2013年2月28日木曜日

トップダウン処理 / ボトムアップ処理 top-down processing / bottom-up processing



概略


認知心理学における情報処理アプローチで、ノーマンら(Norman,D.A. & Bobrow,D.G.)によって提唱された人間の能動的な情報処理の対極的ともいえる2種類の仕組み。

トップダウン処理とは、概念駆動処理(conceptually driven processing)ともよばれ、既有の記憶に依存することが大きく、高次の水準にある概念や理論などから駆動され、入力データを予想や仮説、期待などのもとに処理していく。
仮説演繹的に文脈による期待や知覚の構えから全体を想定して、部分的な構成要素を推測していくもの。
これに対してボトムアップ処理とは、データ駆動処理(date driven processing)ともよばれ、感覚入力データ群によって駆動され、それを扱い処理するスキーマを見出し、それらのデータはより上位の概念や枠組みに取り込まれていく。
分析―帰納的に感覚レベルでの部分的情報処理から全体像を推測していくもの。
すなわち、両方の仕組みでは、人間の知識や記憶の構造体であるスキーマ群と感覚情報からのデータ群とが、相互にやり取りする空間的な場が存在することが想定されており、ここで相互の間で、比較、照合、検証などがなされ、重層的に情報処理されることが前提となっている。


 
 

2013年2月27日水曜日

ゲシュタルト / ゲシュタルト心理学 Gestalt / gestalt psychology



概略

ゲシュタルトとは、形態や姿を意味する言葉であるが、ゲシュタルト心理学においては、要素に還元できない、まとまりのある一つの全体がもつ構造特性を意味する。
知覚の全体性や場の理論を重視する立場である。
ウェルトハイマーを創始者としてドイツで誕生し、ヴントに代表される要素主義の考え方を否定した。
ウェルトハイマーは仮現運動の実験を通してゲシュタルトの考えを実証し、視野の中で対象が分離し、それらがまとまって群を作る体制化の過程、および分離や群化が簡潔・単純な方向に向かって起こるというプレグナンツの傾向が秩序ある知覚世界を成立せしめていることを図形例を用いて説いた。
ゲシュタルトの概念は知覚のみならず、記憶、思考、要求と行動、集団特性等、広く心的過程一般に適用された。




定義

要素に還元できない、一つの全体が持つ構造特性であるゲシュタルトの概念を媒介とした、物心一元論的現象学的心理学



代表人物

ウェルトハイマー Wertheimer,M.

ゲシュタルト心理学の創始者。
仮現運動の実験結果から、ゲシュタルトの考えを実証した。
さらに、視野の中で図と地が分化し、さらに図がまとまって群をつくる体制化の過程、およびそれらが簡潔・単純な方向に向かって起こるというプレグナンツの傾向が、秩序ある知覚世界を成立させていることを図形例を用いて説いた。


ケーラー Köhler,W.

ゲシュタルト心理学の中心人物の一人。
物理学の場理論に精通しており、ゲシュタルト性が心的現象ばかりでなく物理的世界にも存在し、
広い意味での物理法則が支配する中枢神経系と現象世界の間には対応関係が成立するはずであるとする心理物理同型説を展開し(1920)、後年、図形残効などの研究によってそれを支持する証拠を追及した。


コフカ Koffka,K.

ゲシュタルト心理学の中心人物の一人。
知覚―ゲシュタルト心理学序論』(1922) …ゲシュタルト理論を初めて紹介した論文
ゲシュタルト心理学の原理』(1935)…理論の体系化を目指した大著
 ⇒心理学を行動の科学とすること、心理物理同型説の立場をとるとはいえ、
   生理的対応過程の追求よりも現象ないし行動の世界の分析を重視するとした。
   その際、行動を刺激への反応の集合としてではなく、部分の変化が他のすべての部分に
   影響を与えるような力学的系としての場に依存して生じると考える。


