概略
アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association ; APA)の精神疾患の診断・統計マニュアルであり、DSM-Ⅰ(1952)、DSM-Ⅱ(1968)、DSM-Ⅲ(1980)、DSM-Ⅲ-R(1987)、DSM-Ⅳ(1994)、DSM-Ⅳ-TR(2000)と改訂を重ね、DSM-Ⅴが2013年に発売予定。第3版に至り、操作的診断基準が設定され、また多軸評定システムが採用されたこともあり、アメリカ国内のみならず世界的に非常に広く用いられるようになった。操作的診断とは、臨床像の記述により各精神障害を定義し、複数の特徴的病像が認められるかどうかで診断をくだす方法であり、診断の客観性・公共性を高めることができる。多軸評定システムでは、第1軸に臨床的障害、第2軸に人格障害・精神遅滞、第3軸一般医学的状態、第4軸に心理社会的および環境的問題、第5軸に機能の全般的評定、の5つの側面から生物・心理・社会的に評定を行う。
定義
精神疾患に関するガイドライン。精神科医が患者の精神医学的問題を診断する際の指針を示すためにアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association ; APA)が定めたもの。
来歴
DSM-I
1952年発表。「反応」(reaction)の面から精神障害を3群に大別したものであった。
DSM-II
1968年発表。DSM-Iの基本概念を継承しているが、「反応」の言葉を廃し、「障害」を10群に大別した。
DSM-III
1980年発表。症候学的記述および量的基準を導入した新しい診断基準を採用、さらに多軸評定という新しい手法を導入した。疾患概念も追加され、診断項目はほぼ倍増した。
DSM-III-R
1986年発表。DSM-IIIを基にした小改正版である。
DSM-IV
1994年発表。DSM-IIIの基本概念を踏襲しつつ、ICD-10との整合性確保を図るなどした改訂版。精神疾患を16群に大別した。
DSM-IV-TR('Text
Revision' of the DSM-IV)
2000年発表。
DSM-Ⅳ本文のエビデンスに基づいた改訂版。
DSM-V
2013年発表予定。ICD-10との統合も検討されている。
利点
個人の考え方を排除し、客観的かつ普遍的に精神障害を診断する。
医療スタッフ側の意見や伎倆の差異による診断の違いが最小限である。
問題点
あくまでも症状、あるいは患者との問診で診断が行われているため、詐病との区別がつかないと言う意味では科学的な根拠は無いと批判が存在する。また、近年の目覚しい脳解析学や脳神経科学等の進展により、精神科医によるDSMを基準とした問診による診断が時代遅れになりつつあるとの主張も存在する。日米などで精神科医による精神鑑定結果や診断名が異なることは往々にしてあり、誤診や患者の詐病もあることなどから、日本においては精神科での診断を問診から脳科学的な客観的根拠を持たせるように切り替えようと各大学や研究機関で研究が始まっている。ただし脳解析学や脳神経科学等はいまだに初期の段階であり脳内の物理現象がどのように心理的現象として具現化するかは因果関係はいまだはっきりしていないことが多い。
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