2013年2月11日月曜日

人間性心理学 humanistic psychology


概略


人間を無意識に支配されているとする精神分析や、外的環境に支配されているとする行動主義に対して、人間を自由意志を持つ主体的な存在としてとらえる立場。
個人の独自性と自由性を重視し、個人への共感的関与を特徴とする。
アメリカでは1960年代以降、西海岸を中心にして急速に広まった。
マズロー(Maslow,A.H.)はこれを、精神分析と行動主義の二大勢力に対して第三勢力(の心理学)と呼んでいる。
人間性心理学に基づく心理療法はクライエントの主体性と自由を強調し、治療へのクライエントの責任を明確にし、それまでの心理療法各派への大きな影響を与えた。
実存主義的心理療法も人間性心理学として分類されることがある。



代表人物 例

 A.H.マズロー(Maslow,A.H.)
  自己実現の概念の提唱者。
  階層的動機論で自己実現欲求を明らかにし、欲求階層説を提唱した。
  また、人間性心理学の立場を第三勢力と呼んだ。

 C.R.ロジャーズ(Rogers,C.R.)
  クライエント中心療法の創始者。
  受容共感を重視した。

 A.アドラー(Adler,A)
  個人心理学の創始者。
  人間性心理学の立場の先駆者として、人間が主体的に決断しうる存在であることを強調した。

 V.E.フランクル(Frankl,V.E.)
  実存分析、およびロゴテラピー(Logotherapie)の提唱者。
  アウシュヴィッツの強制収容所における体験を著した『霧と夜』(1947)は名著と言われる。

 L.ビンスワンガー(Binswanger,Ludwig)
  現存在分析の創始者。
  人間は本来世界内存在、すなわち他との関係において初めて成り立つという人間観がある。

 E.T.ジェンドリン(Gendlin,E.T.)
  ロジャーズの弟子で、体験過程理論の概念の提唱者。
  体験過程とは、有機体内の感覚としては確かに感じ取れる心身未分化な体験の流れのこと。
  体験過程療法における主要技法にフォーカシングがある。

 J.L.モレノ(Moreno,J.L.)
  ソシオメトリーサイコドラマの創始者。

 F.S.パールズ(Perls,F.S.)
  ゲシュタルト療法の創始者。
  過去の体験や生育歴の探索ではなく、患者の「今、ここで」の体験と関係の全体性に重点を置く。


人間性心理学の基本的特徴

 ①人間性を全体的に理解する
 ②人間の直感的経験を重視する
 ③「今、ここ」で体験されるものや、個人にとって意味のあるものが重要である
 ④研究者もその場に共感的に関与する
 ⑤個人の独自性を中心におく
 ⑥過去や環境より価値や未来を重視する
 ⑦人間独自の特質、選択性、創造性、価値判断、自己実現を重視する
 ⑧人間の健康的で積極的な側面を強調する

                                など

これらの考え方は、健常者の人格成長や自己開発にも貢献しうる。
教育や成長を目的とした集団療法もこの流れをくむものが多い(エンカウンターグループなど)。

批判を受ける点

 ①知性を軽視し、感情を重視しすぎる
 ②自己決定の力が過度に強調されている
 ③科学的探究に対する不信と否定がみられる
 ④主観的現象を記述する概念の定義が不明確である
 ⑤共感的態度だけでは永続的な効果は望めないと考える
 ⑥人間の持つ悪や影の部分が見落とされる

                               など

人間性心理学に依拠した実践(療法

 Tグループ training group
  人間関係訓練の一つで、感受性訓練(sensitivity training ; ST)、
  ラボラトリー・トレーニング等とも呼ばれる。
   ・防衛機制の撤廃
   ・いま・ここ(here and now)の現実を生きることの体験
   ・現場への応用
              を目的とする

 エンカウンター・グループ encounter group
  自己成長を目指し、一時的に10人前後のグループを形成し、数日間合宿生活をする中で
  お互いの人間性をぶつけ合うような課題を経験する。