レヴィン Lewin,K

物理的な環境とはなかば独立した心理学的な存在である生活空間の概念を用いて行動を理解しようとし、トポロジー心理学と呼ばれる力学的な理論を提起した。
場理論グループ・ダイナミックスの研究などが代表。


key words

ゲシュタルト gestalt

ドイツ語を語源とし、形態と訳される。
体制化された構造(organized structure)、要素に還元できない、一つの全体が持つ構造特性であり、集合体(aggregate)やたんなる総和(summation)とは区別されるものをいう。
体制化の結果を記述するのに用いられるだけでなく、過程そのものの構造的な特性をも示している。


プレグナンツの傾向 Prägnanztendenz

一般的にはプレグナンツの法則または原理と呼ばれる。
ウェルトハイマーが指摘した、体制化が簡潔・単純な方向に向かって起こる傾向をいう。
視野は全体として最も簡潔な、最も秩序あるまとまりをなそうとする傾向がある。
しかし簡潔でよい形(gute Gestalt)のまとまりとは必ずしも規則的や相称的を意味するものではなく、「知覚の体制化における単純で統一的な結果を実現させる傾向」を意味する。


仮現運動 apparent movement

物理的運動が存在しないにもかかわらず知覚される見かけの運動。
狭義には対象A、Bを適切な時間間隔をおいて、異なる地点に交互に呈示するとき知覚される対象の運動。
映画や踏切の警報器などで観察される。


要素主義 elementalism

心の世界を究極の構成要素に分解してその結合の法則を明らかにしようとする立場。
人間の心理現象は要素の総和によるものであり、視覚・聴覚などの刺激には、個々にその感覚や認識などが対応しているという考え。
ゲシュタルト心理学以前のすべての実験心理学がなんらかの意味で要素主義を暗黙の前提にしている。
意識心理学以外でも、パヴロフの条件反射学や行動主義の刺激反応学説(S-R説)など近代心理学の多くがこの立場である。



2013年2月20日水曜日

催眠 hypnosis



概略


言語暗示によって人為的に引き起こされた意識の変容状態のことで、18世紀後半にメスメル(Mesmer,F.A.)動物磁気という名前で心理療法として初めて催眠を使用した。
催眠には催眠状態と呼ばれる意識状態と催眠暗示現象の2つの大きな側面がある。
催眠の意識状態は催眠性トランスとも呼ばれ、変性意識状態の一つである。
催眠暗示現象には代表的なものとして、運動性の暗示現象、知覚性の暗示現象、人格性の暗示現象などがあり、これらの暗示現象が引き起こされている状態を催眠性トランス状態という。
催眠性トランス状態を演技的に行うことは可能だが、暗示現象は演技と異なり、その人自身には自分が行っている感覚がない。
催眠状態の特徴として、イメージが活性化されること、心身のリラックス状態が得られること、注意集中が受動的でかつ狭くなることなどがあげられる。
催眠に誘導するためには暗示が重要であり、催眠療法では通常、催眠誘導のために決まった一連の暗示系列がある。



定義

言語暗示によって人為的に引き起こされた意識の変容状態



人物
F.A.メスメル Mesmer,F.A.

ウィーン生まれの医師で、18世紀後半に動物磁気という心理療法で催眠を初めて使用した人物。
動物磁気療法はメスメリズムとも呼ばれる。

J.ブレイド Braid,J

イギリスの医師。
眠りを意味するギリシャ語hypnosから催眠hyponosis』と名付けた。
言語によって催眠現象を引き起こす言語暗示法を創始し、これは今日の催眠療法の基本形である。




key words

動物磁気 animal magnetism

ウィーンの医師メスメル(Mesmer,F.A.)は1766年に発表した「人体におよぼす遊星の影響について」と題する論文の中で、遊星の影響と物理学における時期の概念に着目し、人体の中に磁気の両極を仮定し、磁気分布が適当でないときに病気が生じると考えた。
一定の状況下でカタレプシーを生じさせるものであったと言われ、彼の理論はメスメリズムとよばれ、催眠研究の端緒であると考えることもできる。


