2012年12月12日水曜日

ロジャーズ Carl Ransom Rogers,1902-1987



概略
 
 1940年代にアメリカで非指示的療法を提唱し、その後来談者中心療法と名称を変え、カウンセラーの態度が強調されるようになった。ロジャーズは人間には本来、自然な成長の能力があると考え、心理的不適応は理想自己と現実自己の乖離によって生じると考えた。また、来談者中心療法提唱時に提起したカウンセラーの3つの態度とは、共感的理解、無条件の肯定的関心、自己一致(純粋性)である。特にクライエントの「今ここで」の体験や感情を傾聴することから、あたかも自分の体験や感情のように感じ取り、その明確化を試みる共感的理解は最重要条件とされる。また、人間性心理学を代表する研究者としても知られ、彼の人間観は「人間は成長、自律、独立へ向かうという自己実現への傾向が先天的に備わっている。」というものだった。考えの中心は「自己」であり、パーソナリティを形成し行動を決定しているものは本人の「自己概念」であるとした。後年、人間的成長を目指す集団的グループ体験であるエンカウンター・グループも開始した。個人臨床だけでは解決できない問題に対してもアプローチするものとして、パーソン・センタード・アプローチを唱えた。 

 

非指示的療法 Non-Directive Counseling
 1940~1950年代
従来の指示的カウンセリングに対して、非指示的なアプローチを提唱したカウンセリングの技法

 次の技法を重視した

 ・単純な受容
  「あいづち」「うなずき」など。評価や批判をしないで、ひたすら相手の気持ちを受容する態度で聴いていることを表わす。

 ・内容の再陳述
   クライエントの話の内容を、正確かつ簡潔に伝えかえす。

 ・感情の反射
   クライエントが今、感じ、表わしている感情をそのまま受け取り、鏡のように反射して返す。

 ・明確化
   クライエントが体験しているが、はっきりとは意識化されていない感情をカウンセラーが感じとり言語化する。
 

来談者中心療法 Client-Centered Therapy

 1950~1957年代
クライエントの感情や態度の反射を行い、クライエント中心の立場を強調。3つの態度条件を提唱した。

人間は誰でも潜在能力や自己成長力としての実現化傾向(actualizing tendency)を持っており、その実現化傾向が表現されるのを疎外する外的圧力を取り除きさえすれば自然とより良い状態に成長できるという考えに依拠している。そのため、来談者中心療法の治療目標は、たんに症状がなくなることではなく、クライエントの自分自身に対するこれまでの評価やイメージのまとまりである自己概念(特に理想的自己)と経験的・現象的な場における感情・感覚・心的イメージである経験的自己との一致(自己一致)である。治療においてクライエントが、否認・抑圧・歪曲された経験的自己の真の表現内容に気付くことが重要となる。その気付きを促進するためには治療者が無条件の肯定的感心をクライエントに寄せ、クライエントの感情的表現に対し共感的に理解をし、そのことをクライエントに伝えていくだけでよいとした。

 

カウンセラーの基本的態度3つの条件

1950年代になると、技法よりもカウンセラーの態度を重視するようになる。)

共感的理解 empathic understanding  

 クライエントの主観的な見方、感じ方、考え方を、その人のように見たり、感じたり、考えたりすること。また、クライエントの内的世界に関する感情的表現を、クライエントの持っている主観的な認知・感情の枠組みである内的参照枠(internal frame of reference)に沿って理解すること。クライエントの言葉をそのまま鵜呑みにすることなく、真に訴えたいことの内容と、それを語るときに体験されている情緒性を細やかに、かつ的確に理解する。ただ肯いていればよいと誤解されたこともある。

同情や同一視が、聞き手側の経験則に沿って相手の言っていることを理解したり、聞き手の感情と相手の感情が同じだと思い込んで聞き手の立場から相手を理解したりすることであるのに対し、共感的理解は、聞き手が相手と自分は違うという前提に立って、自分の持っている価値観や規範意識を棚上げして相手を理解することである。

治療者は共感的理解をしていることを、クライエントが表現した感情的内容をそのまま、もしくは要約して返すこと(反射;reflecting)によって伝える必要がある。これが何回も反復されることで、クライエント自身がこれまで明確には理解していなかった新の感情状態への気付きが可能となり、自己一致への足がかりを得ることとなる。

ロジャーズは晩年、共感は技法ではなく態度(“a way of being”)と見なした。

カウンセラーはクライエントが何と言っているのかではなく、何を言いたいのかが理解できなければならない。


 ・無条件の肯定的配慮 unconditional positive regard

   一般に「受容」という言葉で理解されている。

相手(クライエント)をかけがえのない独自の存在として無条件に尊重し、全人格をありのままに肯定・受容する態度。クライエントが犯罪者だったり、カウンセラーにとって受け入れることのできない行動や考えを表明したりした場合の対処:「罪を憎んで人を憎まず」。つまりクライエントの反社会性や残虐性に富んだ行為そのものは決して受容されるべきではないが、その人物の過去や生い立ちを考えるとそういった行為に走らざるを得ないのであろうとする立場。

