概略
自分の意思に反して何か考えが浮かんできてしまったり、ある行為を繰り返して行わなければならなかったりと、本人自身もそのことで大変深刻な苦痛を経験しているのが強迫現象であるが、この強迫現象を主症状とし、自らもそれに悩んでいる状態で、しかも、精神病や脳器質性の障害を否定することができる場合を強迫神経症(強迫性障害)と呼ぶ。患者は それが非合理であるという認識があるが、観念に圧倒され合理的かどうかの判断ができない場合もある(優格観念overvalued idea)。強迫観念の内容は、人により内容は複雑多様であるが、強迫状態の成因は十分に明らかではない。また、ふつう強迫観念と強迫行為は併存し、症例によって、ひとつの恐怖が持続する場合、それが他の恐怖と入れ替わる場合、同時に多数の恐怖が存在する場合などがある。治療には、抗うつ薬の長期服用とともに、根気強い行動療法が試みられる。また、すべてに先だって、強迫症状の苦痛に対する十分な理解と同情と心理的支持が必要である。
定義
提唱者
エスキロール(Esquirol,J.E.D.,1838) …強迫現象を記載。
フロイト(1909) …強迫神経症という名前の使用。
強迫性障害 … 二つの理論から説明
● 学習理論 強迫観念をレスポンデント条件付けによる条件反射として、強迫行為を能動型回避行動として説明する。
強迫観念:反復する自我違和的な思考。
大丈夫と思っても、万に一つの危険を恐れる気持ち
強迫行為:不安を軽減するために行われる儀式的な思考。
その危険をのぞき、不安を打ち消すための動作や行動
症状
①確かめ
②洗浄を伴う儀式
③強迫行為を伴わない強迫観念に悩む
④強迫のための行動の遅滞
⑤これらが混合したもの
疫病
一般人口2~3%にみられる。
発症年代の平均は20歳代で男女等比。
初期は症状が軽く、受診するまでに何年もかかることが多い。
約70%が寛解または改善する。
予後良好群…社会適応が良い場合、発症要因が明らかな場合
予後不良群…若年発症の場合、うつ病を合併する場合、強迫行為に対する本人の抵抗が弱い場合、妄想様観念・優格観念をもつ場合など
*また、強迫観念、強迫行為の内容と予後との関連は明らかではない。
治療
近年無作為割付試験から行動療法と薬物療法の有効性がわかっている。
行動療法 エクスポージャーと反応妨害法が用いられる。他にフラッディング、逆説志向(paradoxical
intention)、思考中断法、セルフ・モニタリング、嫌悪条件付けなどが併用される。
薬物療法 三環系抗うつ薬のクロミプラミンやSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害
剤)が用いられる。
エクスポージャー …不安などの不適応反応を惹起する刺激に患者が身をさらすこと。系統的脱感作法やフラッティングなどの治療法の構成要素としての意味で用いられる。
フラッディング …恐怖や不安症状を喚起させる現実場面(刺激)に、クライエントを直面させ、実際には何も恐ろしい事態が生じないことを理解させることで治療を行う、行動療法のひとつ。
逆説志向 …あがり症を治そうとはせず、逆にそのまま受け入れることによって解消していくという逆説的な発想の対処方法。オーストラリアの精神科医ヴィクトルフランクルが提唱した。
思考中断法 …無駄な考えに没頭している状態や強迫観念を取り除くために用いられる。
抗不安薬のような薬物療法の効果があるケースも見られるとともに、神経症の中で心理療法の適用ではあるにせよ、統合失調症との、境界例と見なすべきものも多く、慢性化した重症のものに治療効果を上げることはなかなか難しく、難治的な面をもつ神経症である。
精神分析的にみると、強迫神経症の患者は特有な隔離、反動形成、知性化、肛門期への退行、打ち消しという防衛機制を用いて、自分が情緒的にコントロールしなければならない原始的な衝動と病的な罪悪感に対処している。
統合失調症、自閉症および関連障害、トゥレット症候群などにも、重い強迫症状が併発することがある。セロトニン再取り込み抑制作用をもつ抗うつ薬が特異的に症状改善をきたすことから、この症状の神経化学的背景が関心をよんでいる。
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