorder)…0.1~5.6%
④反社会性パーソナリティ障害 (Antisocial Personality Disorder) …0.6~3.0%
⑤境界性パーソナリティ障害 (Borderline Personality Disorder) …0.7~2.0%
⑥演技性パーソナリティ障害 (Histrionic Personality Disorder) …2.1%
⑦自己愛性パーソナリティ障害 (Narcissistic Personality
Disorder) …0.4~0.8%
⑧回避性パーソナリティ障害 (Avoidant Personality Disorder) …0.8~5.0%
⑨依存性パーソナリティ障害 (Dependent Personality Disorder) …1.0~1.7%
⑩強迫性パーソナリティ障害 (Obsessive-Compulsive Personality
Disorder)…1.7~2.2%
プライマリーケアの場や精神科臨床では、さらに頻度が高まる。
病因・病態
要因として、遺伝的要因が挙げられる。
パーソナリティ障害の特性が同じ家系の人に見出されることが多い
一卵性双生児で二卵性双生児よりも一致しやすい
(臨床遺伝学的研究により確認済み)
パーソナリティ障害と生物学的特性との間のさまざまな関連が確認されている。
Ex)反社会性、境界性などの患者では、その衝動性がセロトニン系の機能低下と関連しているという知見が報告されている。
発症の要因として、発達過程や生育環境も重視する。
他の精神障害が合併しやすい。
Ex) 境界性 … 感情障害や不安障害が併発しやすい
反社会、境界性 … 薬物関連障害を起こしやすい
治療
パーソナリティ障害患者は一般に、不信感が強く情緒的にも動揺しやすいので、安定した治療関係を作ることが重要。また、治療に際し臨床家は、偏見をもたずに、個々の具体的な問題について患者とゆっくり話し合って治療に導入することが必要。また、パーソナリティ障害の治療は長期にわたることが多く、個々人の問題を生物・心理・社会的側面から統合的に把握して、柔軟に治療を進めていくことが大切。
①生物学的アプローチ
②心理的アプローチ
③社会的アプローチ
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