トランス trance  
何らかの方法で普段の意識状態と著しく異なる状態が覚醒中に生じるとき、その意識状態をトランスという。
目の前で起きた出来事についての意識の狭窄や個人的同一性の感覚の一時的喪失、運動活動や発話の減退がみられ、被暗示性も強まっている状態。
極端に興奮を高めることによって生じるものと、極端に興奮を鎮めることにより生じるものがある。
前者は原始宗教やシャーマンなどにみられる憑依状態や脱魂状態であり、
後者は瞑想状態などが例としてあげられる。
トランスは薬や催眠によっても生じる。


催眠性トランス hypnotic trance
催眠の意識状態で、理性的思考が減少し、象徴的思考やイメージ思考などが顕著になる。
さらに現実的関心が減少し、自己感覚に浸り、その感覚を世界空間にまで広げていくような特徴を持っている。


暗示 suggestion

対人的な影響過程の一種で、認知・感情・行動面での変化を無批判に受け入れるようになる現象、またはそのような現象を引き起こすための刺激、その際の心理過程をいう。
言語によって与えられることが多いが、ジェスチャーによるなど非言語的なものもある。
催眠状態に誘導してさまざまな現象を引き起こすには必須のものであるが、催眠そのものではない。
通常の覚醒状態で与えられる覚醒暗示と、催眠状態での催眠暗示などが区別される。



催眠暗示現象 例

・運動性の暗示現象
  四肢が動く / 動かない、固まる  など

・知覚性の暗示現象
  痛み・温感・味覚・聴覚・触覚などにおける変容
  特に身体知覚における暗示現象は生じやすい

・人格性の暗示現象
  年齢退行、健忘、自動書記、人格交替、後催眠暗示  など



ヒルガード Hilgard, E. R.による催眠現象の特徴

 ①企図機能の低下
 ②注意の再配分
 ③過去の記憶の視覚的利用が可能で,空想や創作の能力が亢進する
 ④現実吟味の低下および持続的な現実歪曲に対する耐性
 ⑤被暗示性の亢進
 ⑥役割行動
 ⑦催眠中の体験についての健忘

 つまり催眠とは、暗示によって人為的に引き起こされた特異な心身の変性意識状態(トランス)と被暗示性亢進の状態である。



成瀬悟策による催眠法における3条件
 ①催眠誘導の過程に生じる諸現象に関すること
 ②催眠状態(トランス)そのものに関すること
 ③催眠状態での機能や効果に関すること



催眠療法 hypnotherapy

催眠を用いた心理療法で、18世紀後半のメスメルの動物磁気療法によって始まった。
現代における催眠療法は三つに分類できる。

暗示性催眠療法
  催眠現象のなかの暗示の特徴に強調点がおかれた催眠療法。
  M.H.エリクソンの影響によって、求める状態を直接的に暗示する直接暗示ではなく、
  別の状態を媒介させることによって求める間接暗示が用いられることが多い。

リラックス催眠療法
  催眠の意識状態に重点を置いた利用方法。
  催眠状態では、現実的な事柄からの解放がある。
  この特徴である心理的安全地帯に誘導することによって、治療をしていこうとする方法。

イメージ催眠療法
  イメージの側面に重点を置いた催眠療法で、イメージ療法と呼ばれることも多い。
  イメージ空間の中での体験が重要視され、体験を深めることによって
  体験の変容を求める方法や、精神分析的考え方で進める方法、
  ユング心理学的考え方で進める方法、行動療法的考え方で進める方法など、
  さまざまな具体的方法がある。

総合的に催眠療法では、体験、メタファ・象徴や心的流れを重視しているという共通した考え方がある。


 自己催眠 self-hypnosis ; autohypnosis

一般に催眠と呼ばれるときは、催眠にかかる人に対して催眠をかける人を必要とする。
しかし、自分自身に催眠現象を生じさせることが可能である。
催眠者を他者に求めない自己催眠と、他者を必要とする他者催眠がある。
自己催眠の代表的な例として、シュルツによって体系化された自立訓練法(autogenic training)が挙げられる。