自己理論

 来談者中心療法を発展させたC.R.ロジャーズは、人間が本来的に持っている実現傾向、成長能力や適応能力を重視し、この発現を促進する条件としてカウンセリングやエンカウンター・グループにおける受容共感を重視した。
 ロジャーズの自己に関する理論は自己理論と呼ばれ、クライエントの不適応状態を理想自己現実自己のずれとしてとらえる。
 この両方の自己を受容しともに生きることでずれを解消する方向に向かう傾向を実現傾向と呼んだ。
*理想自己と現実自己の一致そのものではなく、両者が受容されることが重視される。

2013年2月8日金曜日

行動主義 behaviorism



概略
 
 ワトソンが提唱した現代心理学における基本的方法論の一つ。
科学的心理学とは行動の科学であり、その研究対象は客観的測定の不可能な意識ではなく直接観察可能な行動であり、その目的は刺激=反応関係における法則性の解明であるとする立場。
ワトソンは、内観法による意識心理学を否定し、他の自然科学と方法論を共有するためには、心理学は客観的な行動を対象とするべきだと主張した。
この理論の背景にはダーウィンの進化論パヴロフの条件反射説、デューイやエンジェルらの機能主義心理学の影響とされる。
また、行動主義では、心理学の目的は行動の予測と制御であるとされ、物理的刺激と個体の全体的活動の関係が研究された。
内省に頼らずに実験が行えるため、乳幼児や動物も等しく研究対象とすることが可能となり、学習理論の発達を導いた。
心理的現象を刺激と反応の分析単位(S-R)から探求する方法論的行動主義の流れは、刺激と反応の間に行動的な変数(媒介変数)を仮定する新行動主義へと発展した。


定義
 心理学の研究法や説明に行動的な変数を用いることを求め、刺激と反応の関係における法則性の解明を目的とする立場。


提唱者
 ワトソン(J.B.Watson)
 
行動主義の先駆者

 パブロフ(Pavlov,I.P.)
  古典的(レスポンデント)条件付け理論 提唱

 ソーンダイク(Thorndike,E.L.)
  道具的(オペラント)条件付け理論 提唱

ハルトールマンガスリースキナーといった人物が独自の理論を展開し、発展させたものは
のちの新行動主義とよばれるものである。


行動理論 behavior theory

 客観的に観察可能な行動のみを心理学の研究対象とすべきであるというワトソンの行動主義心理学は、心理学のおもな一研究分野をなすようになった。
おもに動物を被験体として、特に行動の学習メカニズムや学習現象について実験研究が進められ、さまざまな学習理論が提唱されるようになるが、
学習メカニズムを「刺激と反応の結びつき」で説明するワトソンの流れをくむS-R説(行動主義)と、
学習メカニズムをたんに刺激と反応の結びつきだけで説明するのでなく、そこに有機体内部の諸要因を組み入れるS-O-R説(新行動主義)といわれる学習理論の2つの考え方が展開されていった。
この一連の学習理論を行動理論という。

1970年代になり、バンデューラ(Bandura, A.)によって提唱された社会的学習理論は、認知要因を組み入れたきわめてすぐれた行動理論として従来の行動理論に影響を与え、現在では認知的要因を重視する行動理論が広く展開されつつある。



行動療法 behavior therapy

 行動理論を理論的基盤として心理治療論と治療技法を展開したのが行動理論である。
精神分析理論の考え方、つまり「問題行動の根底に無意識な関与を仮定する」ことへの科学的実証性の疑問、そのことによる精神分析理論の妥当性への疑問、ひいてはその治療効果について疑問を投げかけた。
行動療法は、学習心理学の分野で実験などを通して構築されてきた学習理論を理論的基盤とする治療論と治療技法を提唱した。
定義は研究者により異なるが、共通する内容は「実験によって証明された現代学習理論あるいは行動理論の活用による行動変容法」である。
初期の行動療法は、行動理論(動物実験によって構築された学習理論)に基づいて体系化されたものであった。
1970年代以降、認知要因を重視する行動理論に影響を受け、認知行動療法へと展開していった。

 ・リンズリーら(Lindsley, O.R. et al.)
  精神疾患患者の行動形成にオペラント条件付けの手続きを応用した研究報告を公表し、そのなかで行動療法という用語を初めて用いた。