「無条件の」というのは、カウンセラー自身が気に入るようなあり方をクライエントに望むという前提がないことをいう。

 

自己一致(純粋性) self-congruence (genuineness)

   自分の内面の感情をそのまま受けとめ、それを意識の中で否定したりねじまげたりしないでいられること。治療者が自分の治療者役割という自己概念に固執せずに、その自己概念に反するようなものも含め、その治療関係の中で生じたすべての感情や内的状態に対して気付いておりそれを受け入れている状態のことを指す。治療者が自己一致していることの必要性は、自己一致していることが適切で良いものであるとクライエントが感じられるようにするために、治療者がモデルとして機能するという点にある。但し、あくまでも現在の治療関係において治療者が自分の内的状況や感情に気付いているべきということであり、必ずしもクライエントに内的状況や感情を常に伝える必要があるわけではない。

  

理想自己 
 あるべき自分のイメージのこと

現実自己
 自分自身がとらえている現にあるがままの自分のイメージのこと

 

いま、ここ (here and now)
 過去の経験やクライアントの思考、情動、行動の原因の根本を探索することに捕らわれることなく、もしくは重点を置かず、現在抱えている感情と同様に継続している療法のセッションにおいて個人間の感じ方を理解しているかどうかが強調されるべき点である。
ロジャーズは、「受容」「共感」を重視し、問題行動の原因を追及するより,今ここで感じていることを話すことを重視した。



E.T.ジェンドリン
ロジャーズに学び、来談者中心療法の発展に貢献。
フォーカシングの理論を体系化した。

 

著書

オハイオ州立大学教授時代『カウンセリングとサイコセラピー』(1942)
  ⇒「非指示的アプローチ nondirective approach」の輪郭を明確化

シカゴ大学教授時代『クライエント中心療法 Client-Centered Therapy(1951)
  ⇒治療姿勢はクライエント・センタード・アプローチとされる

 

リサーチや研究・思索の成果を人々に伝える為に、面接のデモンストレーションを行ったり、面接を録音・録画したりすることに積極的だった。

グロリアと3人のセラピスト(1962) 有名なテープ
 

シカゴ郊外にプロテスタントの家庭で厳格な両親の元に生まれた。農場に引っ越した12歳時には蛾の研究に没頭し、また両親の教育観の影響で農学を志すが、神学、次いで臨床心理学と教育心理学を学んだ。
1940年にオハイオ州立大学、次いでシカゴ大学、ウィスコンシン大学に教授として迎えられた。

 
沈黙を聴く」ことの重要性(ロジャーズ,1967
 内容のない話より、意味のこもった沈黙の方が重要
 

自己概念について

個人は自己概念に即して世界を知覚しており、自己を維持する為にはそれを自己概念と結合するように知覚するか、もしくは自己概念と矛盾しないように世界を歪曲したり否定したりするという事実が生起し、自己概念と経験している事実に不一致の生じる状態が不適応である、とした。この「自己概念」が攻撃や脅威を受けない状態を治療者が創り出すことによって「自己概念」を修正できる、と考えた。


ロジャーズは自伝の中で「何が傷つき、どの方向に行くべきか、どんな問題が決定的か、どんな経験が深く隠されているか、等を知っているのはクライエントだけである」と述べた。
 

“ The Necessary and Sufficient Conditions of Therapeutic Personality Change”
『パーソナリティ変容の必要にして十分な条件』(1957)   骨子は以下の6条件

①カウンセラーとクライエントが心理的接触(psychological contact)を持っていること

②クライエントが不一致(incongruence)の状態にあり、傷つきやすい、あるいは不安の状態にあること。

③カウンセラーは関係の中で一致(congruent)、統合(integrated)していること。

④カウンセラーはクライエントに対して無条件の肯定的な配慮(unconditional positive regard)を経験していること

⑤カウンセラーはクライエントの内部的照合枠に感情移入的な理解(empathic understanding)を経験しており、そしてこの経験をクライエントに伝達するように努めていること。

⑥カウンセラーの感情移入的理解と無条件の肯定的配慮をクライエントに伝達することが最小限に達成されていること。

 

個人療法から次第にエンカウンター・グループに力を注ぐようになる


エンカウンター・グループ encounter group
 その一種であるベーシック・エンカウンター・グループでは10名程度の参加者と1~2名のファシリテーター(リーダー、世話人)が自由な雰囲気の中で話し合いを進め、深い交流を通して自己の気付きが促進される。

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