2013年2月19日火曜日

対象関係論 object relations theory



概略


精神分析理論の一つで、自我と対象の関係(内的対象関係)のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。
前エディプス期の段階での母子関係における自我の発達を対象関係として扱う理論である。
自我は本来、対象希求的なものであるとし、自我と対象との関わりを一義的なものとして考える。
乳児の内的対象関係は、自己と他者の区別のない自己愛的対象関係から、対象の一部を認識する部分的対象関係段階を経て、統合された全体的対象関係へと発展する。
そしてその段階に応じて対象との間にさまざまな不安を体験していく。
この理論をめぐって個人の現実適応を重視したA.フロイトらの自我心理学との論争が起こった。
対象関係論は原始的防衛機制に着目したM.クラインや、移行対象などの概念を提唱したD.W.ウィニコットらによって発展させられていった。




定義

前エディプス期の段階での母子関係における自我の発達を対象関係として扱う理論。
自我と対象の関係のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。



代表的人物

M.クライン Klein, Melanie

精神分析家で対象関係論の創始者。
S.フロイトの内在化の概念を発展させ、内的対象の概念を提唱し内的対象関係を重視した。
また、転移を内的世界の外在化としてとらえた。
妄想-分裂体制抑うつ態勢の概念や、分裂機制による良い内的対象と悪い内的対象の分裂を提唱した。
前エディプス期における子どもの精神発達に焦点を当て、原始的防衛機制の解明に貢献し、
今日の対象関係論の発展の基盤を作った。
児童分析をめぐってA.フロイトと激しい論争を展開した。


D.W.ウィニコット Winnicott, D.M.

内的で主観的な世界と外的で客観的な環境要因とのかかわりを重視し、相互の橋渡しを軸とした概念や理論を展開し、抱える環境の失敗から精神病理を捉えた。
分離不安に対する防衛として移行対象の概念を提出し、移行対象を幼児の錯覚が脱錯覚されていく過程における代理的な満足対象として捉えた。
また抱える環境の失敗による不安が、子どもの本来の自発性と創造性を犠牲にする迎合的な偽りの自己を発達させることを明らかにした。


M.バリント Balint, M.

言語に古典的精神分析では扱うことが難しい、治療関係において原初的な母子関係が現れるクライエントの特性として基底欠損をあげ、主に境界例患者における対象関係の重要性を指摘した。


W.R.D.フェアバーン

 ⇒ウィニコットやフェアバーンは、A.フロイトとM.クラインの論争のどちら側にも積極的に味方をしなかったため、英国独立学派と呼ばれる。



key words

内的対象関係
 外的な対象に加えて、個体の精神内界に形成される内的対象との間で発展する対象関係

妄想‐分裂態勢
 堅固なナルシズムが支配的で、部分対象関係による妄想的不安と分裂機制が作動する状態。
 内的対象は良い内的対象悪い内的対象に分裂している。

抑うつ態勢
 全体対象関係が成立して対象の価値を認める状態だが、そのために母親からの分裂に伴う不安が生じる。

2013年2月15日金曜日

防衛機制 defense mechanisms ; mechanisms of defense



概略


不快な感情の体験を弱めたり避けることによって、心理的な安定を保つために用いられるさまざまな心理的作用で、無意識的に発動する自我の働き。
この働きは、本能的欲求(イド)とそれを満たすことのできない現実(超自我)との間に葛藤が起きたとき、極端な自信喪失や不安などによる人格の崩壊を防ごうと無意識的に行われる。
誰にでも認められる正常な心理的作用で、通常は他のものと関連し合いながら作用する。
不安や不快を回避して状況に適応するための手段として我々の日常生活において意義をもつといえるが、特定のものが常習的に柔軟性を欠いて用いられると、病的な症状や性格特性などの不適応状態として表面化することになる。
S.フロイトは、受け入れがたい観念や感情を受け流すために無意識的にとる心理過程を防衛と呼び、また苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい観念や感情が無意識に抑圧されるとし、この抑圧を自我の防衛として捉えられた。
自我の防衛の概念は、A.フロイトによって防衛機制として体系化され、また、M.クラインは子供の治療の経験を通して原始的防衛機制を明らかにした。