 ・アイゼンク (Eysenck, H.J.)
  様々な学習理論(行動理論)を応用した神経症や不適応行動の行動変容法を包含して、行動療法という語を用いた。

 ・ラザルス(Lazarus, A.A.)
  治療の焦点を不適応行動そのものにおき、行動そのものを修正するということで行動療法という名称を用いた。

2013年2月6日水曜日

精神分析&精神分析療法 psychoanalysis & psychoanalytical therapy



概略


パーソナリティの機能および構造に関する理論であり、かつ特殊な心理療法的技法であって、この理論の他の学問への適応をも含むもの。
S.フロイトが創始した心理学理論であり、その理論に基づく心理療法であって、人間心理の研究方法でもある。
主要な理論として、局所論構造論力動論エネルギー経済論発達論適応論などがある。
特に局所論は精神分析学の基本であり、人間の行為の背景に無意識を想定するものである。
失錯行為や夢の内容、神経症症状などの精神現象は一見明確な原因がないようにみえるが、その原因が無意識内に存在するために意識からは因果関係がわからないだけである。
ゆえに精神分析では、意識に現れた事象を分析することで無意識にアクセスし、症状の原因を明確化することが治療機序となる。
また精神分析療法は、基本的には現在みられる心理的問題の背景に過去の発達段階で未解決な心的な問題が存在すると仮定する。
一般に夢や自由連想法によって得られた資料が分析の対象となり、防衛機制転移の解釈を通して無意識の自己理解をすすめる。
患者の健康な自我の主体性を期待し、適応ではなく、精神内界や人格の再構成を目標とする。




定義
精神分析についての定義は、研究者により異なる

 S.フロイト Freud, Sigmund (精神分析学の創始者)
  「(人の)内部に抑圧されている精神的なものを意識化する仕事」
    ⇒無意識の深層を研究する学問と定義

 A.フロイト Freud, Anna 
  「深層心理学すなわち精神分析ではなくイド自我超自我の三つの部分について完全な知識を得ることが精神分析の課題である」
  ⇒古典的な精神分析から自我心理学へ発展した証左
   対人関係論対象関係論へと発展

(国際精神分析学会第30回大会(1977)での定義)
  「パーソナリティの機能および構造に関する理論であり、かつ特殊な心理療法的技法であって、この理論のほかの学問への適応をも含むものである。この学問はジグムント・フロイトによる非常に重要な心理学的発見を基盤としている」




創始者

S.フロイト Freud, Sigmund(1856-1939)

 後に多くの分析家が独自の理論を展開、発展させていく。

 フロイトは神経学者シャルコー(Charcot, J.M.)ベルネーム(Bernheim, H.M.)のもとで研究を進めていたが、ヒステリー性の神経症状が催眠暗示によって消失することから、本人の意識されていない感情や欲求の存在を確信するし、カタルシスによる心理治療を行った。
しかし、「多くの神経症者はどんな方法によっても催眠されえない」という事実から、催眠とは違う新しい浄化法を考えることとなり、自由連想法が開発された。
さらに意識の統制が弱まる睡眠中の夢も無意識を知る素材を提供してくれるものとして、夢分析も重視された。



S.フロイトの主要な理論 (精神分析の基本的見地)
局所論
  心理的過程は意識、前意識、無意識からつくられているという考え
   意識 consciousness
    これは私の経験だと感じることのできること。意識内容は当人のみ経験する。

   前意識 preconscious
    意識されてはいないものの、思いだそうと注意を向ければ思いだせるもの。
    いつでも意識のなかに入り込める。

   無意識 unconscious
    現実には認めがたい欲望や感情、思考などが強く抑圧され意識には上がってこないもの。
    

構造論
  心を心的装置(超自我(スーパーエゴ)、自我(エゴ)、イド(エス))として捉える

   超自我 super ego
    良心あるいは道徳的禁止機能を果たす人間の精神分析構造の一部。
    快楽原則に従う本能的欲動を検閲し抑圧する。

   自我 ego
    認知、感情、行動などの精神諸機能を統制、統合する心的機関。意識の中心。

   イド id
    本能的性欲動(リビドー)の源泉。快楽原則に支配され、無意識的である。
    一次過程と呼ばれる非論理的で非現実的な思考や、不道徳で衝動的な行動をもたらす。

