2012年12月13日木曜日

レヴィン Kurt Lewin,1890-1947



概略
 

社会心理学の父と呼ばれるレヴィンは、ゲシュタルト心理学の影響を強く受け、動機・情緒・科学論に関する優れた業績を残した。彼は、個人の内部に同時に複数の欲求が存在する状態である葛藤について、3つの基本的な型に分類した。また、場の理論を提唱し、パーソナリティは環境から独立した静的なものではなく、環境と力動的に関連して働くことを強調した。そして、人の行動(B)は人(P)と環境(E)の両方によって決定されるとし、関数式B=f(P,E)と表現した。また、物理的な環境とは半ば独立した心理学的な環境である生活空間の概念を用いて行動を理解しようとする、トポロジー心理学とよばれる力学的な理論を提起した。この中では、緊張、葛藤、誘発性、要求水準などの概念についての実験的研究が精力的に行われ、人格や動機づけ研究に大きな影響を与えた。他にも、集団目標の達成に向けてなされる集団の諸活動に影響を与える仮定と定義されるリーダーシップのスタイルを、「専制型」・「民主型」・「放任型」に分けた。そして、その違いによる集団の生産性への影響を検討する研究を行った。晩年は、自身の理論を社会心理学的な場面へと適用し、グループダイナミックスに関する研究やアクションリサーチに力を注いだ。



レヴィン
 ドイツに生まれたユダヤ人。1916年ベルリン大学でPh.D.(博士水準の学位)を取得し、21年同大学の私講師となる。ヒトラー政権誕生後、アメリカに亡命し(1934)、アイオワ大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)で教鞭をとった。その後、MITにダグラス・マグレガーらとともにグループダイナミクス研究所を創設した(1944)。また、欲求や動機が行動の根源となるという力動論を採用した。

実践的な理論家として「よい理論ほど実際に役に立つものはない」という有名な言葉を残している。


主著
『パーソナリティの力学説』(1935)
『トポロジー心理学の原理』(1936)

 
力動論(dynamic theory)
 行動の根源となるものとして欲求(need)や動機(motivate)を重視し、それによって喚起された動因(drive)や心的緊張(psychic tension)がどのように低減されるか、その過程を力動的に分析する立場を力動論(dynamic theory)あるいは、精神力動論(psychodynamics)と呼ぶ。
力動論の代表者では、精神分析学からはフロイト、ゲシュタルト心理学からはレヴィンが挙げられる。


葛藤(conflict) 
 同時に満足させることが困難な要求や衝動が同じくらいの強さで個人内部に同時に存在し、行動ができない状態。以下、レヴィンによる3つの基本的な型。


接近‐接近型(approach-approach)
 2つまたはそれ以上の欲求対象が、ともに正の誘因性をもち、両方ないしはすべてを満足させたいが、同時にそれをかなえることができないような場合

Ex)迷っていた2つの大学院からの合格通知


回避回避型(avoidance-avoidance)
 2つまたはそれ以上の欲求対象が、ともに負の誘因性をもち、そのどれをも避けたいがそれができないという場合

Ex)勉強やりたくない、でも赤点とりたくない

 
接近‐回避型(approach-avoidance)
 要求の対象が同時に正と負の誘因性を持つ場合。

Ex)こわいものみたさ


グループ・ダイナミックス(group dynamics)
 集団の基本的な性質、集団と個人、集団と集団、さらにはもっと大きな組織と集団との関係についての法則を実証的な方法によって明らかにしようとする社会科学の一分野。集団力学と訳されて使われることも多い1930年代後半アメリカにおいてレヴィンによって創始された。グループ・ダイナミックスという言葉が最初に使われたのも、1939年のレヴィンらによる『社会的風土に関する研究』の論述の中だと言われている。

・グループ・ダイナミックスの特徴

①理論的意味のある実証研究の重視
  ②研究対象として集団の力動性、すなわち成員間の相互依存性への強い関心
  ③社会科学全般への広範な関連性
④研究成果の社会実践への応用可能性の重視、特に理論と実践の統合を図るアクション・リサーチの強調    など

・研究方法

基本的には実験中心とするが、研究目的に合わせて次のような方法がとられる。
 ①現場研究
 ②自然研究
 ③現場実験
 ④実験室実験   など


研究

レヴィンはアイオワで、L・リピットやR・ホワイトとともに、3つの異なるリーダーシップスタイルが少年たちのグループの活動の結果に及ぼす影響を研究した(1939)。これらの3つのスタイルは「民主型」、「専制型」、「放任型」に分類された。専制型リーダーのグループでは、メンバーは不満を感じ、彼らの態度はけんか腰になるか冷淡で無関心になるかのどちらかだった。民主型リーダーのグループでは、メンバー同士が比較的協力し楽しんで作業をしていた。放任型リーダーのグループは、特に不満も示さなかったが、生産的でもなかった。


構成概念(construct; constructive concept)
レヴィンの場合、操作的定義だけでは現実を規定している因果関係は説明できないとし、観察可能なデータに結びつけるために構成概念が必要であるとした。


生活空間(life space)
 もともとはゲシュタルト心理学に属するレヴィンが提唱した考え方であり、個人の心理がその個人を囲む状況や場によって変わるのかを強調する。

 
誘発性(valence)
 1935年レヴィンが提唱した力学的心理学における概念。有意性とも訳される。誘発性は対象(環境)が人を引きつけたり避けたりする性質であり、人の持つ心理学的事態において発生する。


Tグループ(T-group)
 1940年代、レヴィンが集団療法や訓練の技法として開発した。定期的に集まり、彼ら自身の間の権力パターンやコミュニケーションを研究する人々の集団。人間関係集団(human relations group)感受性訓練グループ(sensitivity training group)ともいう。


 

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