定義

不快な感情体験を弱めたり避けることによって心理的安定を保つために無意識的に用いられるさまざまな心理的作用。


提唱者

 S.フロイト Sigmund Freud
  苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい観念や感情を受け流すために
  無意識的にとる心理過程を 防衛 という用語で1894年に初めて記載。

 A.フロイト Anna Freud
  防衛機制論を発展をさせた。
  防衛機制自体には健康的な側面もあり、自我の健康な働きを強調し、
  精神分析的自我心理学の基礎を作った。

 M.クライン Klein Melanie
  前エディプス期における子どもの精神発達に研究の焦点を当て、
  原始的防衛機制の解明に貢献し、今日の対象関係論の発展の基盤を作った。




防衛 defense
 S.フロイトに由来する精神分析理論の中心概念のひとつ。
強い葛藤を感じたり、身体的・社会的に脅威にさらされたり、自己の存在を否定されたりというように自我が脅かされたとき、直接的な欲求の充足を求める衝動に対抗するとともに、不安の発生を防ぎ、心の安定と調和を図るためにとられる自我による無意識の調整機能を防衛と言い、また、そのためにとられる手段を防衛機制という。




代表的な防衛機制


抑圧 repression

一番基本的で重要なメカニズムである。
自我の代表的な防衛機制で、受け入れがたい観念、感情、思考、空想、記憶を意識から締め出そうとする無意識的な心理的作用。
抑圧された内容は夢、言い間違いなどの失策行為、白昼夢、症状などのなかに現れるとされる。
意識的に行う抑制suppressionとは異なる。


反動形成 reaction formation

受け入れがたい衝動や観念が抑圧されて無意識的なものになり、意識や行動面ではその反対のものに置き換わること。
 例:憎しみの感情に代わって愛情だけが意識される
    拒否感を否定するために子どもに過保護になる  など


退行 regression

以前の未熟な段階の行動に逆戻りしたり、未分化な思考や表現の様式となること。
過去の発達段階に戻り、その段階で満足を得る。
不随意的で非可逆的な病的な退行と、遊びや睡眠などのより健康的で創造的な退行とが区別される。
精神療法の過程で治療力動との関わりにおいて起こる退行である治療的退行(therapeutic regression)が必須のものと考えられている。
 例:弟・妹の誕生後に夜尿や指しゃぶりが再発する など


置き換え displacement

ある表象に向けられていた関心や精神的エネルギー(カセクシス)が、自我にとってより受け入れやすい、関連する(連想上結びつく)別の表彰に向けられることをいう。
転換や昇華、感情転移といった機制のなかにも置き換えが含まれている。
S.フロイトによって神経症の症状形成の一つ、また夢の心的規制の一つとして取り上げられている。


投影 projection

受け入れがたい感情や衝動、観念を自分から排除して、他の人やものに位置づけること。
自分の欲求や感情を、相手のものと考える。
正常な心理過程でもみられるが、より病理の重い場合に現実吟味能力の低下を伴ってしばしば生じる。
投影法検査の理論的根拠ともなっている。
 例:自分が嫌っている人がいる場合に、相手が自分のことを嫌っているように感じる


隔離 isolation

欲求や感情と対象との関係、思考と感情のつながりなどを切り離すこと。
苦痛な体験を語るときに、感情が伴わない(感情を記憶から切り離す)など。


否認 denial

外的な現実を拒絶して、不快な体験を認めないようにする働き。
子どもが強いヒーローであるかのように空想したり振る舞うことで、自分が無力であることから目をそらすような場合に用いられる。
軽度なものは健康な人にもみられるが、重篤なものは精神病的な状態で生じる。
臨死患者などの場合にも、自分の病気の受容体験の一段階として生じる。