力動論
  さまざまな心理的現象は、心理的な力関係によって生み出される。

(エネルギー)経済論
  性的欲動である精神的エネルギー(リビドー)を仮定し、
  その充当や対象への分配などから種々の不適応や防衛機制を考える。

発達論
  自我、イド、超自我の相互関係やエネルギー分配の様態を
  幼児から成人へという発達の中で捉え、逆方向を退行と考える。

適応論
  対人関係や社会への適応という視点から心理学的現象を考える。



精神分析療法 psychoanalytical therapy

 S.フロイトの創始した心理療法であるが、広義には寝椅子や自由連想法などを採用しない、精神分析理論を援用した心理療法をも意味することもある。
浄化法カタルシス)から発展してきたもので、無意識的な存在と意識とを疎通させ、患者がこれまで行ってきた自動的な不快支配の結果拒否し(抑圧し)てきたもの(無意識的なもの)を、(意識化して)もっとよく洞察しようという動機にはげまされて、(抵抗を克服し)抑圧されたものを意識的に受け入れるようにそのような患者の変化を意図した治療法である。 
つまり、人間の心を理解しようとする治療法であり、人の感情や思考、行動などは無意識によって規定されていると考え、その無意識を意識化することで人を悩みから解放しようとする治療法である。
フロイトの精神分析療法は、その後の後継者によってさまざまに分岐していくが、基本的には現在みられる心理的問題の背景に、過去の発達段階で未解決な心的な問題が存在すると仮定する。
治療者との関係のなかで生じる感情転移や、抵抗を見出し、その解釈を通して患者の洞察を促す。
精神分析療法において、自由連想法を基本原則としており、治療者は、患者の話しに傾聴するとともに、中立性を保ちながら、患者の無意識についての理解(解釈)を伝えていく。
一般に夢や自由連想法によって得られた資料が分析の対象となり、防衛機制や転移の解釈を通して無意識の自己理解をすすめる。


自由連想法 free association

 フロイトが創始した精神分析の技法で、精神分析療法の基本である。
1890年代に無意識の探索手段としてそれまで用いていた催眠技法の代わりに患者に心の中に思い浮かぶことを自由に語らせる方法を採用した。
この手段は催眠にかからない患者へも適応しうるものであるが、通常患者は寝椅子に横になり、心に浮かぶこと(考え・記憶・感情など)を話すよう求められる。
そのときに語られる内容が分析の素材であり、患者の隠された無意識の現れとしている。
治療の過程で生じてくる抵抗転移に対し、治療者が技法的な中立性の立場で直面化、明確化、解釈を与えることにより、患者の洞察、無意識の意識化が得られるように促していく。



転移(感情転移) transference

 過去の体験が現在の人間関係のなかに反復強迫的に持ち越されること。
フロイトは、精神分析の面接過程が進むにつれて、患者が治療者に向ける肯定的・否定的感情(多くは患者が過去に誰か(多くは両親)に向けた、または向けることのできなかった感情)を治療者に置き換えて向けること転移と呼んだ。
転移は患者が持っている心理的問題と深い結びつきがあることが観察されたことから、その転移の出所と、かつて誰に向けたものであったかを解釈することで、治療的に活用できるとし、
フロイトは「転移という現象は精神分析療法中に必然的に生じる」と考えた。
また、転移によって患者が治療者に憎しみや敵意をいだく場合を陰性転移と呼び、一方で患者が治療者に好意や愛情を抱く場合のことを陽性転移と呼ぶ。
患者が幼児期の人間関係に由来した感情を治療者に向けるのが転移であるが、逆に治療者が同様な感情を患者に向ける場合を逆転移という。



リビドー libido

 人間に本来備わっている、性欲動を意味する精神エネルギーのこと。
このエネルギーが限局される身体部位によって口唇期、肛門期、男根期(エディプス期)、性器期といった心理=性的発達段階を唱えた。
なお、ユングの場合は性的なものではなく、活動源としての一般的な心的エネルギーを意味する。


夢分析 dream analysis

 フロイトは夢が主体の心理的世界をよく表していると考えて科学的な対象とした。
睡眠という意識の統制が弱まった状況下で抑圧されていた無意識が浮上してきたものであり、自由連想法とともに、「夢判断は無意識を知る王道である」とした。
そして、ばらばらでまとまりのない夢も実際はある意味を担っており、読解されるべき心理的現象であるとした。
また、夢は無意識的な願望充足であると考え、構成された夢(顕在的夢思考)から、夢の持つ隠された内容(潜在的夢思考)を引き出そうとした。
 一方,ユングの夢分析では、夢はを目的論的視点から理解しており、過去の妥協の産物としてよりも、ときには将来を示す集合的無意識からのメッセージとみなしている。



精神分析学から派生した諸学派


新フロイト派  neo-Freudian

 S.フロイトのリビドー論に拠った生物学的立場よりも、文化人類学やコミュニケーション理論の影響を受けた、社会的・文化的要因を重視した学派である。
フロム(E.Fromm)ホーナイ(K.Horney)サリヴァン(H.S.Sullivan)フロム-ライヒマン(Fromm-Reichmann, F.)など、1930年代から40年代にかけてのアメリカの一群の精神分析家たちをさす。
エディプス葛藤を認めない母系民族社会の存在を明らかにしてフロイトの汎性欲説の普遍性に疑問を投げかけたM.ミードなどの、文化人類学やコミュニケーション理論を援用しているところに特徴がある。
そのため、力動的・文化的精神分析学(dynamic-cultural psychoanalysis)と呼ばれている。
新フロイト派は、各人はフロイトの仮説に反対しているが、それぞれが強調する点が違い、また、ひとつの理論や技法に限定して縛らない点、違いを認めながらさらに理論を展開して統合する力を示している点などが特徴である。


個人心理学 individual psychology

 
 アドラー(Adler, A.)によって創始された心理学体系で精神分析の一派。
人格の全体性や社会的視点を重視した理論である。
S.フロイトが性欲を重視するのに対し、アドラーは劣等感(器官劣等)を重視した。
人間の基本的動機づけとして劣等感を補償するための権力への意思を強調し、人間を動かす根本的な欲求であると捉え、フロイトの性欲説を批判した。
また、フロイトが神経症の原因として過去の生活史に着目したのに対し、
アドラーは人間行為の目的性に注目し未来志向的観点から神経症を理解すべきだと主張した。


深層心理学 depth psychology

 より表層的な意識の部分と深層の無意識という精神の階層構造論の立場から、意識よりも無意識によって人間の行動が左右されているとみる立場。
特にユング(Jung, C.G.)が確立した分析心理学(ユング心理学)において、無意識は個人的無意識と集合的無意識(普遍的無意識)からなると主張し、集合的無意識における元型を重視した。
また、素質的な根本的態度の型である、内向―外向や、心理機能として思考―感情、感覚―直感を区別し、これらの組み合わせによる8つの類型から独自のタイプ論を展開した。


自我心理学 ego psychology

 S.フロイトが仮定した心的装置であるイド、自我、超自我のうち、特に自我の重要性を強調する学派。
ハルトマン(Hartmann, H.)E.H.エリクソン(E.H.Erikson)に代表される。
また、A.フロイトは防衛機制論を発展させ、自我の健康的な働きを強調して精神分析的自我心理学の基礎をつくり、さらに精神分析を子供に適用して遊戯療法の基礎をうちたてた。
新フロイト派の立場も取り入れたE.H.エリクソンはアイデンティティ理論を唱えた。


対象関係論 object relations theory

 個体の精神内界に形成される内的対象との間で発展する対象関係(内的対象関係)を重視する。
 自我と対象の関係のあり方の特徴を重視して人間の精神現象を理解しようとする立場。
つまり、対象を生物学的な本能充足の手段として理解するS.フロイト精神分析を基礎としたそれまでの立場に対し、自我は本来、対象希求的なものであるとし、自我と対象との関わりを一義的なものと考える立場である。
クライン(Klein, M.)ウィニコット(Winnicott, D.W.)ガントリップ(Guntrip, H.)らによって発展させられていった。

2013年2月5日火曜日

作業検査法



概略

きわめて単純な作業を一定時間課し、作業量の推移に着目して気質、性格を測定・診断する方法。
被験者が作業を行う際の緊張、興奮、慣れ、練習効果、疲労、混乱、欲求不満などが性格を反映するという前提に基づく。