同一視(同一化) identification

自分にとって重要な人の属性を自分のなかに取り入れる過程一般をさして用いられる。
発達において重要であり、社会・文化への適応力や、アイデンティティ確立の基礎が築かれる。


取り入れ(摂取) introjection

他者の好ましい諸属性を自分のものにしようとする働き。
    (好ましい性質を取り入れて同一化する。)
同一視(同一化)が生じる前段階と考えられている。
健康な精神発達の上で重要な役割を果たす一方、自他の区別があいまいになる場合もある。


合理化 rationalization

葛藤や罪悪感を伴う言動を正当化するために社会的に承認されそうな理由づけをおこなう試み。
論理的な理由をつけて合理的に説明する。
実際には抑圧されている願望から生じる行動を説明するために、事実ではないが得心のいく、または自分の為になる理解が作り出される。
 例:「すっぱいブドウ」 (イソップ物語 キツネの言い訳)
    失敗を偶然的な原因に帰す場合
    言動の責任を外的な要因に求める場合  など


昇華 sublimation

性的欲求や攻撃欲求など社会的に許容されない本能的・反社会的な欲求を、文化的社会的価値のあるな行動に変容し充足させること。
置き換えを基本とする機制である。
他の機制とは異なり、欲求は抑圧されることなく、現実に取り組むエネルギーとなる。
  例:性的欲動や攻撃性などのエネルギーがスポーツや文化・芸術活動などに向けられること


知性化 intellectualization

本能・衝動をコントロールするために、情緒的な問題を抽象的に論じたり、過度に知的な活動によって覆い隠すようなことで、青年期に顕著にみられる。
観念や思考から感情を分離する防衛機制である隔離(isolation)とともに作用する。
 例:性欲や攻撃性(本能的欲求)の高まりをかわすために哲学や宗教に没頭する。


投影性同一視 (*原始的防衛機制

過剰な投影で、自己の部分を対象の中に押しやり、対象を支配する。
自分の中にあるネガティブな側面を相手の中に見出し、そこを刺激して相手がそのネガティブな側面を表に現すように無意識に働きかけること。


分裂 splitting 原始的防衛機制

欠点も長所も含めて1つの人格だということを認識できなくなること。
良いか悪いかという二項対立的に物事を判断してしまう。
この原始的防衛機制を用いると自己像も不安定になりがちになる。
 例:怒られているときの母親と大切にしてくれる時の母親を統合せず、悪い母親と良い母親とし 
     別々の存在として扱う

*自我の分離‐個体化が達成される以前にみられる防衛機制



防衛機制自体は誰にでも認められる正常な心理的作用で、通常は単独ではなく他のものとともに関連し合いながら作用する。
しかし、特定のものが常習的に柔軟性を欠いて用いられると、病的な症状や性格特性、人格構造となってさまざまな不適応状態として表面化することになる。
発達の段階や病理の重さに対応して、成熟した防衛、神経症的防衛、心像歪曲的防衛、未熟な防衛、精神病的防衛に分類されることがある。

病理の理解には、用いられる防衛機制の種類だけでなく、そのもとにある衝動や葛藤(コンフリクト)の強さ、自我機能の統合度、対象関係の質といった諸側面から吟味する必要がある。

2013年2月11日月曜日

人間性心理学 humanistic psychology


概略


人間を無意識に支配されているとする精神分析や、外的環境に支配されているとする行動主義に対して、人間を自由意志を持つ主体的な存在としてとらえる立場。
個人の独自性と自由性を重視し、個人への共感的関与を特徴とする。
アメリカでは1960年代以降、西海岸を中心にして急速に広まった。
マズロー(Maslow,A.H.)はこれを、精神分析と行動主義の二大勢力に対して第三勢力(の心理学)と呼んでいる。
人間性心理学に基づく心理療法はクライエントの主体性と自由を強調し、治療へのクライエントの責任を明確にし、それまでの心理療法各派への大きな影響を与えた。
実存主義的心理療法も人間性心理学として分類されることがある。



代表人物 例

 A.H.マズロー(Maslow,A.H.)
  自己実現の概念の提唱者。
  階層的動機論で自己実現欲求を明らかにし、欲求階層説を提唱した。
  また、人間性心理学の立場を第三勢力と呼んだ。

 C.R.ロジャーズ(Rogers,C.R.)
  クライエント中心療法の創始者。
  受容共感を重視した。

 A.アドラー(Adler,A)
  個人心理学の創始者。
  人間性心理学の立場の先駆者として、人間が主体的に決断しうる存在であることを強調した。

 V.E.フランクル(Frankl,V.E.)
  実存分析、およびロゴテラピー(Logotherapie)の提唱者。
  アウシュヴィッツの強制収容所における体験を著した『霧と夜』(1947)は名著と言われる。

 L.ビンスワンガー(Binswanger,Ludwig)
  現存在分析の創始者。
  人間は本来世界内存在、すなわち他との関係において初めて成り立つという人間観がある。

 E.T.ジェンドリン(Gendlin,E.T.)
  ロジャーズの弟子で、体験過程理論の概念の提唱者。
  体験過程とは、有機体内の感覚としては確かに感じ取れる心身未分化な体験の流れのこと。
  体験過程療法における主要技法にフォーカシングがある。

 J.L.モレノ(Moreno,J.L.)
  ソシオメトリーサイコドラマの創始者。

 F.S.パールズ(Perls,F.S.)
  ゲシュタルト療法の創始者。
  過去の体験や生育歴の探索ではなく、患者の「今、ここで」の体験と関係の全体性に重点を置く。


人間性心理学の基本的特徴

 ①人間性を全体的に理解する
 ②人間の直感的経験を重視する
 ③「今、ここ」で体験されるものや、個人にとって意味のあるものが重要である
 ④研究者もその場に共感的に関与する
 ⑤個人の独自性を中心におく
 ⑥過去や環境より価値や未来を重視する
 ⑦人間独自の特質、選択性、創造性、価値判断、自己実現を重視する
 ⑧人間の健康的で積極的な側面を強調する

                                など

これらの考え方は、健常者の人格成長や自己開発にも貢献しうる。
教育や成長を目的とした集団療法もこの流れをくむものが多い(エンカウンターグループなど)。

批判を受ける点

 ①知性を軽視し、感情を重視しすぎる
 ②自己決定の力が過度に強調されている
 ③科学的探究に対する不信と否定がみられる
 ④主観的現象を記述する概念の定義が不明確である
 ⑤共感的態度だけでは永続的な効果は望めないと考える
 ⑥人間の持つ悪や影の部分が見落とされる

                               など

人間性心理学に依拠した実践(療法

 Tグループ training group
  人間関係訓練の一つで、感受性訓練(sensitivity training ; ST)、
  ラボラトリー・トレーニング等とも呼ばれる。
   ・防衛機制の撤廃
   ・いま・ここ(here and now)の現実を生きることの体験
   ・現場への応用
              を目的とする

 エンカウンター・グループ encounter group
  自己成長を目指し、一時的に10人前後のグループを形成し、数日間合宿生活をする中で
  お互いの人間性をぶつけ合うような課題を経験する。


自己理論

 来談者中心療法を発展させたC.R.ロジャーズは、人間が本来的に持っている実現傾向、成長能力や適応能力を重視し、この発現を促進する条件としてカウンセリングやエンカウンター・グループにおける受容共感を重視した。
 ロジャーズの自己に関する理論は自己理論と呼ばれ、クライエントの不適応状態を理想自己現実自己のずれとしてとらえる。
 この両方の自己を受容しともに生きることでずれを解消する方向に向かう傾向を実現傾向と呼んだ。
*理想自己と現実自己の一致そのものではなく、両者が受容されることが重視される。