特徴
 長所
  ・実施が容易
  ・適用範囲が広い
  ・言語を媒介としない
  ・反応の意図的歪曲が起こりにくい
  ・結果の数量化ができる

 短所
  ・解釈が主観的になりやすい
  ・主に人格の意思的側面に限られる
  ・被験者に苦痛感を与える
  ・作業課題への意欲の有無が検査結果に影響する


種類 例

 内田=クレペリン精神作業検査 Uchida-Kraepelin Performance Test
  隣り合う2つの1桁数字の連続加算を被験者に行わせ、その作業量と水準と作業曲線の形状の評価を行う検査。15分検査ののち5分の休憩をはさみ、その後再度15分検査を行う。

 ベンダー・ゲシュタルト検査 Bender Visual Motor Gestalt Test
  視覚・運動形態機能を測定するための検査。被験者にさまざまな模様・図形を描写させ、その正確さ、混乱度、描画方法などが査定される。

2013年2月1日金曜日

質問紙法 questionnaire method


概略

 調査対象者や被験者に自らの属性、心理状態、行動傾向などを回答させる方法のうち、特に質問紙によって回答を求める方法。
特定個人を診断したり、特定集団あるいは人間の行動を理解するのに使用する。
後者のような研究目的で使用する場合は特に質問紙調査法と呼ばれる。
あらかじめ設定された選択肢のなかから回答する形式と、回答欄に自由に文章を記入する形式(自由回答法;free answer; open-ended  question)とがあり、実験室実験個別面接調査集合調査留置調査郵送調査などにおいて用いられる。

質問の主文や選択肢のワーディング(wording;言い回し)が非常に重要で、不適切な用語法や偏向した文章があると誘導質問となってしまう。
そのため、予備テストを実施し、あいまいな言葉や専門用語、二重否定などによる難しい文章、キャリーオーバー効果(前の質問内容・存在が後続質問への回答に及ぼす影響)の有無、ダブルバーレル質問の存在などについてチェックする必要がある。
また、濾過質問(filter question)によって非該当者への質問を行わないような配慮も必要である。

回答者によって黙従傾向(yes-tendency; acquiescence)を示す場合がある。


語句説明

キャリーオーバー効果 carry-over effect
 前の質問の内容・存在が後続質問への回答に及ぼす影響。
 それまでの自分を肯定するかたちの言動を取りやすい傾向を指す。

ダブルバーレル質問 double-barreled question
 2つの別の論点を含み、そのうちどちらが強調されているのかを回答者が識別できないような質問。
 二重質問ともいう。
 対象が複数あるパターンや、行動と動機のどちらを聞かれているのか区別できないパターンが代表的。

濾過質問 filter question
 一般的な質問から徐々に調べたい質問に焦点をしぼっていく手法

黙従傾向 yes-tendency; acquiescence
  質問内容とは無関係に反対より賛成(否定より肯定)を選択する傾向



定義

 ・調査対象者や被験者に自らの属性、心理状態、行動傾向などを回答させる方法のうち、特に質問紙によって回答を求める方法。
 ・構造化された質問項目に被験者が自ら答えていく方法。


特徴

 長所
  ・低コストで、かつ実施が容易
  ・採点や結果の数量化が容易にできる
  ・結果の解釈に主観が入りにくい
  ・一度に多数の回答者を対象に実施可能
  ・回答が研究者(調査者)の存在による影響を受けにくい
  ・状況と行動を媒介する内的事柄に関する情報が得られる

 短所
  ・質問項目に対する理解が被験者によって異なる可能性がある
  ・反応(回答)の歪曲が起こりやすい
  ・観察法に比べ言語以外の反応、回答状況、行動経過などを記録できない
  ・面接法に比べ対象や状況ごとに質問形式や内容を変化させることができない
  ・回答者の言語能力に依存する


調査方法

①郵送調査法
 質問紙と返送用封筒を郵送して、一定期日までに回答を返送してもらう。

②留置調査法
 戸別訪問をして質問紙を配布し、一定期日までに回答してもらい、回収にまわる。

③集合調査法
 一定の場所に集合している対象者に質問紙を配布して説明し、その場で回答を求める。

④面接調査法
 面接によって質問紙に従った質問をし、面接者が回答を記入する。

⑤電話調査法
 対象者に電話して質問紙に従った質問を行い、回答を記入する。


種類 例

矢田部=ギルフォード性格検査(Yatabe-Guilford Personality Inventory; Y-G性格検査)
 12の下位尺度ごとに10問計120問の質問項目から構成される性格検査。

ミネソタ多面人格目録(Minesota Multiphasic Personality Inventory; MMPI)
 4妥当性尺度と10臨床尺度、550項目から構成される性格検査。

顕在性不安尺度(Manifest Anxiety Scale; MAS)
 MMPIのなかの50項目を選び出し作成した尺度。被験者の不安水準を測定する一般的な方法。

モーズレイ性格検査(Maudsley Personality Inventory; MPI)
 外向性‐内向性次元と情緒の安定性に関わる神経症傾向の二次元から測定される。全80項目。

コーネル・メディカル・インデックス(Cornell Medical Index; CMI)
 初診時に短時間で患者の状態を把握するための問診表として作成されたチェックリスト。
 スクリーニングとして実施されることが多い。

エゴグラム(egogram)
 心のなかに親・大人・子どもの三つの自我状態の存在を仮定し、それによってパーソナリティの特徴をとらえることを目的とする。
 東大式エゴグラム(TEG)など、いくつかの種類が開発されている。

EPPS性格検査(Edwards Personal Preference Schedule)
 マレーの欲求理論に基づき、その顕在性欲求リストを取り入れて作成した質問紙法性格検査。
 社会的望ましさの程度がほぼ等価な2つの項目のうちいずれかを強制的に選択させる。

など

自己効力感 self-efficacy



概略

 バンデューラ(Bandura, Albert)によって提唱された概念で、自分が行為の主体であると確信していること、自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信のこと。
ある行動がどのような結果を生み出すのかという 結果予期(Outcome expectancy)と、ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことが出来るのかという効力予期(efficacy expectancy)の2つに区分される。
自己効力感を発達的視点から捉えることも重要であり、子どもの自己認知の発達水準や、その時の親や教師などとの関わりに応じて、自己効力感の様相は異なってくる。
また、自己効力感の高い子供は、自分が努力すれば環境や自分自身に好ましい変化を生じさせようという見通し信念の下で、生き生きと周りの環境に働きかけ、充実した生活を送ることが出来る。


定義
 自分の遂行能力や学習能力にかかわる自信や信念のこと


提唱者
 バンデューラ (Bandura,Albert)
   カナダの心理学者



自己効力感の起源

達成体験
  最も重要な要因で熟達の経験。成功は個人的な効力感の確固とした信念を作りあげ、失敗経験は特に効力感が確立されていない場合には効力感を低めてしまう。

代理経験
  社会的なモデリング(他者の何かの達成や成功を観察すること)。モデルはコンピテンスと動機づけの期限として役立つ。自分に似た他人が持続的な努力で成功するのを見れば、自分自身の可能性についての確信を強めることになる。

言語的説得
  社会的な説得(自分に能力があることを言語的に説明されること、言語的な励まし)による影響。自己効力感を持った行為について、それが認められ励ましを受ければ、より努力をするようになり、それが成功の機会を高める。

生理的情緒的高揚
  たとえば酒、薬物、その他の要因によって気分が高揚するというように、自分の生理的な状態にも部分的にではあるが依存している。生理的な過剰反応を減らしたり、自分の生理的な状態の解釈の仕方を変えることで自己効力感を強める。

想像的体験
  自己や他者の成功経験を想像すること



自己効力感の3タイプ

・自己統制的自己効力感
・社会的自己効力感
・学業的自己効力感

 



自己効力感が統制する人間の行動の仕方
 
 