2013年2月8日金曜日

行動主義 behaviorism



概略
 
 ワトソンが提唱した現代心理学における基本的方法論の一つ。
科学的心理学とは行動の科学であり、その研究対象は客観的測定の不可能な意識ではなく直接観察可能な行動であり、その目的は刺激=反応関係における法則性の解明であるとする立場。
ワトソンは、内観法による意識心理学を否定し、他の自然科学と方法論を共有するためには、心理学は客観的な行動を対象とするべきだと主張した。
この理論の背景にはダーウィンの進化論パヴロフの条件反射説、デューイやエンジェルらの機能主義心理学の影響とされる。
また、行動主義では、心理学の目的は行動の予測と制御であるとされ、物理的刺激と個体の全体的活動の関係が研究された。
内省に頼らずに実験が行えるため、乳幼児や動物も等しく研究対象とすることが可能となり、学習理論の発達を導いた。
心理的現象を刺激と反応の分析単位(S-R)から探求する方法論的行動主義の流れは、刺激と反応の間に行動的な変数(媒介変数)を仮定する新行動主義へと発展した。


定義
 心理学の研究法や説明に行動的な変数を用いることを求め、刺激と反応の関係における法則性の解明を目的とする立場。


提唱者
 ワトソン(J.B.Watson)
 
行動主義の先駆者

 パブロフ(Pavlov,I.P.)
  古典的(レスポンデント)条件付け理論 提唱

 ソーンダイク(Thorndike,E.L.)
  道具的(オペラント)条件付け理論 提唱

ハルトールマンガスリースキナーといった人物が独自の理論を展開し、発展させたものは
のちの新行動主義とよばれるものである。


行動理論 behavior theory

 客観的に観察可能な行動のみを心理学の研究対象とすべきであるというワトソンの行動主義心理学は、心理学のおもな一研究分野をなすようになった。
おもに動物を被験体として、特に行動の学習メカニズムや学習現象について実験研究が進められ、さまざまな学習理論が提唱されるようになるが、
学習メカニズムを「刺激と反応の結びつき」で説明するワトソンの流れをくむS-R説(行動主義)と、
学習メカニズムをたんに刺激と反応の結びつきだけで説明するのでなく、そこに有機体内部の諸要因を組み入れるS-O-R説(新行動主義)といわれる学習理論の2つの考え方が展開されていった。
この一連の学習理論を行動理論という。

1970年代になり、バンデューラ(Bandura, A.)によって提唱された社会的学習理論は、認知要因を組み入れたきわめてすぐれた行動理論として従来の行動理論に影響を与え、現在では認知的要因を重視する行動理論が広く展開されつつある。



行動療法 behavior therapy

 行動理論を理論的基盤として心理治療論と治療技法を展開したのが行動理論である。
精神分析理論の考え方、つまり「問題行動の根底に無意識な関与を仮定する」ことへの科学的実証性の疑問、そのことによる精神分析理論の妥当性への疑問、ひいてはその治療効果について疑問を投げかけた。
行動療法は、学習心理学の分野で実験などを通して構築されてきた学習理論を理論的基盤とする治療論と治療技法を提唱した。
定義は研究者により異なるが、共通する内容は「実験によって証明された現代学習理論あるいは行動理論の活用による行動変容法」である。
初期の行動療法は、行動理論(動物実験によって構築された学習理論)に基づいて体系化されたものであった。
1970年代以降、認知要因を重視する行動理論に影響を受け、認知行動療法へと展開していった。

 ・リンズリーら(Lindsley, O.R. et al.)
  精神疾患患者の行動形成にオペラント条件付けの手続きを応用した研究報告を公表し、そのなかで行動療法という用語を初めて用いた。

 ・アイゼンク (Eysenck, H.J.)
  様々な学習理論(行動理論)を応用した神経症や不適応行動の行動変容法を包含して、行動療法という語を用いた。

 ・ラザルス(Lazarus, A.A.)
  治療の焦点を不適応行動そのものにおき、行動そのものを修正するということで行動療法という名称を用いた。