 ①認知的側面
   自分の能力がどれだけあるか、自分の目標を設定する仕方を決定する。

 ②動機づけ的側面
   その後の結果を予測し、目標の設定を決定する。
   自己効力感が達成の努力や肯定的な生き方の必要条件になっている。

 ③情動的側面
   自己効力感は個人的な情動経験の性質や強度、不安や自己統制のあり方を決定する。

 ④選択的側面
   自己効力感のもてる領域を選んで、そこで挑戦的な生き方をとろうとする。



自己効力感の構成

 自己効力感は大きさ(magnitude)強さ(strength)一般性(generality)の三次元で構成されている。

・大きさ
 どの程度の難しさの課題まで遂行可能であるかの期待の次元

・強さ
 ある課題での行動をどの程度の強さで遂行可能であるかの期待の次元

・一般性
 特定の課題に対する自己効力感と特定の課題を求めない一般的場面での自己効力感を結ぶ次元



コンピテンス competence

 言語心理学や認知心理学の分野では、実際の行動や成績(パフォーマンス)に対して、潜在的能力を意味することが多い。たとえば、チョムスキーは、外部に反応として現れる元号運用と区別して、運用者の内部の根底にある言語能力をコンピテンスと呼んだ。
 発達心理学において使用される場合、人にすでに備わっている潜在的能力と、環境に能動的に働きかえて自らの「有能さ」を追求しようとする動機付けを一体としてとらええる力動的な概念を指す。

2013年1月31日木曜日

愛着 attachment




概略

 特定の対象に対する特別の情緒的結びつき(affectional tie)のこと、もしくは他の特定の人間(動物)と情緒的に結びつきたいという要求をもつ状態を指す。
愛着を形成する生得的傾性を有して人間は誕生すると考えるボウルビィは、生理的満足の源として母親に依存するという考えに基づいて用いられた依存(dependence)という概念を避け、これに代わる愛着(attachment)という新たな概念を提出した。
彼によると母親への愛着は、
①人に関心を抱くが、人を区別した行動は見られない段階、
②母親へ対する分化した反応が見られるが、母親の不在に対して泣くというような行動はまだ見られない段階、
③明らかに愛着が形成され、愛着行動がきわめて活発な段階、
④愛着対象との身体的接近を必ずしも必要としなくなる段階
の4つの段階を経て発達し、その間にその他の対象へも愛着の輪を広げていくとしている。
愛着は、子どもの愛着欲求に対する母親の応答性によって生後6ヶ月以内に発達する正常な絆である。この重要な時期におけるマターナル・デプリベーションは心理発達に問題をもたらす。



定義
 ・特定の対象に対する特別の情緒的結びつき
 ・他の特定の人間(動物)と情緒的に結びつきたいという要求をもつ状態


提唱者
  ボウルビィ Bowlby,John.

ボウルビィによる愛着発達の4段階
 ①人に関心を抱くが、人を区別した行動は見られない段階
   (誕生から12週まで。人を目で追う、微笑、人の声や顔を見ると泣き止むなど)

 ②母親へ対する分化した反応が見られるが、母親の不在に対して泣くというような行動はまだ見られない段階
   (12週から6か月まで。母親的な人物に向けて、より明確な人間指向的な行動が出現)

 ③明らかに愛着が形成され、愛着行動がきわめて活発な段階
   (6、7か月ごろから2,3歳ごろまで。母親を後追いする、戻ってきた母親を喜んで迎える、探索活動の基地として母親を活用するなど、移動の手段により、弁別された人物に対して、近接を保持する。一方、未知の人間に対しては、恐れや警戒を示すなど、人見知りをするようになる。一人の主たる養育者との接触が乏しい場合は、この段階の始まりが遅れることもある)

 ④愛着対象との身体的接近を必ずしも必要としなくなる段階
  (3歳前後から。母親の感情や行動の目的についての見通しができるようになり、母子間に目標―修正的なパートナーシップが形成される)

また、この発達の間にその他の対象へも愛着の輪を広げていくとしている。


愛着行動 attachment behavior
 …愛着の存在を示す具体的な行動。
  愛着対象のみに示され、病気の時や不安が高まっているときなどに活性化する特徴を持つ。

  ・信号行動
    微笑・発声・泣きといった信号を通して、接近や相互作用を求める行動

  ・接近行動
    接近・接触・後追いなど、自らが移動することで身体的接近や接触を能動的に求める行動



エインズワース(Ainsworth, M.D.S)による愛着の5つの特色

 ①愛情を暗に含んでいる
 ②特異的・弁別的である
 ③外的行動として示され観察可能である
 ④主体的な過程であって受動的ではない
 ⑤相手の感動を喚起する二方向的な過程である